在原業平の作とされる伊勢物語で、主人公が晩年に差し掛かった時、「人はいずれ死ぬとわかっていたけど、それが間近に迫っているとは思っていなかったなぁ」と歌に詠みます。「つひにゆく 道とはかねて 聞きしかど きのふけふとは 思はざりしを」、がその歌です。さて、86歳にして南米最高峰のアコンカグア登頂を目指していた三浦雄一郎さんは、「きのふけふとは思はざりしを」の意識、つまり死を間近に感じたのかもしれません。三浦さんは、標高6000メートルの手前で下山を決意し、現在は無事下山してホテルに滞在中とのこと。22日の朝日新聞朝刊によると、「これ以上高い標高での登山活動は心不全をおこす危険性がある」としたチームドクターの判断を、三浦さんが受け入れたそうです。死のにおいを察知し、医師の意見を聞いて自重したことで、三浦さんは「つひにゆく道」を行き急がずに済みました。同じ朝日新聞には下山した三浦さんの次のコメントが載っています。「悔しいとは思わない。撤退させられたおかげで、次のチャレンジがある。」失敗をバネにする折れないこころで、三浦さんはきっと新しい目標に向けて歩き出すことでしょう。垂直がダメなら、水平があります。勇気ある撤退の後は、勇気を私たちに与える挑戦を、楽しみにしています。
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