<3777> 写俳二百句(134) オオヨシキリ見参
葭切の見参葭原よりの声
大和平野のやや西に当たる馬見丘陵公園。この公園に縁取られるように溜池が二つ並んでいる。その一方の下池に付随する湾戸のアシ原に今夏もオオヨシキリがやって来て仰々しい声で囀り始めた。一面に生えるアシは冬になると、立ち枯れ、冬の間にその立ち枯れを半分残して刈り取るのが恒例になっていて、夏の初めになると刈られた側半分は再生した緑の若葉が瑞々しく萌え立ち、刈られず残された穂群の枯れ色と対照をなして見える。こうした風景の湾戸のアシ原にオオヨシキリは来る。そして、枯れたアシの穂先にとまってその見参を仰々しく告げる。
鳴き始む今年も見参行々子
毎年、交互に半分を刈り残すのは刈った枯れアシの量が多くなり処置に困るので調節のためというのを聞いたことがある。オオヨシキリにはこうしたアシ原の管理によって半分残される枯れアシが住み心地としてよいようで、毎年やって来る。このアシ原にはほかにも珍しいヒクイナなどの野鳥も生息しているようで、この刈り取りの方法は野鳥たちにとって都合よく、歓迎されているように見受けられる。
行々子何はともあれ仰々し
まだ、オオヨシキリの巣は見ていないが、このアシ原で子育てをしているに違いない。今年もほぼ同時期の見参で、その独特の鳴き声は四方八方、遠く池の対岸まで聞こえる。なお、ヨシキリ(葭切)の名はヨシ(アシ)の髄を裂いて中の虫を捕る意か、ヨシを切り裂くほどの激しい声で囀るからか。それとも、ヨシの間に丈夫な巣を作るのにヨシの葉や茎を見事に切るからか、漢名は剖葦で、葭切の意に通う。で、日本では剖葦もヨシキリという。由来として正しいのは何れの説か。
八方に聞く耳のあり行々子
ヨシキリ(葭切)は行々子(ぎょうぎょうし)という異名で呼ばれるが、これは囀る声が「ギョギョシ、ギョギョシ」と聞こえ、この独特の声が近世の俳人たちの注目の的になり、一時流行ったらしく、その当時、よく句に詠まれた。ヨシキリは当時から親しまれた夏の渡り鳥だったようで、ほかにも葭雀、葭原雀、麦熟らしなどの名で呼ばれ、地方名も多いが、その中で、行々子の異名が殊に持て囃されたということであろう。では、江戸時代に作られた行々子の句を二例。
行々子大河はしんと流れけり 小林一茶
能なしのねむたしわれを行々子 松尾芭蕉
写真は今年もアシ原に来て囀り始めたオオヨシキリの行々子。姿は八月ごろまで見られるが、囀るのは六月末まで。では、今一句。
葭原の天下一途に行々子