妹が休暇をとって母の面倒をみてくれるというので、私は又台湾へでかけた。帰国するやいなや一騒動であった。妹が埼玉に引き上げたのが14日、私が関西空港に着いたのが15日の昼だった。
問題は15日の午前中に発生していた。僅かな隙間だった。
昼前、関空に着いて、四国までの高速バスを待つ時間をもてあまして、母に電話してみた。話の内容がどうもおかしい。
「近所の人と部落の会合に行った。買い物をする会だ」 という。
つい先日、自治会の総会があって、年会費を納めたところだ。何を言ってるんだろうと思ったが、お金は小銭くらいしか持たせてないので心配することもなかろう。
自宅に帰りついたのが午後7時半、母の家に行くにはちょっと遅い。3時から4時までヘルパーがきてくれているし、明日にしようかなとも思ったが、2日間顔をみてないのでご機嫌伺いすることにした。
久しぶりにネコちゃんを撫でてやって、こたつにはいって寛ぐ。やんわりと聞く。
「今日、午前中どこ行ったン?」
「近所の人と一緒に買い物に行ったンや」と 母。
「何 こうたン?」
「なんだったかなー。たいした物ではない。お金もっとらんのだから」
いったい何を買ったのだろう。財布には4千円しかはいってなかったはずだし。タンスの上に、なにやら商品につけるような類のタグが置いてある。ムムッ、これは!!
「ミネオン・・・温泉繊維が美容と・・・・」 というような文句が書いてある。どうやら、これを敷いて寝ると、きれいで健康になれる布団らしい。
「布団、こうたン?」 やんわりと聞く
「ああ、そうやった。たいしたお金でないし、近所の人もみんな買いよったから私もこうたんじゃ」
はなれの部屋に敷き布団が置いてあった。軽い薄い、いわくありげな素材の布団だ。
「これ、いくらしたン?」
「さあ、なんぼやったかなあ。明日とりにくるから、あんたお金おろしといて」
どこへ誰と行って、いくらの布団を買ったのか聞いてもさっぱり埒があかない。
「明日集金にきたら、私に電話してよ。すぐ来て話をするから」といいおいて、その夜は帰った。それほど高くない、納得できる値段なら買ってもいいかなと思った。
翌16日、朝一番にいつもお世話になっているケアマネジャーさんから電話があった。
「昨日、ヘルパーさんから聞いたのですが、敷き布団が置いてあって、パンフレットに20万円とかいてあったそうです」
「ええーッ??」
やられたー、と思った。これは大変、すぐかえさなくっちゃ。まず母に電話して、布団は返すからネコが汚さないところにきれいに保管しなくてはいけないと伝え、急ぎ、母の家に向かった。貴重品の布団は別の部屋に移され、ゆうべは見当たらなかったパンフレットもおいてあった。母のサインと拇印が押された契約書もあった。なんと定価298、000円、88、000円値引きで210、000円支払う約束だった。すぐに、契約書に書いてある社名、東京のW社に、解約したいと電話した。意外とすんなり承知してくれた。
ほどなく若い男性がやってきて
「商品を改めさせてください。あれ?ここにタグがついてなかったですか。あれがないとダメなんですよねぇ。工場でもういちど付け直してもらわなくてはいけない。送料と手数料を払ってください」
出たーッて感じ。やはりお金を取られるか。ビクビクして
「いくら?」
「何万とはいいませんよ。5000円はらってくだい」
内心、ホッ・・・
「わかりました。でも今お金持ってないから後ではらいます」
5000円と書いた振込み用紙を置いて彼は帰っていった。この金額で決着がついてよかった。お金をもっていたら即払ってしまったろうが、たった5000円の持ち合わせもなかったので、さいわい一円も払わずにすんだのである。
翌日、県の消費者相談センターから電話があった。私はこの事件が起こってすぐに相談していた。業者の名前、所在地、電話、会場はどこか、どうやって連れて行かれたか、など、いろいろ聞かれた。調査して報告書でもつくるのかもしれない。5000円を振り込むことになっている旨、つたえると、
「クーリングオフの期間中は無条件で辺品できるんですよ。たとえ、布団を使って寝ていたとしても。言いにくかったら、こちらから電話してあげますよ」
「ありがとうございます。でも、あとあとのことを考えるとちょっと怖いから、はらってもいいかなと思います」
品物を使ってしまっても、クーリングオフの期間内なら返せる・・・、これは驚いた。使ったら返せないというのが常識かなと思っていた。ひとつ勉強した。
母はまだしばらくはあの家で、近所のお世話になりながらも住み続けるだろうから、事を荒立てずに穏便に終わらせたいと思った。でもああいう人たちのやりたい放題させないためにも、犠牲者を出さないためにも、不当なことは許さないほうがよい。勇気を出してW社に電話した。
「消費者相談センターに聞いたら・・・・」 ともちかける。
「今回は5000円は結構ですから」 という返事。
ということで一件落着。あちらもトラブルは避けたいのだろう。
一人暮らしの老人、ひとりで留守番している老人を言葉巧みに連れ出してどこかの会場に連れて行く。しょうもない品をいろいろもたせて、ついには本命の高価な敷き布団を売りつけるはこびである。布団を取りに来た男性に「どこでやってるの?」ときいても教えない。「毎日場所は変わるし、自分は配達だから知らない」という。今回、はやく気がついてよかった。あるお年寄りの話、誘われて買ったけれども、家族に隠してしまいこんでいたが、後日発覚してたいそう叱られた、そうである。母には隠そうという考えも、もうなかった。母は、今までも、このような催しについていったことはあるが、まだ頭がしっかりしていたから買いはしなかった。物の値段がさっぱりわからなくなった今、またこのような事を起こしそうだ。お金は持たせてないから払えないが、払う約束はできるのだ。
成人後見人制度というのがあるとケアマネさんが教えてくれた。1センチくらい書かなければいけない書類がある。例の難しい言い方で文章が書かれている。どうして誰にでも手続きできるようにしてくれないんだろ。これを代書屋さんにたのんだら5万円くらいだそうだ。自分で書いたとしても、家庭裁判所で先生にみてもらうのに5万円くらいかかるという。ええーッ?なんでー?と無知な私は思ってしまう。こういう手続き、財産のある人がするものかもしれない。貧しい庶民には必要ないかな。妹が言う。「この先いつまでひとりでいられるかわからないのに、労力と費用かけてそれをする意味あるかな」
まだ書類に目を通してないけれど、チンプンカンプンで嫌になるかも。
長女が飼っていたネコ、ロナウジ君
引越しして飼えなくなって、去年から母のウチの居候になった
初めの数日は、隠れて出てこなかったが、今では我が物顔にふるまっている
あつかましいけど、かわいい
もう一匹のネコ、ヒメちゃん、ロナウジの妹
本名はフェメとか・・・ パリジェンヌみたい、よびにくいからヒメ
初めの飼い主は、航空会社の客室乗務員らしい。どうりでしゃれた名前つけるわ
この子は、マシュマロみたいにふぁっとしてつかみ所がない
だっこが嫌いでスルリと逃げる