大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2011年09月08日 | 写詩・写歌・写俳

<18> 濁  流
       出水の 吉野熊野の 大被害 またも悲嘆の 人を見るなり
 台風十二号の紀伊半島に及ぼした被害は日を追うごとに深刻さを増し、その状況がわかって来た。熊野川下流域の水害もさることながら山間地の土砂崩れによる被害が大きく、死者や行方不明者も多数出すに至った。中でも記録的な雨によって起きた山地の深層崩壊と見られる大規模な土砂崩れは川を堰き止めるほどの量にのぼり、人家などを巻き込んで大災害の様相を見せて来た。
 紀伊半島はよく台風に見舞われ雨量の多い土地柄として知られ、水には強いと言われて来たが、今回の雨は長期にわたり激しく降り続いたためこのような被害になった。深層崩壊地点では堰き止め湖が出来、決壊の心配がなされ、 監視が続いている。 今回の災害ではこの点も注目されるところで、 深層崩壊についてはきっちりとした調査が必要ではないかと思われる。
 私は自然の花を求めてよく紀伊山地に赴くが、 紀伊山地の今回の災害が何に起因しているかがわかるような気がする。深層崩壊の場所をテレビのニュースで見る限り、植林された山や二次林であり、畑であって自然林ではないのが指摘出来る。 スギやヒノキなどの針葉樹が多い植林された山域では今後もこのような土砂災害が起きる可能性が強いと見ておいた方がよい。
 これは針葉樹が地表近くに根を張り、水の圧力に弱いためである。これに対し、広葉樹は地中深くに根を張り回らして生え、互いに根を絡み合わせて水の圧力に耐えることが出来る。 このため保水力にも優れていると言われる。この よう な広葉樹を優先にした自然林を皆伐して針葉樹の植林をしたところでは土壌の強度が弱くなっているわけで、当然 の こと傾斜地では土砂崩れが起きやすくなっている。
 加えて針葉樹は高く伸び、風による揺れが大きく、それが根に伝わって土壌に影響する。 こういう特質を有する針葉樹を急傾斜地にも隈なく植えているという自然の観点からして無理のある光景が各所に生じている。言ってみば、これは防災上における針葉樹の弱点と言ってよい。この針葉樹一辺倒の植林状況が雨量のずば抜けて多かった今回、この人工林の無理と針葉樹の弱点を衝かれる形で、大きな土砂崩れに繋がったと私は考える。こういう植生の視点で今回の災害を見ると、次にまた起きる可能性があるということになり、対策が考えられなくてはならないということが指摘出来る。
 大峰山脈の高所の岩場には絶滅が心配されている貴重な草花が見受けられるが、 今回の雨はどのように影響しただろうか。私は案外大丈夫だったのではないかと思っている。それは岩という自然の環境に守られているからで、自然に寄り添っているものは自然の成り行きにあるということで、 この草花たちにはその岩の存在が守護神としての役目を果たしているように思えるからである。今回の人に及んだ災害は、その被害箇所がこの自然に対し人の手が加えられた箇所に起きているということであり、この点を私たちは真摯に考えなくてはならないといってよい。

                                
 写真は天川村の川迫川(こうせがわ・十津川上流の支流の一つ)の光景で、 以前撮影したものであるが、 日ごろは清流で名高いこの川が二、三日降り続いた雨によってこのような濁流になることを示すものである。こうした幾つもの支流の濁流が十津川の中、下流では凄い水量に及び、今回のような大災害を引き起こすに至った。これが自然というものであることを私たちはよく心得ておかなくてはならない。