大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年08月04日 | 植物

<2044> 大和の花 (284) ゲンノショウコ (現の証拠)                          フウロソウ科 フウロソウ属

            

 古くから民間薬として名高い薬用植物の代表格で、下痢、便秘、整腸、高血圧予防、冷え症、婦人病と多くの症状に効くうえ即効性もあることによりこの名がある。別名のイシャイラズ(医者いらず)もこれによる。また、イシャコロシ(医者殺し)、セキリグサ(赤痢草)、タチマチグサ(立待草)、フウロソウ(風露草)等々、異名が多く、これらの名は有用植物としてよく知られていた証として捉えることが出来る。

  例えば、貝原益軒の『大和本草』(1708年)には「陰干しにして粉末にし、湯にて服す。能く痢を治す。赤痢に尤も可也。また煎じても或は細末にし丸薬としても皆効果がある。云々」とその薬効があげられている。タンニンやクエルセチン、コハク酸、没食子酸などの物質を含むと薬草図鑑等には説明されている。

 山野の草地で普通に見られる多年草で、北海道から九州にかけほぼ全国的に見られる。草丈は数十センチで、葉は掌状に3から5深裂し、若葉には濃紫色の斑点が入る。花期は7月から10月ごろで、盛夏のころよく見かける。花は直径1.5センチほどの5弁花で、長い花柄の先にふつう2個つく。花には白色系と紅色系の2つのタイプがあり、日本列島の東では白色系、西では紅色系の花が見られ、大和(奈良県)はその中間の混生地として紅白両方の花が見受けられる。これはタンポポの黄花と白花の分布状況に似る。

 実は蒴果で、長さは1.5センチほどに立ち、熟すと5裂し、裂片が種子を1個ずつ巻き上げて神輿の屋根の形に反るのでミコシグサ(神輿草)の名でも呼ばれる。 写真はゲンノショウコ。左の2枚は紅色と白色の花。次は花と若い実(花期が長いので花と実が同時に見られる)。右は神輿の屋根の形に巻き上がった果期の姿。   医者いらずの現の証拠は昔より言はれたるなり医者殺しとも

<2045> 大和の花 (285) イヨフウロ (伊予風露)                               フウロソウ科 フウロソウ属

                          

  フウロソウ科の植物は温帯を主に5属見え、日本にはフウロソウ属だけが自生すると言われる。フウロソウ属にはゲンノショウコ(現の証拠)のように実が蒴果で熟すと5裂し、裂片が巻き上がる特徴がある。日本には12種が自生し、山地から高山に生えるものが多く、帰化して野生状態の外来種も見られる。

  深山の草地に生えるイヨフウロは草丈が30センチから70センチほどになる多年草で、茎や葉などに粗い毛がり、葉は幅が数センチから10センチほど、掌状に5中裂もしくは深裂する。花期は7月から9月ごろで、普通淡紅紫色の5弁花を上向きに平開する。花弁には濃い紅紫色の模様が入り、先が3浅裂するものと全縁のものがある。

  本州の東海地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、ほぼ襲速紀要素系植物の分布域に自生し、変異が多く、ヤマトフウロ(大和風露)の別名でも呼ばれる。大和(奈良県)では大峰山系の高所部の草地に点々と花を咲かせるのが見られ、その点在する花の姿は何ともかわいらしいが、いかにも絶滅寸前種らしいところがうかがえる。 写真はイヨフウロ。大峰山脈の花は花弁の先が裂けないタイプがほとんどで、ツボミの写真では萼片に開出毛が見える(天川村)。 山に咲く花は山もてある身なり即ち夢は山に開かれ

<2046> 大和の花 (286) コフウロ (小風露)                                   フウロソウ科 フウロソウ属

             

  フウロソウ属の仲間の多年草で、草丈が30センチほどと小振りなのでこの名がある。葉は互生し、ゲンノショウコ(現の証拠)やミツバフウロ(三つ葉風露)に似るが、葉が3全裂し、さらに裂片が2浅裂する違いがあるので見分けられる。花期は7月から9月ごろで、白地に淡紫色の条が入る5弁花を長い花柄の先に点頭する。

  本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島に見られるという。大和(奈良県)でも山地で見られるが、生育場所が限定的で、少ないためレッドデータブックには絶滅危惧種としてあげられている。大峰山脈の尾根筋に当たる大峯通りの石灰岩地で見られる。 写真はコフウロ(天川村の大峯奥駈道)。  原爆忌重ね日本の夏はある思ひの夏の七十二年

<2047> 大和の花 (287) ヒメフウロ (姫風露)                                     フウロソウ科 フウロソウ属

                                          

  石灰岩地でよく見られる1年草または越年草で、草丈は20センチから60センチほどになり、全体に開出毛があって粘る。葉が3全裂するのはコフウロ(小風露)と同じであるが、裂片が更に深裂するので細かく細分して見える。花期は5月から8月ごろで、直径1.5センチほどの淡紅色のかわいらしい5弁花を咲かせ、この名がある。

  図鑑には本州の中部地方と四国の剣山に分布を限ると見えるが、大和(奈良県)でもときに見かける。天川村の植林帯に当たる日当たりのよくない石灰岩地の草地で、今1つは宇陀市榛原の民家の裏で、やはり日当たりのよくない草地だった。こちらは植栽起源と見られ、ともに群生していた。塩を焼いたような臭気があるのが特徴を持っている。 写真はヒメフウロ(左は天川村の石灰岩地、右は宇陀市の山間地)。  終戦の夏を重ねて今にある七十二年の思ひの歴史

<2048> 大和の花 (288) アメリカフウロ (亜米利加風露)とヤワゲフウロ (柔毛風露)  フウロソウ科 フウロソウ属

                                                

  ここでは、外来の帰化植物であるアメリカフウロ(亜米利加風露)とヤワゲフウロ(柔毛風露)を見てみたいと思う。では、まず、アメリカフウロから。アメリカフウロは北米原産の越年草で、アジアなどに広く帰化している。茎は基部からよく枝分かれし、長い柄を有する葉は円形で、5深裂し、裂片は更に細分化するので、細かく見える。茎も葉も全体に軟毛が多い。

  花期は5月から6月ごろで、葉腋から花柄を出し、直径5ミリほどの淡紅色乃至は白色の5弁花を咲かせる。日本では昭和8年(1933年)に京都で発見され、今では東北地方以西に広く分布している。大和(奈良県)でも日当たりのよい道端や荒地、果樹園などで群生するのを見かける。 

  一方のヤワゲフウロは欧州原産の越年草で、世界に広く帰化し、日本では昭和51年(1976年)、北海道ではじめて見つかり、全国的に広まった。長い柄を有する葉は直径5センチ前後の円形で、5から9深裂し、更に浅く切れ込み、根生する。全体に軟毛が多く、名の由来になった。

  花期は3月から5月ごろで、淡紅紫色の5弁花を開く。花弁は先端が切れ込むため、一見すると10弁に見える。 写真はアメリカフウロ(左・広陵町)とヤワゲフウロ(右・宇陀市室生)。   思惑の交錯見ゆる日常絵あるは疲れてゐる人の背に