東京多摩借地借家人組合

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コロナ不況最前線 アパート家賃滞納「じわり」発生

2020年06月23日 | コロナと家賃滞納
https://www.zenchin.com/news/post-5178.php

 コロナ不況の波が、賃貸住宅の「家賃支払い」の領域にも押し寄せてきている。入居者の収入減が響き、5月下旬に振り込まれる家
賃回収状況が「4月よりも悪化」と答える賃貸管理会社が一定数あった。滞納率は大半が「ほぼ横ばい」「微増」にとどまることか
ら、管理会社の経営的ダメージはさして大きくない。だが、滞納問題の解消は重要課題であり、その特効薬は簡単に見つからない。各
社の状況を1~3面にわたりリポートする。

「事前相談少ない」

 「今まで滞納したことのなかった世帯が、少しずつ滞納し始めている」
 こう語るのは、石川県の地場大手管理会社、アーバンホーム(石川県金沢市)の家賃精算部門で働く梶純係長だ。賃貸住宅の管理戸数
は1万8000戸ほど。5月回収分の家賃滞納件数は98件。4月分の68件から30件増えた。そのうち3件が飲食店や理容室などの店舗テナン
ト。残り大部分の27件が居住用世帯の滞納だ。
 支払い督促を担当する梶係長は「新たに増えた27件のうち、事前に滞納の連絡をしてくれた世帯はほとんどなかった」と振り返る。
未入金に気付いて連絡をとってみると、電話口から聞こえてきたのは「新型コロナの影響で収入が減ったので支払いが厳しい」という
苦しい声だった。「6月の滞納件数は、さらに増えるかもしれない」と先を案じる。
 同社では、減額や延滞を認める家主は少数派だ。しかし、家賃支払いをめぐっては、焦りを隠さず交渉に粘り強く臨む入居者もい
た。
 金沢市内で3LDKの戸建て賃貸に家賃月9万円支払っている個人事業主の50代男性は、2度にわたり、梶係長に減額を要請した。梶係長
は「決められた家賃ですし、契約期間中は変更できない旨を伝え、丁重にお断りした」と振り返る。
 ところが、同男性は、営業部門の別の社員に頼み込み、その社員を介して家主に減額を直接要請。その結果、6~8月までの3カ月間
に限り、家賃を9万円から6万円前後に下げてもらえることになった。家賃変更の覚書を取り交わし、例外的に減額を認めたという。
 家主からすれば、退去されるよりも、一定期間減額して残ってくれた方が、収支面で好都合なこともある。決して珍しい例ではない
だろう。

「若年層目立つ」

 家賃滞納者が微増していることに関しては、熊本県の地場大手会社、管理戸数1万6700戸のコスギ不動産(熊本市)からも同様の声が
聞こえてくる。
 5月の滞納率はわずか1%だが、3月の0.8%、4月の0.9%と比べると少しずつ悪化していることがわかる。資産活用部の元村大士次長は
「悪化の一番の理由はコロナ」と話す。
 5月の滞納者は20人ほど増えたという。多くは20~30代の単身者で、飲食店勤務者が目立つ。事前に滞納を予告してくれる世帯は「1
~2割くらい」(元村次長)と振り返る。
 滞納問題に、どう対応すればよいのか。定番は、行政支援の活用だ。
 先のアーバンホームでは、行政の家賃補助制度である「住居確保給付金」を滞納者に都度案内している。しかしすべての申請が認可
される保証がない上に、支払い期間が3カ月間で、上限額も決まっている。どの程度、滞納分をカバーしてくれるか見えないことか
ら、「過度な期待はできない」(梶係長)と語っている。

「翌月に2カ月分支払う」

 「家賃保証未加入の物件で、滞納がやや増えた」。こう語るのは、鹿児島県で7417戸の居住用賃貸物件を管理するMBC開発(鹿児島
市)、不動産事業本部賃貸部の高橋慎一郎次長だ。

家賃保証未加入の物件で要望

 5月の滞納率は0.98%。1%に満たない低水準だが、3月の0.48%、4月の0.67%と確実に悪化している。同社の管理物件における家賃保証
加入率は大部分を占めており、代位弁済分も「支払い済み」にカウントして計算しているため滞納率が低い。しかし家賃保証加入前の
物件に、7~8年前から住んでいる世帯の中から、滞納が確認できた。
 5月の滞納件数は64件。飲食業の従事者に多く、正規・非正規雇用ともに存在する。また学生で、生計を支える親の収入減による滞
納もあった。「今月末は厳しいから翌月に2カ月分を一度に振り込みたい」。こうした事情で初回滞納が目立ち始めてきた。
 このような相談を入居者から受けた際、同社は家主に報告する。家主側にもローンの返済があるため、うかつに減額・遅延を容認で
きない。
 家賃保証加入済みの物件でも課題が残る。通常は滞納が起きれば保証会社へ代位弁済請求を行う。しかし高橋次長は「5月分の滞納
は、事情が事情。安易に申請してよいものか、一度立ち止まってしまう」と心理的なハードルを指摘する。未入金者の相談に対しては
「住居確保給付金」の申請を案内し、できる対策を講じている。

滞納者は「家賃帯3万円」に多い

 管理戸数1544戸のジェイ・エッチ・ティー(北海道札幌市)でも、コロナ不況で居住用賃貸の家賃回収状況が徐々に悪化している。
居酒屋勤務で収入減などが理由
 3~5月にかけての滞納率は4.1%、4.4%、4.8%と上昇。保証会社と契約している約500戸分の管理物件を除いた、残り1000戸の管理物
件内の滞納率を算出した。管理物件の多くは、ワンルームや1DKなどの単身者物件となっている。
 総務部の関昌平部長によれば、滞納常習者以外からの滞納が少しずつ出てきているという。新たな滞納者とは、居酒屋などの飲食店
で働き、家賃帯3万円前後の物件に住む単身世帯が中心だ。
 4月に始まった緊急事態宣言に端を発した営業自粛によって、居酒屋でのシフトが減少。5月の給料に響いた。
 同社では、新規の滞納者に対して「住居確保給付金」の申請を案内しているが、「本当に申請してくれているかは分からない」(関
部長)と不安を口にしている。
 一方、自ら家賃減額を申し出る家主もいた。2LDK+駐車場の住戸が二つ入っている物件で、半年間1万円の値下げを認めた。「住み続
けてもらった方が得策という判断」(関部長)。しかし、能動的に手を挙げてくれるケースは少数派だろう。
 同社は滞納率を改善するために、保証会社との契約数を増やして未入金リスクを軽減したい考えを示している。管理戸数1544戸のう
ち、保証会社がかかわっている割合は現在4割。これを7~8割まで増やしたい。「もともと民法改正に備えて実施しようと考えてい
た。これを加速させる」(関部長)という。

滞納微増、対処法は手探り

 1面に続き、コロナ不況が家賃支払いにどう影響を及ぼしているのか、各社の状況を紹介する。滞納件数は同じ「微増」でも、当然
ながら会社によって程度や現場で起きていることが異なってくる。

「無い袖は振れない」

 首都圏で2500戸の賃貸住宅を管理するホーミングライフ(東京都新宿区)では、5月に振り込まれる分の家賃滞納率が3.3%、件数にし
て約240件に及んでいる。4月の1.1%から3倍になった。

5月 家賃滞納件数 240件

 滞納者の特徴について、経理課の平原聡氏は「飲食店勤務者や非正規雇用の単身者が目立つ」と述べる。コロナ不況が直撃しやすい
業種・雇用形態であることから、その悪影響を受けて収入が減った世帯が増えたと同氏は見ている。本社を置く新宿区以外の地方都市
の管理物件でも、同様の傾向がうかがえるという。
 このような滞納者への対応は簡単ではない。入金の督促をしようと、電話で「お支払いください」と伝えると、「こっちだって払い
たいが、仕事がない以上、払いようがない」と語気を強めて反発されてしまう場面もあった。
 こうした入居者に対しては、「慎重な対応が必要」と平原氏は説く。どうにもならない状況に立たされている入居者の不安を、とき
にはくみ取った上でコミュニケーションを図る姿勢も欠かせないだろう。
 同社の管理物件では基本的に家賃保証会社がかかわっているが、集金や滞納の初期対応に限っては、自社で滞納者本人と直接やりと
りしている。事情をヒアリングした上でしかるべき処置を講じている。
 滞納の理由がコロナ不況にかかわる内容の場合、同社は入居者に「住居確保給付金」の申請を案内している。その結果、5月は25件
の申請の意思を確認できたという。申請が通った分だけ、滞納状況は改善するだろう。

給付金申請でカバー

 管理戸数4471戸のハウスプロメイン(兵庫県神戸市)では、5月分の滞納者は、管理する一部のエリアで35人ほど。20~30代の単身者
が中心で、いつもより1割増えたという。

振り込み、約15件確認 

 管理物件の平均家賃単価は約7万円だが、滞納者の多くは5~6万円と低価格の物件に住んでいるという。
 5月の大型連休明けから「住居確保給付金」の申請に必要な書類の記入作業が増えた。居住者に申請書を郵送してもらい、営業ス
タッフ3人で、これまでに約30件対応してきた。
 5月25日に集金した6月分家賃では、「住居確保給付金」による振り込みが約30件のうち半数確認できた。
 営業担当の豊岡和樹氏は、「大半が滞納になる前に『住居確保給付金』の申請を行っていたため、滞納は最小限に抑えられている」
とポイントも説明した。

製造業不況が賃貸に直撃

 管理戸数7076戸の冨士物産(静岡県浜松市)では、5月中に振り込まれるべき家賃の滞納件数が200件弱に上った。前月から50件近く増
えた。中でも、飲食業や製造業の従事者の滞納が目立ったという。
 管理戸数の大部分が、製造業が盛んな浜松市内にある。自動車製造関連企業がコロナ不況でダメージを負い、収入が減った人が増
え、休業要請の後遺症が残る飲食店や小売店の経営に追いうちをかけた。そう推測する不動産統括本部の西田行宏氏は「滞納は今後も
増えるかもしれない」と先行きを心配している。
 同社では「住居確保給付金」の申請のための手続きが5月上旬から増え始めた。浜松店だけでこれまで10件ほど対応。その他、家賃
滞納にかかわる問い合わせも1日2件ほど寄せられている。

入居審査厳格化で滞納1件

 入居審査を厳しくすることで、コロナ禍から生じる滞納件数を最小限に抑えている会社もある。その一社が、管理戸数882戸の青木
ハウジング(神奈川県横浜市)だ。収入減による滞納相談は、現状1件のみ。新型コロナの煽りを受けた飲食業に従事する入居者だ。
 青木博昭社長は「入居時の審査を厳しくしているため、普段から家賃滞納のリスクを軽減できている」と語る。
 客付けの際、家賃保証会社の入居審査を通った後でも、独自審査を実施する。
 審査は細かい。入居希望者の書類一枚一枚に目を通し、ときには勤め先の会社名を検索する。企業サイトを開き、またサイトそのも
のが存在しなければグーグルのストリートビューで社屋を確認するという徹底ぶりだ。
 審査項目をみるときに、基準は設けていないが、ささいな違和感を見逃さないように努めている。
 「年収1500万と書かれているのに、家賃帯の低い部屋を探している場合などは注意が必要」(青木社長)。保証会社の審査を通って
も、2割程度は青木社長の判断で入居を断る。審査に慎重になることが滞納回避の一歩になると考えている。

相談者が微増

 管理戸数2636戸の大和財託(大阪市)の家賃滞納率が微増している。3月は0・61%、4月0・72%、5月は1・02%と上昇。この数字は、毎
月12日時点で、未納金額の合計を当月の請求額の合計で割ったものだ。入居者全体の構成はおおよそファミリー5割、社会人4割、学生
1割となっている。
経営への影響は「なし」
 事業部運用グループ・佐藤秀孝マネージャーは「収入が減った方からの支払い遅延の相談はあるものの、滞納そのものは多くありま
せん」とコメントする。
 同社は自社で家賃保証業務を手掛けている。滞納がわかった時点で迅速に電話連絡を行っている。どうしても支払いが困難な人に
は、「住居確保給付金」などの公的サポートを案内している。  
「給付金支給まで待ってほしい」

 管理戸数1237戸の佐藤商業(千葉県市原市)は、5月に振り込まれる家賃の滞納相談件数が約90件まで増加したという。例年は50~60
件程度。今年は昨年と比べて29件の問い合わせ増加があった。
5月相談、29件増加
 29件のうち20件が支払い猶予にかかわる相談だ。「(本業の休業による)収入減により、給付金の支給まで支払いを猶予してほしい」
という相談の他、失業による支払い猶予の相談も3件あった。
 管理部の柴田慎之介部長は、「保証会社を通していることもあり3~4月の滞納率・相談件数は例年と変わらなかったが、5月から格
段に増えた。普段滞納していない入居者からも相談があったことが意外だった」と驚きの声をあげた。初めて相談があった入居者に
は、ホワイトカラーの会社員や派遣社員が多いように感じたという。
 滞納相談の中には個人契約の入居者だけではなく、店舗テナントとして貸している飲食事業者が4件、整骨院が1件あった。これらは
支払い猶予ではなく補助金活用の相談だった。千葉市のテナント賃料補助の制度をオーナーに活用してもらいたいという内容だった。
 千葉市の補助制度とは、最大50万円をオーナーへ補償する「テナント支援協力制度」というものだ。オーナーが申請して、一定条件
をクリアすれば、オーナーに直接振り込まれる家賃が入る。
 だが同補助制度は原則オンライン申請。ITに抵抗感のある高齢のオーナーにとって、オンライン申請はハードルが高い。これが壁と
なり、相談を受けた物件オーナーは同制度を利用しなかった。テナント賃料の支払い問題の解決に向け、話が前に進みづらい原因のひ
とつになっている。

給付金活用は10人弱

 3391戸の賃貸住宅を管理している郡中本店(福島県郡山市)でも、3~5月の家賃滞納率は横ばいだった。保証会社の肩代わり分を除い
た滞納率は、金額ベースで3月0.67%、4月0.48%、5月0.76%だった。

減額対応は2件

 滞納者の多くは常習者。勤続年数が浅い若年層の男性と、加齢とともに収入が減少した高齢者が中心。特に、敷金や礼金などの初期
費用が低い物件での滞納者が発生する傾向が強いという。
 もっとも、コロナ禍による滞納も3月から徐々に増えてきている。
 5月までの3カ月間で20件ほど。その多くが飲食店や建設現場などで、勤務時間に応じて収入が変動する働き方をしている人たちだ。
コロナ禍の影響で出勤日数が減り減収となる、もしくは失業したことで家賃を支払えなくなるといった流れだ。このような入居者の家
賃は平均3万円前後だという。
 解決策として、同社は「住居確保給付金」の申請を案内する。同給付金によって滞納を解消した賃借人もすでに出始めてきている。
実際に申請した滞納者は10人弱程度という。
 もう一つの解決策としては、オーナーへの減額交渉だ。一定期間の減額に応じてくれた数は現在2件程度ある。
 不動産事業部の古和田泰彦氏は「幸い、新型コロナウイルスの悪影響はあまり感じられない。しかしスタッフによる案内状のポス
ティングや訪問など、滞納解消に向けた取り組みは強化していきたい」と語る。

家賃減額「覚書」必須

 コロナ不況で収入が減った入居者から家賃減額の交渉を受けたとき、「このまま退去されるくらいなら、一定期間減額して住み続け
てもらうほうが得策」と考える賃貸管理会社、オーナーは一定数いるだろう。そこで減額を受け入れる際、手続き面で何に気を付ける
べきなのか。不動産法務に詳しい神田元経営法律事務所の神田元弁護士は「必ず覚書を交わしておくこと」とアドバイスする。

「金額変更は避けるべき」

 例えば月10万円の家賃を7万円まで減額したとする。もし口頭で認めてしまうと、この物件の相当賃料が7万円である既成事実をつ
くってしまうことになる。万が一、悪意ある入居者から「賃料減額裁判」を起こされたときに、7万円という金額が「特例的に一定期
間下げた家賃」である証明ができなくなり、不利になる。賃貸借契約の変更も同様だ。
 先々のこうしたリスクを抑えるために、オーナーや管理会社ができることが、きちんと「覚書」を交わすことだ。書面で残せば、コ
ロナ不況で一時的に減額・猶予した事実を裁判所に示せるようになる。また書くときは「月額賃料○円のうちいつまでに×円の支払い
を免除する」と期限をつけるべきという。免除についての問題の有無があるかは税理士に相談した方がよい。
 神田弁護士は、賃貸経営するオーナーを顧客に抱えており、コロナ不況の中で、アパート関係ではこのような相談をよく受けるとい
う。


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