大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年08月20日 | 植物

<2060> 余聞、余話 「レッドデータブックの絶滅危惧種に寄せて 」 (勉強ノートより)

        生きるとはあるは絶滅寸前種果して時の鋩に見ゆ

 今このブログに連載中の「大和の花」は、大和、つまり、奈良県の各地に赴き接して来た野生の花を主に選んで一日一花を目標に掲載しているもので、現在、三百種近くに及ぶが、掲載するに際し意識していることが何点かあり、その一つに絶滅が心配されている草木がある。これは2008年(平成二十年)に奈良県から出された2008奈良県版レッドデータブック『大切にしたい奈良県の野生動植物』を参考に、この調査報告の基準に照らし、説明に加えているものである。ということで、少しくこの2008年版の『大切にしたい奈良県の野生動植物』の植物編に触れて置かねばなるまいと思い、ここで触れることにした次第である。

 このレッドデータブックは哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、植物(維管束植物・植物群落)、昆虫類を対象に、各分野の研究者並びに専門家によって調査され、まとめられたもので、植物(維管束植物・植物群落)は昆虫類と合せ、A4版サイズ、約五百ページにまとめられ、そのほぼ三分の二が植物(維管束植物・植物群落)によって占められるというものになっている。

 調査は文献並びに標本に基づく調査と現地を踏査して行なう実地調査の両建てで進められ、平成十五年度から平成十九年度の五ヶ年を費やし、この分厚いレッドリストにまとめられた。選定基準は絶滅の危険性に関わるもの(個体数が減少傾向にあるもの、元来県内において希少であるもの、生育基盤が脆弱なもの)、国版や近畿地方版でとり上げられている絶滅危惧種の中で県内にも分布が見られるもの、学術的重要性に関わるもの、広く県民に親しまれ郷土を代表するもの等々に分けられている。

                   

 調査並びに作成の目的は、地域の自然特性を明らかにし、これをまとめて公表することによって多くの人の理解を得、郷土愛の高揚と自然保護思想の普及、啓発に繋がる。これに基づき、植物(維管束植物)に関しては次のように説明を加えている。概要を示せば、奈良県はわが国で数少ない海岸をもたない県の一つで、関西以西の本州で最高の標高1914.6メートルの山岳をもっていることを地勢的特徴としてあげ、寒温帯から暖温帯に生育する植物が多く見られる土地柄にあると指摘している。

 殊に特徴的なのは、県のほぼ中央を東西に流れる紀ノ川(県内では吉野川)を隔て、南部は概ね標高の高い紀伊山地の山岳地帯であり、北分は奈良盆地、大和高原、宇陀山地といった標高の低いところが広がりをもっていること。この地勢的な自然環境は豊かな植生に繋がっているが、そんな立地の環境下における植生にリスクもあり、そのリスクとしてイノシシやニホンジカなど野生動物による食害の影響をあげるとともに、開発や外来の帰化植物の占有による圧迫のリスクも指摘している。

 ほかにも従来から生育している植物の減少要因はあるだろうが、まず、大きい理由は気象条件の変化、野生動物による食害、更に人為的なリスクがこれに加わり、野生植物に打撃を与え、絶滅が懸念されている種も多くに上るというわけである。植物(維管束植物)の調査では、野生植物種目目録掲載種約3500種の中、絶滅種34(1)、絶滅寸前種256(7)、絶滅危惧種210(6)、希少種221(6)、情報不足種32(1)、注目種6(0)、郷土種1(0)の計760(22)という結果が示され、まことに多い数とパーセンテージであると見られる。( )内は野生植物種目録掲載種数に占める割合で、単位は%。

  この結果は前述した通り、2008年(平成20年)最終のものであり、今より10年前で、その後の変遷については2016年調査の結果が今年6月に公表されているようであるが、それより前にこの「大和の花」は連載を開始し、基準を2008年版に照らして来た関係上、今後も2008年版を基準に掲載して行くつもりにしていることを断って置かねばならない。直近の調査結果については今年公表の2016年版を見て頂きたいと思う。

 2016年調査の直近のものはまだ見ていないので、詳しくは言えないが、私が歩いた十年の間の印象をして言えば、ニホンジカの駆除が行なわれて以後、ミヤマモミジイチゴやカニコウモリなどに蘇りの群落が見られ、保護区域内では絶滅の進行を食い止めているところもうかがえるが、放置状態のところでは概ね絶滅危惧の懸念が高まっているように思われる。殊にススキの純血主義によるものか、シカの食害も見られる曽爾高原の豊かな植生の衰えが気になるところである。

  ホームページの記載によれば、懸念は増加しているようで、それだけ自然が失われていると言えようか。今後も調査の継続が必要に思われる。とともに、減少している在来種のある半面、増えている外来種の存在があり、この外来種の動向調査も必要ではないかと思われる。何故なら、植生は自然のバランスの上に成り立っており、在来種が外来種の影響を受けていると考えられるからである。 写真は2008奈良県版レッドデータブック『大切にしたい奈良県の野生動植物』と「大和の花」において参考にしている山渓ハンディ図鑑の一部。