花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

文化人類学的思考

2020-09-20 11:23:24 | Weblog
 土曜日の朝日新聞には別刷りの「be」が折り込まれていますが、その「be」には斬新な仕事に取り組む各界の方を紹介する「フロントランナー」という特集があります。9/19付に登場したのは立命館大学教授の小川さやかさん、著書「チョンキンマンションのボスは知っている」が今年の河合隼雄学芸賞と大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した文化人類学者です。

 小川さんはタンザニアでのフィールドワーク中にだまされ落ち込んでいた時、「ウソには理由もある。『なぜウソをつくか理由を考えるんだ』と諭され、「依存しあうのでも突き放すのでもない、あんばい。真面目すぎても、ちゃらんぽらんでもダメ」と、バランス感覚を学んだそうです。このバランス感覚は参与観察を行う際、観察対象の理解を深めるうえでとても大切だと思いますが、他にも小川さんは示唆的な言葉を述べています。

・「こうあるべきだというこちら側の規準が強いと、異なる社会の論理を見いだせない」

・「ストレートな提言の一歩前にとどまって思索を深め、そこから提示できる可能性を広げることも意義がある」

・「自己と他者のあいだの距離を意識しつつ、ゆっくりと思考を往還させ」る

 それぞれ文化人類学の思考法を端的に示しているように思います。分断社会と言われる今、個人と個人、個人とコミュニティ、コミュニティとコミュニティ、コミュニティと社会、あちこちに溝が出来、相互の理解が難しくなってきています。そのことで偏見や攻撃的な言辞が目につくようになりました。そういう時だからこそ、文化人類学的なものの見方が重要になっていると感じます。

 「はまると、寝てもさめても、そればかり考えてしまうタチ」、「老若男女にほれっぽい」と自認する小川さん。一方、バランスのとり方、距離のとり方に優れ、結論を急がず内在的に相手を理解しようとする姿勢を併せ持ち、情熱と合理的思考の合一が見てとれます。どちらかと言えば主流の学問分野ではありませんが、文化人類学的な眼を持った人が増えることを願います。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿