大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年08月29日 | 植物

<2069> 大和の花 (305) ツユクサ (露草)                                              ツユクサ科 ツユクサ属

                           

 全国各地の道端や草地などで普通に見られる1年草で、茎の下部は地を這い、よく枝を分け、節ごとに根を下ろして増える。上部は斜上し、高さ30センチから50センチほどになり、群生することが多い。葉は長さ7センチ前後の卵状披針形で、基部は膜質の鞘になって茎を抱き、互生する。

  花期は6月から9月ごろで、露が降りる晩夏のころによく花を見る。花は葉と対生するように2つ折れになった舟形の苞に包まれた花序を出し、朝方1つずつ苞から咲き出て、夕方には萎んでしまう。所謂、1日花で、花弁は3個のうち2個が大きく鮮やかな青色で左右に開き、よく目につく。1個は下部にあり、白色で小さく目立たない。ときに全体が白い花も見られる。

  雄しべは6個あるが、長短あって雌しべの花柱を挟むように長く伸びる2個がよく花粉を出す。黄色い葯が目立つ短い3個は目印になるが、花粉を出さない仮雄しべで、残りの1個は中間にあって、少し花粉を出す。花は正面に見ると概ねシンメトリックになっていて、印象的である。

 ツユクサ(露草)の名は朝露を帯びて咲く印象による。この名は『枕草子』にも見えるので、結構古くから用いられている名であるが、より古くはつきくさ(月草・鴨頭草)と呼ばれ、『万葉集』にはこの名で9首に見える。所謂、ツユクサは万葉植物である。つきくさは花を摺り染めにした染料植物としての名で、花を衣に摺りつけた着草(つきくさ)によるとか、花を臼で搗いて汁を取ったことによる搗草(つきくさ)とも言われる。これを月草とは語感の一致によるものであろう。この名は和歌の雅びの精神に通じる。一方の鴨頭草とは漢名の鴨跖草(おうせきそう)に因むもので、中国では苞に包まれた花を鴨の足と見立てたが、日本では鴨の頭と見た。

  ツユクサで染めた青い其調の染めは褪色しやすく、これに1日花の移ろいやすい花のイメージを合せ、移り気な人の心に重ねた歌が多く見られる。これは『万葉集』の歌がさきがけで、つきくさはうつろふにかかる枕詞としても用いられて来た。万葉歌には次のような歌が見える。

      月草に衣いろどり摺らめどもうつろふ色というふが苦しさ                                  ( 巻7-1339 ・ 詠人未詳 )

 歌の意は「月草の花で着物を染めたいと思うけれども、褪せやすい色だというのが辛い」というほどであるが、その意の奥には、移り気な男の心の様変わりを心配し悩む女の気持ちが見え隠れする。歌は、所謂、比喩による相聞歌である。

 別名ではボウシバナ(帽子花)の名がよく知られるが、苞を被った花が帽子のように見えるからで、ツユクサの変種で知られるオオボウシバナ(大帽子花)の大きな帽子の花は、ツユクサの花染めが水に溶けやすく褪せやすいので、藍染めに圧されて廃れて行った中で、友禅の下絵の青花紙に用いられ、今も重宝され友禅の染めの世界に生き残っている。

 なお、ツユクサは薬用植物としても知られ、生薬名は漢名と同じく鴨跖草と称せられ、乾燥した全草を煎じて解熱、下痢止めに用いられる。 写真は群生するツユクサ(左)と露に濡れて咲く花(右)。 露草の移ろふ花に消ゆる露時の流れに身を置く定め

<2070> 大和の花(306 ムラサキツユクサ(紫露草)とトキワツユクサ(常磐露草) ツユクサ科 ムラサキツユクサ属

                   

  ムラサキツユクサ(紫露草)もトキワツユクサ(常磐露草)もツユクサと同じ単子葉植物で、ツユクサが1年草であるのに対し、この2つは常緑多年草である。ムラサキツユクサは北米から南米の一部を原産地にする外来種で、世界に広く帰化している。草丈は60センチほどになり、葉は剣状の肉厚で、スイセンの葉を思わせる。 花期は6月から9月ごろで、茎の上部に紫色から青色、白色、ピンク色の花弁3個の花をつけ、彩りがよいところから園芸用に改良されたものも多く、日本にも観賞用に持ち込まれた。大和(奈良県)では植栽されたものが野生状態に置かれているものをときおり見かける。

  一方、トキワツユクサは南米原産で、日本には昭和時代のはじめごろ観賞用として持ち込まれ、各地で野生化した。湿り気のある日陰に生え、草叢などでぐんせいするを見かけることがある。このため環境省は要注意外来生物に指定している。草丈は50センチほどで、葉は長卵形から長楕円形まで、先は尖り、互生する。花期は5月から6月ごろで、上部葉腋の花序に三角形の花弁3個からなる白い花をつける。写真はムラサキツユクサ(左)とトキワツユクサ(右)。 戦争の出来る国へと歩を進め来たる日本のゆゑの危ふさ 

<2071> 大和の花 (307) イボクサ (疣草)                                    ツユクサ科 イボクサ属

                      

  水田や湿地に生える単子葉植物の1年草で、高さは20センチから30センチほどになる。赤味を帯びる茎は枝分かれして横に這い、節から根を出して増える。葉は数センチの狭披針形で、互生し、基部は鞘となって茎を抱く。

   花期は8月から10月ごろで、上部の葉腋に細い柄を出し、直径1.3センチほどの下部が白色、上部が淡紅紫色の花を普通1個つける。花はツユクサと同じく1日花で、朝方開き、夕方には萎む。花が終わると花柄は曲がり、長さが1センチほどの楕円形の蒴果が垂れ下がる。

  本州、四国、九州、沖縄に分布し、大和(奈良県)でも稲が穂を垂れるころ水田の脇などで群生し、花を見せる。なお、イボクサ(疣草)は薬用植物にはあげられていないが、この草の汁を疣につけると、疣が取れるとして、この名がつけられたと言われ、イボトリグサ(疣取草)とも呼ばれる。  写真はイボクサ。   踏む道は去年(こぞ)に変はらぬ道なれど齢を負ひて歩く道なり

<2072> 大和の花 (308) ヤブミョウガ (薮茗荷)                               ツユクサ科 ヤブミョウガ属

          

  山野の林内や林縁の薮になったところに生える多年草で、草丈は50センチから1メートルほどになる。葉は長さ15センチから30センチほどの狭長楕円形で、基部は鞘状になって茎を抱く。この葉がショウガ科のミョウガ(茗荷)に似るのでこの名がある。花期は8月から9月ごろで、真っ直ぐ立つ茎頂に白色の小さな3弁の花を円錐状に輪生して多数密につく。実は小球形の液果で、熟すと濃青紫色に色づきよく目につく。

  本州の関東地方以西、四国、九州、沖縄に分布し、大和(奈良県)には多く、山辺の道を歩くとときに群生するのが見られる。なお、漢名は杜若で、これを「かきつばた」と読めばアヤメ科のカキツバタであり、「とじゃく」と読めばヤブミョウガということになる。漢方では杜若(とじゃく)の汁を毒虫に刺されたり蛇に噛まれたたりした際の塗りに用いる。 写真はヤブミョウガ。林縁に見える群生の花(左)。花序のアップ(中)。多数の実をつけた果期の姿(右)。 美しき夕映えのとき懐旧の思ひ果して岸辺に立てば