<16> ハ ギ
一景に 位置を占めたる 萩の花
ハギは『万葉集』の中で植物中最多の百四十二首に登場する。ハギはマメ科ハギ属ヤマハギ亜属の総称で、 『万葉集』に見えるハギは今も山野で普通に見られるヤマハギであると言われる。ヤマハギは高さが大きいもので二メートルほどになる落葉低木で、 初秋のころ紅紫色のマメ科特有の蝶形花をしなやかな枝に多数つける。我が国に多く、中国から朝鮮半島、ウスリー地方にも見られるという。
萩の花 尾花葛花 瞿麥の花 女郎花 また藤袴 朝顔の花 山上憶良
この歌は『万葉集』巻八に見える五七七 五七七の六句の韻を踏む旋頭歌であるが、 この憶良の歌によってハギは秋の七草の一番目に採りあげられ、 今に伝えられている。多種多様な花が見られる現代では目立つ存在の花ではないが、野性味からすれば、今も捨てがたくある花と言ってよかろう。これは何故かと思うに次のような理由があげられる。
1、花が季節の変わり目の初秋に咲く。
2、人の目線の適度な位置に花が見られる。
3、日や雨や風によって花が異なる風情を見せる。
4、出しゃばることのない花で、風景を引き立てる。
5、散った花にも趣がある。
6、人に所縁のある歴史を有する花である。
大体以上であるが、 この中でも3、4、5については、 実際に触れてみればわかる。これは匂いもなく色彩にも乏しいススキに似るが、 ハギにはチョウやハチなどがやって来るのでにぎやかさが加わる。
因みにハギは寺院伽藍に似合う花で、 古都の奈良では唐招提寺、元興寺極楽坊、白毫寺などでよく見られる。 お寺などに植えられているハギはヤマハギではなく、枝のみごとに垂れ下がるミヤギノハギが多いように思われる。 写真は曽爾高原のヤマハギ。 以前に撮影したものであるが、ススキはまだ穂を出したばかりなのがわかる。