最高裁判決 平成13年3月13日
(判例時報 1745号 69頁)
(判例タイムズ 1058号 89頁)
《要旨》
抵当権者が賃料債権を差押えた後は、賃借人が抵当権設定登記後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、対抗することはできないとされた事例
(1) 事案の概要
X銀行は、昭和60年9月、A所有の建物に対して根抵当権を設定して登記した。
Yは、昭和60年11月、Aとの間に建物賃貸借契約を締結し、Aに対して保証金3,150万円を預託していたが、平成9年2月、Yは、本件建物についての賃貸借契約を同年8月末限りで解消し、同年9月以降改めて賃貸借契約を締結し(保証金330万円)、新賃貸借契約の保証金には従前の賃貸借契約における保証金の一部を充当し、残額2,820万円は同年8月末日までにAがYに返還することを約した。しかし、その期限までに返還は履行されなかったので、YとAは、その返還債務につき次のとおり合意した。
ア 保証金返還債務のうち、1,168万円余について、建物の平成12年9月分までの賃料の支払債務とそれぞれ各月の前月末日に対当額で相殺する。
イ 保証金返還債務のうち、1,651万円余を平成9年12月末日限りに支払う。
その後Xは、Aの債務不履行により、当該根抵当権の物上代位権に基づきAのYに対する賃料債権(賃料月額30万円)について債権差押命令の申立てをした。
平成10年1月、差押命令がなされ、同年7月、XはYに対し、債権差押命令による取立権に基づき、同年2月から6月までの本件建物の賃料150万円の取立訴訟を提起した。
第一審(京都地判 平成11年2月15日)、控訴審(大阪高判 平成11年7月23日)は、ともにXの請求を認容した。
(2) 判決の要旨
① 抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできない。
② 賃借人と賃貸人との間で、相殺について、あらかじめ合意していた場合でも、物上代位権の行使としての差押えがされた後に発生した賃料債権については、物上代位をした抵当権者に対して相殺合意の効力を対抗できない。
(3) まとめ
本件は、これまで、学説・下級審で判断が分かれていた抵当権の物上代位と相殺の優劣関係について、最高裁として、抵当権登記との先後を基準とする対抗要件説に立つことを初めて明らかにしたものである。
(判例時報 1745号 69頁)
(判例タイムズ 1058号 89頁)
《要旨》
抵当権者が賃料債権を差押えた後は、賃借人が抵当権設定登記後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、対抗することはできないとされた事例
(1) 事案の概要
X銀行は、昭和60年9月、A所有の建物に対して根抵当権を設定して登記した。
Yは、昭和60年11月、Aとの間に建物賃貸借契約を締結し、Aに対して保証金3,150万円を預託していたが、平成9年2月、Yは、本件建物についての賃貸借契約を同年8月末限りで解消し、同年9月以降改めて賃貸借契約を締結し(保証金330万円)、新賃貸借契約の保証金には従前の賃貸借契約における保証金の一部を充当し、残額2,820万円は同年8月末日までにAがYに返還することを約した。しかし、その期限までに返還は履行されなかったので、YとAは、その返還債務につき次のとおり合意した。
ア 保証金返還債務のうち、1,168万円余について、建物の平成12年9月分までの賃料の支払債務とそれぞれ各月の前月末日に対当額で相殺する。
イ 保証金返還債務のうち、1,651万円余を平成9年12月末日限りに支払う。
その後Xは、Aの債務不履行により、当該根抵当権の物上代位権に基づきAのYに対する賃料債権(賃料月額30万円)について債権差押命令の申立てをした。
平成10年1月、差押命令がなされ、同年7月、XはYに対し、債権差押命令による取立権に基づき、同年2月から6月までの本件建物の賃料150万円の取立訴訟を提起した。
第一審(京都地判 平成11年2月15日)、控訴審(大阪高判 平成11年7月23日)は、ともにXの請求を認容した。
(2) 判決の要旨
① 抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできない。
② 賃借人と賃貸人との間で、相殺について、あらかじめ合意していた場合でも、物上代位権の行使としての差押えがされた後に発生した賃料債権については、物上代位をした抵当権者に対して相殺合意の効力を対抗できない。
(3) まとめ
本件は、これまで、学説・下級審で判断が分かれていた抵当権の物上代位と相殺の優劣関係について、最高裁として、抵当権登記との先後を基準とする対抗要件説に立つことを初めて明らかにしたものである。