東京多摩借地借家人組合

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業者に託した息子が孤独死…母の後悔 引きこもり“引き出し屋”の実態

2019年12月19日 | 最新情報
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/568573/
【扉の向こう 引きこもり支援の今 (上)】
 冷え込み厳しい冬の日。関東に住む女性(80)の家に、「引きこもり自立支援」をうたう民間業者がやってきた。同居する長男は当
時40代半ば。仕事を辞めて部屋に引きこもるようになり、既に20年が過ぎていた。
 スタッフ5人が部屋に入って30分ほど後、長男は出てきた。「すごく泣きました」とスタッフ。女性は着替えを詰めたスーツケース
を持たせ、「頑張ってね」と声を掛けた。長男はうつむき、無言で家を出て行った。
 女性が最後に見た長男の姿だった。
   *    *
 業者を知ったのは2017年1月。ホームページの「必ず自立させます」という言葉にひかれ、東京都内の本部に相談に行くと、スタッ
フに「早い対応が必要」と促された。提示された契約金は900万円超。自宅を売る段取りをして準備した。
 長男は都内の施設に入り、その後、提携する熊本県内の研修所に移った。ほどなくして、業者から「熊本で就職した」と報告を受け
た。自立を妨げないようにと、女性は連絡を控えていた。
 今春になって突然、業者から電話が入った。「息子さんが亡くなりました」
   *    *
 女性は警察署で痩せこけた長男の遺体と対面した。ひげが数十センチ伸びて、脚は骨と皮ばかりになっていた。遺体が見つかったア
パートの室内には、ごみ袋やペットボトルが散乱し、冷蔵庫は空。「元気で仕事をしていますか」とつづった女性の手紙が、血の付い
た状態で残されていた。
 死亡推定日は1~2週間前。「食べるものがなく、餓死したのでしょうか。一体、どうして…」
 アパートにあった離職票や金融機関の口座を調べると、17年12月に介護施設に就職し、翌年7月に退職。それから8カ月ほどし、家賃
や電気料金の引き落としが滞っていた。
 「業者が丁寧にフォローしてくれていれば、こんなことにならなかったのでは」。熊本に移る前、女性は業者に400万円近くを追加
で支払っていた。その際、研修終了後も月2回、長男と面談すると約束してくれたはずだった。
 女性が経緯を尋ねても、業者側から詳しい説明はない。
「引き出し屋」頼るしか 規制なく「被害」次々
 九州南部出身の30代女性は、「あの日」を今も夢に見るという。「屈辱的で怖くてたまりませんでした」
 1年ほど前、実家に引きこもっていた女性の元に「自立支援」をうたう業者が訪ねてきた。「帰って」。女性がそう懇願しても、ス
タッフは鍵を壊し、部屋に入ってきた。
 研修所への入所を求め、居座ること7時間。「もう決まっている」。複数の男性スタッフから両手両足をつかまれ、無理やり車に乗
せられたという。向かった先は、アパートで孤独死した男性が入所していたのと同じ研修所だ。
 過去に入所していた30代男性は、1日5時間の農作業をさせられ、「作業体験代」名目で1日千円を受け取った。それ以外は監視カメ
ラ付きの部屋で過ごした。「低賃金の労働をさせられました。ほかに自立のプログラムはほとんどありませんでした」
 研修所がある地元の住民や役場には、過去に何度も入所者が助けを求めた。消防などによると、昨年2月、19歳の男性入所者が近く
の倉庫で首をつっているのが見つかっている。
   *    *
 研修所には、東京に拠点を置く業者と契約した入所者が送り込まれている。取材を申し込むと「一切応じられない」と回答された。
 スタッフの一人が非公式に記者と会い、説明した。「うちに来る人は、家庭内暴力や親の金の使い込みなどの問題を抱え、親も手に
負えなくなっている」
 引きこもりが長期化すると、家族は接し方が分からなくなる。本人は「誰も理解してくれない」と意地になる。中には親を奴隷扱い
し、事件化が懸念されるケースもあるという。「本人のため、少し強引でも家庭から離した方がいい」
 「暴力的な連れ出し」は否定した。興奮した入所者が暴れると危ないため、制止することはあっても、故意の暴力はないという。農
作業は賃金の発生しない生活訓練であり、自由参加。説明には入所経験者の言い分と食い違う点もあった。
 なぜ、契約金が数百万円単位に上るのか。24時間体制で職員を配置し、夜勤手当などのコストがかかるからー。スタッフはそう説明
し、付け加えた。
 「行政の相談窓口は、部屋を出られない引きこもりには対応できない。切迫した親にとって、私たち以外に頼る選択肢がない」
   *    *
 厚生労働省の調査(昨年2月)によると、引きこもりの自立支援を掲げる入居型施設は全国51カ所に上る。その一部が最近、当事者
を強引に連れ出し、法外な契約金を求めているとして「引き出し屋」と呼ばれ、問題視されている。
 支援に携わるNPO法人でつくる「共同生活型自立支援機構」によると、入居型の費用は通常、月額15万~25万円が相場という。消費
者庁には高額な契約金を巡り年間20件ほどの相談が寄せられ、各地の「ひきこもり地域支援センター」にも相談が相次いでいる。
 業者を規制する法制度や運営基準はなく、国も現状を把握できていない。一部の悪質な業者が野放しになっており、「支援に携わる
団体全てが疑いをもたれ、迷惑だ」(機構幹部)。
 一方で、ほかに頼る先もなく、孤立した親と子がいることを物語る。あるNPO関係者は言う。「大金を払ってでも、何とかしてほし
いと願う親がいる。業者だけを一概にけしからんというのは違う気がする」
     ××
 内閣府の推計によると、引きこもりの40~64歳は61万3千人。80代の親が50代の子と共に困窮する「8050問題」が深刻化し、「引き
出し屋」と呼ばれる業者も出現している。引きこもり支援はどうあるべきか。九州の現場で考える。
 (山下真が担当します)
親の遺体を放置、全国で相次ぐ 引きこもりの声なきSOS…支えるには
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/568577/
【扉の向こう 引きこもり支援の今 (中)】
 細く険しい坂道沿いに立つ古いアパートの一室は今、空き部屋となっていた。
 昨年8月、長崎市の住宅密集地で異臭騒ぎがあった。アパート2階の部屋のわずかに開いた窓から、鼻につく臭いが漏れ出す。住民の
通報で警察官が駆け付けると、部屋の中で70代女性の遺体が発見された。
 長く定職に就かず、引きこもっていた40代後半の息子が、女性と母子2人で暮らしていた。7月下旬、住民が見掛けたのを最後に、母
は消息不明に。この後に倒れたとみられている。
 息子は母親の遺体を自宅に放置したとして、死体遺棄容疑で逮捕された。長崎県警によると、「亡くなったのは知らなかった」と話
したという。鑑定留置を経て約2カ月後、長崎地検は息子を不起訴処分にした。
 近隣住民によると、息子はかつて父の仕事を手伝っていたとみられる。父の死後、10年ほど前からほとんど外に出ないようになっ
た。アパートの外に大量のごみを山積みし、近隣とトラブルになっていた。
 母子はSOSを発しなかったのか。地元の民生委員の女性は、行政の支援を受けるよう声を掛けたことがある。「そんなのは絶対、せ
んでよか」。息子は拒んだという。
   *    *
 こうした事件は最近、全国で相次いでいる。昨年4月には福岡県福津市でも80代の母親の遺体が発見され、引きこもり状態にあった
60代の息子が逮捕された。
 「引きこもる人たちは自らの存在を、社会にとってマイナスだと捉えている」。引きこもり支援を30年近く続け、「親の『死体』と
生きる若者たち」の著書がある山田孝明さん(66)は言う。
 山田さんは逮捕された引きこもり当事者と留置場で面会し、差し入れをしてきた。多くの当事者は「人と会うのが怖かった」「どう
していいか分からなかった」と語る。胸の内では仕事に就かない自らを否定し、誰かに相談すらできない。親の後を追って死のうと思
い詰める人もいた。
 「社会に背を向けざるを得なかった人は各地に潜在している。事件は氷山の一角にすぎない」
   *    *
 心を閉ざす当事者をどう支えればいいのか。
 北九州市出身の松下哲也さん(46)は20代から30代にかけ、職場の人間関係に疲れて7年ほど引きこもった。昼夜逆転の生活。同居
する家族との会話も減り、母に「おまえのせいだ」といつも怒鳴っていた。
 前を向くきっかけはNPO法人青少年サポートセンター「ひまわりの会」の訪問支援だった。松下さんの父から頼まれた村上友利会長
(75)が1年8カ月間、自宅を毎月訪ねて声を掛けた。話すのは野球やテレビの話題。たわいのない内容でも、家族以外と会話する唯一
の時間は新鮮だった。
 「どうなってもいい気持ちと、どこかで助かりたい気持ちが半々だった」。実は、会を取り上げた新聞記事を切り抜き、父に見せた
のも松下さん自身だった。
 「将来のことを考えたら」。「友だち」と思えるようになった村上会長の言葉に背中を押され、家を出た。今は1人暮らしをしなが
ら会の活動を手伝う。
 村上会長はこれまで40人を、引きこもり状態から外に出した。「環境を変えたくてもタイミングをつかめず、親や社会のせいにして
いる。けれど、救いを待つ気持ちもある。全てを引き受ける覚悟で、粘り強く訪問するしかない」
引きこもり 家族ぐるみで支援 全国に広がる「伴走」モデル
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/568766/
【扉の向こう 引きこもり支援の今 (下)】
 家族だんらんの場となるはずのリビングで、40歳くらいの女性が耳を手で覆い、何かをつぶやきながら歩き回る。その傍らで白髪姿
の父親が床に座り、うなだれていた。
 「これは、私がかつて支援に訪れた家庭です」
 佐賀県で引きこもり支援を続けるNPOスチューデント・サポート・フェイスの代表理事、谷口仁史さん(43)が、女性の状態を病院
に伝えようと撮影した映像を見せてくれた。
 女性は元教員。学級崩壊に直面して心を病み、10年以上引きこもっていた。父は仕事を退職して女性を世話したものの、自らもうつ
状態に。2年間風呂に入らず、テレビばかり見ていた。暴れる女性を殴ることもあった。母は被害妄想が強く、相談に乗ろうと訪れる
行政の担当者に厳しい言葉を浴びせた。
 谷口さんは言う。「私たちが向き合うのは、本人だけではないんです」
   *    *
 佐賀県子ども・若者総合相談センターの実態調査によると、2010~16年度の利用者約2400人のうち、家族自身も悩みを抱え、疲弊し
ているとの回答は63・7%に上る。
 谷口さんの原点の一つは、学生時代の経験にある。家庭教師のアルバイトで、周囲に暴力を振るい、授業を欠席しがちな男子中学生
を担当した。「恵まれた家庭にいるはずなのに、どうして…」
 通ううち、両親から体罰を受けていることを知った。衝突する原因を探り、両親とも対話を重ねるうち、男子は学校に行くように
なった。「家庭に入らないと解決できない問題があると実感しました」
 03年にNPOを立ち上げ、出会ったのが冒頭の家庭だった。女性は「盗聴されている」とおびえていた。谷口さんは盗聴器発見器で部
屋を調べて安心させ、精神科病院に連れて行った。パソコン資格を取る勉強を勧め、技術を生かした在宅ワークを紹介した。
 女性の働く姿を見ると、父も次第に元気を取り戻し、母も落ち着いていった。父には多重債務の整理を促し、収集していたコインや
切手を売って生活費にしてもらった。その後、女性は医療系の仕事に就き、一家は少しずつ、平穏な暮らしを取り戻していった。
   *    *
 谷口さんの活動は、複数の専門職を巻き込みながら拡大。NPOには今、臨床心理士や社会福祉士など合わせて29の専門資格を持つス
タッフ約250人が登録し、家族に寄り添い、「伴走」する方策を考える。家庭を訪問支援する手法は「アウトリーチ」と呼ばれ、全国
に広がっている。
 相談者に費用はかからない。NPOが国、県、市などから14事業を担い、委託費で運営しているためだ。公的支援と民間のノウハウを
組み合わせたモデルケースとして注目されている。
 こうした包括的な支援ができる団体はまだ、限られている。行政の相談窓口は縦割りで連携は乏しく、職員の異動で継続的な支援も
難しい。政府の施策も、就職氷河期対策などの「就労支援」に偏りがちだ。
 「単純に仕事につなげばいい、というものではない」。福岡県立大の四戸智昭准教授は、一人一人の特性に合った居場所づくりが大
切だという。
 引きこもりになる理由や背景はさまざまであり、「自己責任」では片付けられない根深さをはらむ。閉ざした扉の向こうへ、踏み出
せるようにするには―。その鍵を見つける現場の模索は続く。 (山下真が担当しました)

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