趣深山さんという方のホームぺージは10年くらい前から知ってはいたが、実際にお目にかかることはないと思っていた。彼は体力も技量もすごい人なので、一般的登山道で見かけることはないだろう。昨日は、その一般的でない山中で、バッタリ出遭ったのである。
4,5年前、この山域に興味があって、何度かウロウロした。気にはなっていたけれど、足が遠のいていた。久しぶりに、地図とコンパスをもって、ネットに出ているある方の記録をたどって矢筈に登ってみようとやってきた。当てにならない山勘で、自分が合わせたコンパスの指す方向を疑いながら歩くのだから、とんでもないところに行ってしまうのは必然だ。間違ってそうだなあと感じたので、頂上へ行かずに撤退の可能性もあり、ということで、無事引き返せるようにマイテープをつけた。尾根は幅広だし、森はずっと同じ景色なので、下りできっと別の尾根を降りるだろう。前もそれをやったことがある。その時は間違えて隣の尾根を降りたけれど、見覚えのあるところにたどり着いた。危険な崖に出なければ、どこを歩いてもいいのだ。
かなり登ったところで、上から下ってくる人が見えた。朝、登山口に着いたとき、駐車場に香川ナンバーの車が一台停まっていて、「誰かマニアックな登山者が矢筈に登ったな、でも道がないところだから多分会わないだろう」と思った。
「香川ナンバーの方?」
と聞く。
「そうです。まさか人に遭うとは思わなかった。偶然ですね。」
と、その男性は言った。その通りだ。お互い広い山の中を自由に歩いているのだから。
ベテランそうな方だったので、地図を取り出して自分が何処にいるのか聞いてみた。指さしながら
「沢から登って、この尾根を通って行きたかったんだけど・・・」
と私。
「全然違いますよ、今この辺ですよ。」
ガクッ、どっからどう間違えたか。まだまだ修行が足りません。彼は100回以上ここに来ているという。
「もしかして、趣深山さん?」
そう!彼が趣味山さんだった!なんという幸運、なんというラッキーな日だったのだろう。少し立ち話をして別れた。彼は、自分は雪渓をトラバースして矢筈まで行ったけれど、歩きにくいので、黒笠山の縦走路に突き上げたほうがいい、とアドバイスをくれた。腐った雪は、時に太ももまで沈ませた。歩きにくかったけれど、ほどなく稜線に出た。進路を右にとって、矢筈を目指したが、次第にブッシュに阻まれて、止めた。撤退を決める。
テープを付けておいてよかった。下りは注意深くテープを見つけて回収した。趣深山さんには、私が付けたテープ、外さないでくださいね、とお願いしておいた。なぜなら、彼は赤テープを取る主義なのだ。確かに、訳のわからないところにつけられた赤やピンクのテープに何度惑わされたことか。
奥に黒笠山が見える
登山口から沢沿いに歩くと赤橋がある。初めに二連、次の橋は壊れていた。倒木や土砂、伐採された木などで行く手を塞がれ、思いのほか難儀するときもある。この渡渉、水量が結構多いのでどうやって渡ろうかと思案した。片足が滑って靴の中に水がはいったけれど、歩いているうちに乾く程度である。
麓には、至る所ミツマタが自生、黄色い丸い花が、若葉萌え出る前の山に彩を添える。
ここでは、蕗もまだ若い。タラも芽吹いていない。