日記

お遍路情報と、日記を綴っております。

母の犬

2012-11-23 13:22:17 | インポート

 10日ほど前のことである。連日、今は空き家になっている、母の家の犬の脱走騒ぎで悩まされていた。電話が鳴るたび「又だ、どうしよう・・・」とビクビクしていた。この犬は、母がボケ始めたころから、ブロック塀に囲まれた敷地内で放し飼いされている。何年も野良犬のように自由に振舞ってきたので、一番親しい私でも首輪を掴むことができない。調子のいいときには鼻ずらまでは触らせるが、首輪にさわると噛まれそうで怖い。散歩に行く手間が省けていいやと、其の場しのぎでいたが、やはり困ったことになり、悲しい結果を招いた。

 これまでも、門扉の開閉のちょっとしたスキに逃げられ、彼がきまって訪問するガールフレンドの家で騒ぎ立てるので、何度か苦情を受けていた。気の小さい犬なので、人に噛み付いたり、散歩中の他の犬と喧嘩をすることはない、と思う。

 10日くらい前、毎日強風が吹いて門扉が吹き飛ばされることもあった。壊れた門扉の隙間から逃げ出したこともあった。「犬が出とるでー」と近所に住む人から電話をもらうと、車で10分の母の家に、犬の好物の餌をもって、中に入れに行く。門扉の応急修理をしてもらったり、隙間ができないように、ブロックをいくつか置いてみたけれど、どうやって出るのか、外を走り回っている。何度かそんなことがあって、ついに近所から深刻な電話がきた。「犬が吠えて夜眠れない、新聞配達の人が吠えられて怖がっている。犬を中に入れて。」

 困った、困った。門扉は問題ないはずだし、塀を飛び越えて出られる場所も見つからないし、もうお手上げだ。なんとかつかまえる方法はないものか、獣医さんに、「犬捕獲のプロみたいな人いませんか?睡眠薬みたいな薬はありませんか?」と尋ねてみる。「捕まえる人はいない。薬はあるけれど効かないだろう。噛まれても飼い主が鎖をつけなければいけません」という返事。いよいよ、腕に厚手の布をまいて、噛まれるを覚悟で私が行わなければいけないかな。失敗は許されない。もしやり損なったら、しばらくは私の傍に寄り付かないだろう。

 そうこうするうちに、彼は塀の中にいつもいて、外にでなくなった。どうやって脱走していたのか、未だに私には謎なんだけど。

 ところが、彼は一昨日突然亡くなった。死の前々日、いつもと変わりなかった、と思う。前日は忙しくて、母の家に見にいけなかった。当日朝、呼んでも出てこなかったので、屋敷内を捜すと、かなり元気なく、赤いオシッコがポタポタおちている。これは重篤な状態であると思い、すぐに医者に連れて行った。捕まえて車に乗せるなんてとてもできっこない、思っていた犬なのに、すんなり乗せられた。抱えて乗せるのは大変だったんだけど。余程しんどかったんだろう。

 獣医さんによると、歯茎をみて貧血、睾丸に腫瘍がある、下腹に広く内出血がある、赤血球は壊れていないので中毒ではない、オシッコは出ている、とりあえず止血の注射を打って様子を見ようということだった。連れ帰り、離してやると、よろよろと歩いて木陰で横たわった。これが昼過ぎのことである。夜、寒かったらいけないので物置にでもいれとこうと思い、夕方見に行くと、水飲場で死んでいた。死後硬直もあった。お医者から帰って3時間くらいしか生きていなかったようだ。

 死因はわからない。病気だったかもしれない。交通事故かもしれない。そういっておいたほうが、差しさわりがない。一応飼い主は私であるから、外に出した責任は私にある。犬は繋いで飼って、健康管理をしてやらなくてはいけないなあとつくずく思った。もっとしてやれることはなかったか、可哀そうなことをしたと、事が起こって、思う。後悔跡を絶たず、いつまでも進歩がないなあ。

 彼は広い屋敷内を自由に走り回って、時折外にも遊びに行って、幸せな一生だったと思うことにする。近所の方で、いつも門から竹輪を放り込んでくれて、彼をかわいがっていた老人がいる。今度のことはとても衝撃を受けていると思うと申し訳ない。門外を通る散歩の人や犬にも吠えたり愛嬌をふりまいていた。やっかいな犬だったけれど、さみしさを感じる人も何人かいる。