東京多摩借地借家人組合

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「事故物件」はダメなのか?孤独死、自死が増える社会で

2021年10月08日 | 最新情報
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211005/k10013291501000.html

この春、私は、社会人になった。
初めてのひとり暮らしのために、部屋を探した。
そんなとき、ある新聞の見出しが目に飛び込んできた。
「事故物件の需要アリ」
記事には事故物件を専門に取り扱う業者もいるとある…。
自分は事故物件はいやだけれど、どんな需要があるのだろう?と業者に取材を申し込んだ。
このとき「そんな気持ちが、誰かを追い詰めていた」とは、知るよしもなかった。
(制作局ディレクター 川浪大吾)

“家族が孤独死した” “入居者が自殺した”

「はい、成仏不動産です」
「弟さんが孤独死した」
「においがある…腐敗が激しいようですね」
電話のやり取りが非日常的だ。
しかも、みんな淡々と話している。
孤独死は私が想像していたより、ずっと多いのかもしれないと感じた。
この春NHKに入った新人ディレクターの私は、「成仏不動産」のオフィスで飛び交うやり取りにたじろぎ、息をのんだ。
過去に自殺や殺人事件などで住人が亡くなり敬遠されがちな、いわゆる「事故物件」。
ここはそんな事故物件を専門に扱う業界でも珍しい不動産会社だ。
買い取りから特殊清掃、家の供養。リフォームに販売までワンストップで手がけている。
毎月100件ほどかかってくる問い合わせの内容は多岐にわたる。
「貸していたマンションの住人が自殺した」
「親戚が孤独死した物件を買い取ってほしい」
「遺体のあとをきれいにする“特殊清掃”をお願いしたい」
コロナ禍で相談件数は去年の倍に増えているという。
自宅療養や外出自粛が関係しているのだろうか。

“薄情かもしれないけど、悲しいよりも大変だった”

事故物件を相続した女性相談者のひとりに会うことができた
千葉県の介護施設で働く60代の女性。1人暮らしだった兄が孤独死して、突然、事故物件を相続することになったという。
女性と兄は、ここ数年ほとんど連絡を取ることはなかった。兄は、もともと家に閉じこもりがちだったが、持病もあったためコロナ禍で一層家からでなくなっていた。
そして去年、自宅で死後2か月が経過しているところを発見された。トイレの前で倒れ込むような形の、黒ずんだ遺体の跡。
それが兄の最期だった。
ただ、女性に悲しむ余裕はなかった。
家族の誰が、残された事故物件を引き取るか。部屋の損傷も激しく資産価値が低いのは目に見えていた。
親族でもめるのは避けたいと名乗り出たが、荒れ果てた家の整理に、血痕の拭き取りなど特殊清掃の手配。相続の手続き…。想像以上に出費がかさみ、数十万円に上った。
事故物件を相続した女性
「あれしなきゃ、これしなきゃ、がたくさんあって。悲しいより大変だなって。めんどうくさいと言うと怒られちゃいますが、住めないし。たいしていい物件でもなくて賃貸の収入も取れるか分からないし。負担だなと」
不動産業者によると、取引価格の相場は孤独死で1割、自死で3割、他殺だと5割落ちるそうだ。
ある日突然事故物件を相続することになり、新たな借り手や買い手が見つからず途方に暮れる人は、コロナ禍を経てさらに増えてきているという。

増える事故物件 背景には孤独死の増加か

不動産業者に話を聞くと、事故物件にはいくつかの特徴があるという。
1つは「狭い部屋が多い」こと。
1Rや1Kの単身向け住宅が目立つという。生涯未婚率の増加や高齢者の単身世帯が増加し、亡くなっても誰にも気付かれない孤独死にいたるケースが、こうした物件で多発していると見ている。
もう1つは「都心に多い」こと。
取り扱う物件の約6割が1都3県に集中していた。孤独死や自殺件数も1都3県に多く、データが重なり合う。
都内だけでも年5000件に及ぶ孤独死。コロナ禍で増加傾向となり年2万件を超えた自死。
これらが、事故物件が増えている背景にあると業者は分析している。

「事故物件は避けたい」が誰かを苦しめていた

事故物件のオーナーが困っているという話を聞いておいて本当に恐縮だが、私自身もつい最近、事故物件を避けて家探しをしていたひとりだ。
大学最後の1年はコロナ禍で完全オンライン授業になり、実家に帰っていた私。就職に合わせて東京で家探ししたときチェックしたのが“事故物件情報サイト”だった。
自殺・他殺・孤独死など過去に人が亡くなった物件の情報が6万件以上掲載されている。
誰でも自由に情報を書き足せる仕組みのため真偽は定かではない。ただ、なんとなく“事故物件には住みたくない”と思い、このサイトでチェックした。
私と似た気持ちがある人も少なくないのではないか。その気持ちが、誰かを苦しめることにつながっていたと、このあと知ることになった。
住宅難民になる高齢者
「ことしいっぱいで今いる家を出なきゃいけないのに…半年たってもみつからないの」
取材の中で出会った、80歳の女性。夫と死別して40年、ずっと一人暮らしをしてきたそうだ。
しかし、借りている住宅の契約期限が迫る中、「高齢者には貸せない」と断られ続けているという。
「何十年も住んで友達もいっぱいいる街で探してもらったけど、なかなかなくて。足腰が不安で1階がいちばんいいけど、2階でもいいって言っても、なくて。もうお風呂がなくてもいいとかね、いろいろ希望を削除したんだけど…ないのよね」
入居したお年寄りが孤独死して事故物件になり、不動産価値が落ちては困る。そんな大家の心境から貸し渋りが発生していた。
高齢者の4人に1人が入居拒否にあっているというデータ(R65不動産アンケート)も出ている。
取材の中で、とあるマンションのオーナーから聞いたひと言が頭から離れない。
「正直言うと、死ぬときに誰かに連絡してから死んでくれと思っちゃいます。一歩外に出て助けを求めてからパッタリ逝ってくれればいいのになと。そんなこと、思っちゃいけないんでしょうけど。部屋で死んでほしくないっていうのは本音です」

「あんしん見守りパック、月額980円」

家を借りづらい高齢者。しかし、取材を進めるうちにその“高齢者専門の不動産業者”があることを耳にする。
いったい、どんなビジネスモデルなのだろうか…。私は、すぐに取材に向かった。
年齢だけでは決して断らない。その秘密は、「見守りサービス」だった。孤独死してもすぐに発見できるよう部屋の電気メーターをAIが管理。
異変があれば見守り人に一報が入るサービスを提供している。さらに修繕用の保険も用意されている。
R65不動産 山本遼社長
「お年寄りがこんなに住宅難民になっていることは、業界でも知られていないと思います。私もこのビジネスを立ち上げる前は、門前払いしてしまったかもしれません。一人暮らしでも、ご近所づきあいがあるから孤独死ばかりなわけではないことも分かってきました。イメージが先行している部分が大きいのかなと思います」
高齢者が住宅を借りやすくなるサービスの登場は喜ばしいことだ。ただ、「機械に頼らざるをえないほど、誰からも気付かれない」ことに驚きを隠せなかった。
本来の人とのつながりが機械によって代替されていくようで、なんだかやるせない。いつかは老いるみずからの将来を思うと、わずかに不安がよぎった。

人の死とどう向き合うべきなのか

事故物件によるトラブルや高齢者の住宅難民問題を受け、国も動き始めた。今年5月、国土交通省が事故物件を想定した初めてとなるガイドラインの案を作成。
賃貸の場合、事故物件であることを告知すべき期間は、過去の判例を参考に「おおむね3年」とした。
ガイドライン策定に携わる明海大学不動産学部 中城康彦教授
「人の死は避けられませんし、そのことを気にする気持ちも分かります。ただ、それがときに過剰な反応なこともある。場合によっては興味本位で、人の死が風評のように社会に拡散されて、レッテルを張られるようにいつまでも残り続けることも実際に起きています。そういったことをこのガイドラインで防ぐことができるのではと考えています」
ただ、この「3年」という期間が妥当かどうかは、業界でも意見が割れている。
一般から意見を募る期間を経て、この秋に正式なガイドラインとして公表される予定だ。

事故物件のイメージは変わるのか

事故物件を専門に扱う不動産業者は、人が亡くなった住宅のイメージが悪すぎるのではないかと、イメージアップを図っている。
上の写真は、川崎市の閑静な住宅街にあるマンション。フルリノベーションが施され、2LDK・南向きで1180万円。相場より2割安いという。
前の住人はベッドの上で孤独死していた。その情報も公開しているが、すでに問い合わせが相次いでいるそうだ。
この不動産業者では事故物件を独自の基準でランク分けし、すべて公表している。
事業開始から2年、すでに140件以上の成約に至っている。
事故物件であることを気にしない消費者もそれなりにいたのだ。
「成仏不動産」運営会社 花原浩二社長
「若い世代を中心に、割安なら気にならないという人は多いです。建物に異常があるわけでもなく、気持ちの面で問題なければ賢い選択とも言えます。そもそも、事故物件のイメージって悪すぎるんですよね。本当に、そんなに悪いイメージを持つ必要があるのかと。人が亡くなることって、普通のことですよね。事故物件に対する世の中の意識が変わるといいなと思っています」

誰かの死も、看取れる社会に

取材中に出会った1人暮らしの高齢者の話が今でも忘れられない。
「すぐに見つけてくれるなら、安心して死ねる」
自宅で一人、最後を迎えるイメージはこんなに悪くていいのだろうか。一昔前までは誰かにみとられながら最後を迎えることが一般的だったという。
確かに、私はどこかで「最後は誰かが隣にいるものだ」と思い込んでいた。
だからか、誰からも気付かれなかった死に対して抵抗があった。
こうして孤独な死を見て見ぬふりしてきた結果が、私の事故物件に対する負のイメージにつながっていたのだと、今回気付かされた。
高齢化で多死社会が到来する中、その意識のままでいることはいいのだろうか。
一人でも安心して最後を迎えるには、社会全体でみとる仕組みが必要なのかもしれない。
まず私は、死を特別視しないことから始めてみようと思う。
事故物件は、私たちが「死」とどう向き合うべきかを問いかけているように感じた。

“事故物件” とは?賃貸で「告知義務は3年」のルール案も
https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/blog/bl/pkEldmVQ6R/bp/pk7D56Dqml/

“事故物件”。
家を探すとき、気になる人も多いのでは。
でも実は、その定義や告知の運用基準はあいまいなんです。
実際、事故物件ってどんなもの?告知はどんな風にされるの?
現在策定が進む“ガイドライン”など、最新事情も含めまとめました。            (事故物件・取材班)

不動産業界では「心理的瑕疵(かし)物件」と呼ばれる事故物件。瑕疵(かし)とは聞き慣れない言葉ですが“欠陥”といった意味です。
例えば「物理的瑕疵物件」とは、
・雨漏りする  
・シロアリ被害がある
・耐震性能が不足している
など、建物の物理的な問題等を指します。
それに対し「心理的瑕疵物件」とは、
・過去に殺人事件が起きた
・住民が自殺した
・孤独死して長期間経過していた
といった、人の死などの“嫌悪すべき歴史的背景がある”とき該当するとされます。
こうした情報は、[買主・借主]にとって契約するかの判断に重要な影響を及ぼす可能性があり、[売り主・貸主]は把握する事実を告知する必要があります。
書類やチラシ等には「告知事項あり」「容認事項あり」「瑕疵物件」「訳あり物件」などと書かれています。
しかし、前の住人の“死の情報”をどれほど気にするか、取引に影響するかは人それぞれ。そのため[売り主・貸主]にとっても“どこまで告知すべきか”の判断が分かれ、トラブルの原因となってきました。
事故物件をめぐる裁判例を調査してきた宮崎裕二弁護士によると、把握する範囲で不動産の“心理的瑕疵”が問われた最も古い裁判は59年前。「事故物件」という言葉が使われ始めたのは30年前の平成の始めごろだと言います。
宮崎裕二弁護士
「平成の初期はバブルで物件価格が高騰しました。
 しかしその反動で、何か事故やトラブルが起きて不動産が“傷もの”になれば、
 資産価値が極端に下がることも起きていました。
 そうした風潮が“事故物件”という言葉を生み出したのかもしれません」
今年5月、国土交通省は事故物件に関する初めてのガイドライン案を示しました。現地点の内容をまとめたものが上の表です。この秋にも正式に発表されるのではないかと見られています。
ガイドラインはこれまでの民事裁判の判例などを参考に議論されてきました。例えば、
・住み心地の良さへの影響は自死等の後に第三者である別の賃借人が居住した事実によって希薄化すると考えられるとされる事例
・賃貸住宅の賃室において自死が起きた後には、賃貸不可期間が1年、賃料に影響が出る期間が2年あると判断されている事例
こうした数々の判例を参考にまとめられました。なお、このガイドラインに強制力はないということです。

実はこちらも事故物件

そもそも事故物件と聞いて、どんなイメージを持つでしょうか。
上の写真は、ある不動産業者が売り出している事故物件です。川崎市の閑静な住宅街にある2LDKのマンション。フルリノベーションが施され、販売価格は1180万円。業者によれば、この価格は相場より2割ほど安いといいます。前の住人がベッドの上で孤独死していたことを考慮し価格を設定しています。
この業者によれば、事故物件の不動産価格は
・孤独死で1割
・自殺で3割
・他殺で5割
相場に比べて落ちると言います。
こうした不動産価値の下落を気にして大家は事故物件化を避けたいわけですが、一方では安さを生かしたビジネスも広がりを見せているのです。
専門家によると、“事故物件”は日本独特の問題で、欧米で気にされることはほとんどないと言います。もともと古い建物が多いため、人の死があった物件が珍しくないためです。
高齢化とともに多くの人が死ぬ“多死社会”が到来している現代。“事故物件”との向き合い方を問い直すときがきていると、取材を通して感じました。

事故物件の当事者 大家と遺族の本音
https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/blog/bl/pkEldmVQ6R/bp/pqajxGjrow

孤独死などから事故物件になることを恐れて、高齢者の入居を拒否するケースが後を絶ちません。高齢者の4人に1人が入居拒否を受けた経験があり、大家の約8割が高齢者の入居に対して拒否感があるという調査結果もあります。(※)
貸す側からみた事故物件、残された家族にとっての事故物件・・・それぞれの本音は、驚くほど赤裸々なものでした。
(クロ現+ 取材班)

「敷地から一歩でも出て死んでくれれば」
首都圏に10世帯ほどのアパート1棟を所有する大家の中村さん(仮名)。これまでに2度、大家として管理している部屋が事故物件になりました。
1度目は入居者の自死。2度目は孤独死。
普段はサラリーマンとして働き、兼業で大家をしている中村さんにとって、遺体発見後の対応は過酷なものでした。
「やっぱり後処理ですね。遺族はいるのかな、とか。特殊清掃を入れたり、遺品整理をしたり、リフォームの手配も発生しますから。孤独死のときは夏場だったので、発見まで10日ぐらいでしたが、遺体の跡が残って臭いもきつくて。ひどくなると、臭いが隣の家に行っちゃう。その部屋だけじゃ済まないリスクがあって、これは大変でした」
「本当に人間性が疑われちゃうかもしれないけど、敷地から一歩出て死んでくれればっていうのが、オーナーとしては正直なところです」
中村さんは所有する部屋が事故物件になることで、金銭的な損失も受けました。
1度目は、清掃やリフォーム代など150万円以上を自ら負担。
2度目は、前回の経験から家主用の保険に加入していたため、清掃などの現状回復の費用や空室中の家賃などの補償は出ました。しかし、事故物件となったため、その後の家賃を下げざるを得ず、長期的な損失が発生し続けています。
もう二度と事故物件を持ちたくない・・・その思いで、大家として、高齢者の入居を拒否しているといいます。
「線引きとして、75歳以上の方はなるべくお断りしているようにしています。孤独死だったり事故だったりのリスクが高いからです。足腰が弱っていると、中で転んで打ちどころが悪くて、という可能性もありますよね。私のところに話が来る前に、不動産会社さんのほうで丁重にお断りをして頂いてることが多いです」
――例えば近くに家族がいても入居を断る?
「近さにもよるけど、本当に何かあってもすぐ駆けつけられるのか?と疑問です。言い方が悪いですけど、死んでいるかどうかわからないレベルで救急車を呼んで、病院で亡くなったって診断を受けられるような感じであれば、いいんですけどね。そうじゃないと、なかなか難しい。家族が近くにいても、なるべく候補から外したいところです。すみません」
――大家さんにとって、事故物件ってそれぐらい怖いもの?
「そうですね。二度とかかわりたくないっていうのが正直なところですね」
貸す側の大家と借りる側の入居者、仲介業者を通すと、その交流はほとんどありません。
ビジネスとして関わっている大家側のインタビューに、亡くなった方への思いよりも、所有する物件への思いを強く感じました。
事故物件は、孤独死で1割、自死で3割、殺人事件で5割、価格が下がると言われています。人の死により、下がる幅が変ると思うと、複雑な思いを抱かずにはいられません。

疎遠でも遺族 「悲しいより、大変だな」

事故物件の当事者は大家だけではありません。疎遠であったとしても遺族や親戚として、思いがけず事故物件に巻き込まれるケースも身近になりつつあります。
千葉県の60代の女性、田中さん(仮名)は、一人暮らしの兄の死により去年、事故物件を相続することになりました。
田中さんの兄は7歳違いで、ここ数年は年に1~2回しか会うことはありませんでした。死後2か月ほどで発見され、遺体は激しく損傷した状態でした。
兄の死を知ったのは警察からの電話でした。それからの日々は兄を失った悲しみよりも死後の手続きの煩雑さが印象に残っているといいます。
「例えば、クレジットカードなんかは、電話で「止めてください」で簡単に済んだのですけど。兄が年金をもらっていたんですよ。亡くなった後も振り込まれているから止めなきゃいけないと思って、年金事務所へ電話したんです。そうすると、こちらが「余分に振り込まれてる分は返します」って言ってるのに、「どういう関係ですか?」と言われてしまって。戸籍謄本だとかなんだとかって用意しなきゃいけないっていうのが、大変でした。そういうのが煩わしいって言ったら怒られちゃいますけど、あれしなきゃこれしなきゃ、がたくさんあったので、悲しいっていう思うより大変だなって思う方が多い。やっと終わったっていう感じです」
田中さんは特殊清掃など様々な手続きに加え、清掃料など60万円を負担しました。最終的には、事故物件専門の不動産会社が負担額と同等の額で買い取ってくれましたが、その手続きには半年以上かかりました。
あれから1年。交流は少なくなっていたものの、猫好きで優しかった兄のことを振り返る余裕も出てきました。田中さん自身、離婚や子どもの自立を経て、現在は一人暮らし。事故物件で苦労した体験にも関わらず、自分を重ねてしまうこともあるそうです。
「どうだったんだろうって。兄としてね、兄の人生としてどうだったんだろうなって思います。最期、ひとりでそうやって亡くなっちゃって、寂しい人生だったのかな、それとも、本人はそれなりに生きてきたのかなって」
「もし自分がここで、例えばひとりで死んじゃったら、それはそれでありかな…。ひとりぼっちで死んじゃったからといって、悲しいとか寂しいとかじゃなく、死んじゃったら何にもわかんなくなっちゃうんだから、関係ないやって思っちゃいます。そう思っちゃってます」
※「不動産会社に入居を断られた経験がある高齢者は全国で23.6%」R65不動産調べ、「賃貸人(大家)の約8割が高齢者の入居に拒否感」(公財)日本賃貸住宅管理協会(平成30年度)家賃債務保証業者の登録制度等に関する実態調査報告書

”大島てる”とは?事故物件情報サイトの運営者を直撃取材
https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/blog/bl/pkEldmVQ6R/bp/pEpYl5Y3KX

事故物件に注目が集まる大きなきっかけとなったと言われている有名な情報サイト。どの物件で、どんな事件や事故が起きたのか、およそ6万件の情報が掲載され、今も増え続けています。
事故物件を気にする人にとっては知りたい情報が集まっている一方で、起きた事実がいつまでも消せずネット上に残り続ける、いわゆる「デジタルタトゥー」という問題に繋がるという指摘も。
サイトの運営者は、ある大きな意義があると言いますが、本当に問題はないのでしょうか。取材しました。
(クロ現+ 取材班)

始めたきっかけは 不動産投資で大損をしないため

――そもそも事故物件の情報を載せたサイトを作ろうと思ったきっかけは何だったんですか?

大島:今はこのサイト運営が本業なんですけれど、創設した時は私自身が不動産業に携わっていました。仲介業者さんではなくて、不動産投資家のようなイメージで、大金を投じて物件を買っていたわけです。大金を投じて買う身になると、徹底的にあら探しをする必要があるわけです。大損しないために。
例えば雨漏りがしないかとか、シロアリに蝕まれていないかとか、そういう物理的な欠陥や、違法建築などの法的なところ、あるいは同じマンションのほかの部屋に暴力団の事務所がないかなどの環境面はチェックできる。
しかし、心理的な瑕疵=人の死に関しての情報はなくて、やむを得ず自分たちのために、労力を割き始めたというのがそもそものスタートでした。
平成17年(2005年)の9月にオープンした当初は、自作自演といいますか、我々が知り得た情報を載せて、反響がないから、合っているか間違っているかもわからないという時期でした。
その後、テレビ番組などで取り上げられるようになって、集まっている情報は本当に爆発的に増えているという状況です。

なぜネットで公開するのか?-ネガティブな情報を扱うことが自浄作用を働かせる

――事故物件の情報を不特定多数の人が見ることが出来るネットに出すことへの反発もあると思います。誰でも見ることができるようにしたのはなぜですか?

大島:誰でも見られるようにする必要ないじゃないかというご意見があるのは重々承知しています。中には、すごく高額な利用料金を設定すれば、真剣に家探しをしている人だけが閲覧して、悪い情報が世間に広まずに済むじゃないかと言われることもあります。
それなのに、なぜ私が無料公開、会員登録も不要という仕組みにこだわっているのかというと、なるべく多くの人の目に触れないと、間違った情報を正すという自浄作用が働かないというお話があるからです。
自殺があったという話は、所有者にいやな思いをさせると。だからこそ、ちょっとでも間違った情報が載ると「違う」という反応が来るようになり、結果的には間違った情報というのは一瞬しか載らない。
長い目で見れば、ネガティブな情報を扱うことが自浄作用を働かせる、機能させるための大事な条件なんじゃないかというふうに思っています。
さらに言えば、私はむしろネガティブなことでなければ、載せる意義はないくらいに考えております。
ジャーナリズムの神髄は、誰かにとって困ることを晒すということに尽きるということですので、何もネガティブな要素がないのであれば、むしろ公表する意義がない。そのぐらいには考えております。

織田信長が死んだ本能寺は事故物件か?

――それでも間違った情報が広まってしまう可能性はないですか?

大島:間違った情報が確認できたら、我々が削除します。いつまでも残るかというと、そんなことはないですね。そして、載ったとしても、今であればそれが間違っていたということも含めて伝播していきます。
サイトに“本能寺の変”のことが載っていると。そこで織田信長が自害に追い込まれたんだと書き込まれていると、たびたびSNS上でにぎわったりすることがあるんですけど、実際には載っていないんですね。いたずらで載ったことはあるんですけど、私が消したわけです。
第三者から指摘が寄せられている状況で、事故物件に関しては、間違った情報がいつまでも流布するということはないですし、ちゃんと反論もセットで流通するということであれば、打ち消すというふうに私は考えています。
載せ続けている正しい情報に関しての反論については、これは歴史的な事実ですから、「こんなことは黙っていればいいじゃないか」と、そんなものが通用するとは、私には思えないですね。ㅤ

3年という告知期間が短いと考える消費者は ますますサイトを見るようになる

――国のガイドラインは事故物件であることを告知すべき期間は、賃貸の場合おおむね3年という案になっていますが、大島さんのサイトなどに残ることで「デジタルタトゥー」になってしまうという指摘もあります。どう思われますか?

大島:デジタルタトゥーで言えば、私はまさに彫り師の立場になるわけなんですけど、このサイトは、いち私企業が勝手にやってるだけですから、見たくなければ見なければいい、あくまでも一番気にする方に合わせて発信している情報です。
国のガイドラインが出たことで、これであのサイトは終わりだと。デジタルタトゥーのように事故物件情報を公示し続けてるあんなサイトはつぶされるはずだというような見解が一部にあるんですけど、今回のガイドライン案のどこにも、3年を超えたら告知禁止だという文言はないんですね。であるからには、我々としても何も気にされてないじゃないか、自由な領域ではないかということになるわけです。
これから、国の指針に従っていると、さも良心的な不動産業者のように振る舞う業者がたくさん出てくると思うんですね。でも、3年では短いじゃないかというような反発を覚える消費者は、きっと今後も我々のサイトを、むしろますます見るようになると思うんですね。

“人が亡くなったところには住みたくないと言ってるのであれば、その思いは尊重されてしかるべき”

サイトは事故物件について気になる人だけが利用すればよいと語る大島さん。しかし、このサイトが世間の事故物件に対するイメージを悪化させ、高齢者が住宅を借りにくくなる問題に繋がっているのではないかという指摘もあります。
最後に、その影響についてどう考えているか、問いました。

――運営されているサイトが、事故物件に対するイメージに大きな影響を与えたのでは?

大島:もともと消費者の中に事故物件は嫌だという思いがあって、ところが告知義務があいまいだったがゆえに、真実に触れることができなかった。それが、ネット社会が浸透して、わかるようになったということだととらえています。
大家さんに正直に告げてもらえなくて、結果的に家賃も下げてもらえないままで、これまで住んでいたという可能性があるわけですね。
業者に嘘をつかれたら、やっぱり腹が立つと思うんです。ですから、事故物件を公開するサイトしか運営できませんけども、どの大家さん、どの業者さんが正直者で、どの業者どの大家が嘘つきなのか、それをあぶり出しているということですね。
理屈で幽霊なんかいないんだと。でも、やっぱり怖いと思うのが人間として自然な感情だと思うんですね。住みたくないんだ、人が亡くなったところに。と言ってるのであれば、その思いは尊重されてしかるべきだというふうに思います。
そうすると日本でも雨風さえしのげればどこでもいいという時代が長かったわけですが、ぜいたくな趣味趣向として人が亡くなったようなところはちょっとかんべんという発想が出てくる。
事故物件が嫌がられるような豊かな社会になってきているということは喜ばしきことだというふうに考えています。古くさい迷信の話ではなくて、まさに現代的な話だと。
私はよくたとえ話で、ペットの犬用のおせちと同列だという話をします。つまり、生きていくのに絶対必要なサービスかというとそんなことはないんですけど、豊かな成熟した社会であればこういうサービスも成り立つということです。少しでも消費者の取捨選択に資するサービスを提供したいです。

※取材後記

需要がある限り情報を出すというのが大島さんの強いポリシー。取材班の周りでもサイトをチェックしたことのある人間もいて、需要は確かに多いと感じます。
しかし一方で、事故物件というレッテルが残ることに苦しむ人を思うと、割り切れない思いを抱きました。諸刃の剣の一言で片付けられてしまうことかもしれませんが、これから発表されるガイドラインも含め、注目していきたいと感じました。
(クロ現+ 取材班)

支援窓口まとめ "65歳以上は入居拒否” 高齢者の賃貸住宅問題
https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/blog/bl/pkEldmVQ6R/bp/pE6LJ8p7yP/

「65歳以上の4人に1人が入居拒否を経験」
(R65不動産アンケート)
不動産会社の調査で浮かび上がってきた"高齢者の住宅難民"問題。
「孤独死などが起き"事故物件"になっては困る」
そんな貸主の心理が原因のひとつと言われています。
その支援策として、高齢を理由に入居は断らない、あるいは住人の異常にすぐ気づいてサポートする仕組みも広がっています。支援の窓口をまとめました。
(事故物件・取材班)

セーフティネット住宅情報提供システム

高齢者など住宅確保要配慮者(低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子育て世帯)に向けた、賃貸住宅を検索できるサイトです。掲載されている物件は、住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅として登録された住宅で、建物の構造や耐震性など、一定の基準をクリアしています。物件の登録件数は毎年増加。現在、約60万戸が掲載されています。運営は、一般社団法人すまいづくりまちづくりセンター連合会。
セーフティネット住宅情報提供システム (※NHKサイトを離れます)
https://www.safetynet-jutaku.jp/guest/index.php
お問い合わせ:03-5229-7578 (平日10:00~12:00、13:00~17:00)

安心ちんたい検索サイト

高齢者、被災者、生活保護受給者など、住宅確保に困っている人向けの賃貸物件情報を調べることができます。高齢者向けの賃貸住宅に関して、東京都だけでも約16500件掲載(10/6 17:00時点)。運営は、公益社団法人 全国賃貸住宅経営者協会連合会(ちんたい協会)。
安心ちんたい検索サイト (※NHKサイトを離れます)
http://www.saigaishienjutaku.com/
お問い合わせ:0120-37-5584(平日10~17時)

見守りサポート

この他、一人暮らしの高齢者向けに、見守りサービスを行っている不動産業者や警備会社などもあります。電気の使用量やセンサーなどを使って、異常があった際に、登録された見守り人のメールアドレスに連絡が入るなどの仕組みになっています。

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