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スーパームーン

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『世界哲学史7』―近代自由と歴史的発展

代数方程式論からガロア理論へ

+ラグランジュからガウス、 アーベルを経てガロアへ

ラグランジュ(一七三六~一八一三)以前に、四次以下の 下の代数方程式の代数的な一般解、すなわち加減乗除と冪根によって表現される解の公式は見つかっていたが、五次以上の代 数方程式については見つかっていなかった。 ラグランジュも同様に五次以上の代数方程式の代 数的な一般解を見つけることに成功しなかったが、彼は、四次以下の方程式の解法を分析し、 なぜ五次以上の方程式でそれがうまくいかないかを考えた。その結果、解の入れ替えによる対称性に方程式の解法の本質があることを見抜いた。ラグランジュの代数方程式の理論は『方程式の代数的解法についての省察』 (一七七〇) という著作の中で展開されている。

この著作の第一のプロセスでは、与えられた代数方程式から出発して、その解を探そうとす るのに対し、第二のプロセスでは、与えられた解から出発してその解を持つような代数方程式 を探す。第三のプロセスでは、解の入れ替えによる対称性を探究することによって、 代数方程式の代数的な一般解が求められる仕組みを顕わにする。すなわち、第一、第二のプロセスにお いて、 代数方程式という対象が扱われているのに対し、第三のプロセスでは、それが捨象され、 解の入れ替えという操作による対称性自身を主題化する方向に向かうのである。

代数方式の代数的な一般解が探される中で、n次代数方程式は重複を含めてn個の解を複素数の中に持つことがガウスによって証明された。 C・F・ ガウス(一七七七~一八五五)は著書『アリトメチカ研究』 (一八〇一年) において、数論や代数学の問題について、幾何学(作図に基づく構成的な幾何学)によって証明を与える。そして、五次以上の代数方程式は代数的な一般解を持たないことが、ガウスの平方剰余相互法則や定規とコンパスによる作図可能問題とも関わる円分方程式論に発想を得ながら、アーベル、続いてガロアによって証明された。

N・H アーベル(一八〇二~一八二九)は、ガウス、 ヤコビ(一八〇四~一八五一)と共に一九世紀を通して数学的発見の大きな源泉となっていく楕円関数論に大きな業績を残した数学者である。楕円関数とは、楕円や双曲線、レムニス ト(二点からの距離の積が一定の曲線の特別な場合)の 弧長の計算に由来する楕円積分の逆関数である。 アーベルは、この楕円関数を代数方程式論と結びつけながら、五次以上の代数方程式は代数的な一般解を持たないことを証明したのである。次いで、ガロアは、ラグランジュによる解の入れ替えによる対称性を明確にしながら五次以 上の代数方程式が代数的な一般解を持たないことを証明した。ガロアはえによって変わらない、今日〈体〉と呼ばれる加減乗除の四則演算で閉じた数の体系を顕わにすることで、代数方程式の代数的な可解性についての問題を解決に導くのである。解の入れ替えによる対称性の分解の仕方と、元々の代数方程式の係数の生成する数の体系に冪根を添加することによって生み出される数の生成する数の体系との間に正確な対応関係があることをガロアは示した。入れ替えの操作の分解の列と、その操作によって不変になる冪根の添加による数の体系の拡大 の列の間には包含関係を逆にして正確な対応関係があるのである。四つ以下のものの入れ替えの操作はある単純な規則性をもって分解されるが、五つ以上の入れ替えの操作にはそのような 分解は存在しない。そのことをもってガロアは五次以上の代数方程式には、代数的な一般解が 存在しないことを示したのである。

ガロア理論が成立するまでの方法的変遷

代数方程式の冪根を用いた一般解の探究についてのラグランジュ以前の方法からラグランジ の方法への移行と、カント哲学からフィヒテ哲学への移行との間には一種の類似性が見出せ る。ラグランジュもフィヒテも、カントのように対象の構成の可能性を経験の可能性と同一視 しない。ラグランジュは数学の方法を、フィヒテは哲学の方法を感性から、さらにそれらを対 象からも解放する方向へと向かう。すなわち、二人とも、存在と対象を純粋に知性において主題化するだけでなく、形式と操作を主題化する構造的方法へと向かっていくのである。

上述したガウスの幾何学的直観に依存する数学的方法を、ガロアは純粋に代数学的なものに 転換させながら、代数方程式の可解性についての問題を解く。ガロアの仕事の重要性は、代数方程式の可解性は解の入れ替えの対称性の問題に帰着され、代数方程式そのものは忘れてもよいことを示したことである。この入れ替えの操作そのものは数学的対象として主題化され、乗 法と単位元に対する逆元で閉じた〈群〉として捉えられることになる。また、加減乗除の四則演算を満たす数の体系は後にデデキントによって 〈体〉と名付けられることになるが、ガロアは、出発点となる体(基礎体)に冪根を添加して拡大された体(拡大体)を構成する方法を導入 する。

4  ガロア理論と群論の、関数論や幾何学、微分方程式論への拡がり

リーマン面の導入

一九世紀半ばまで、解析関数論は大きく発展していたが、複素関数(複素数を変数とする関数で、 一般には関数値も複素数)の良い性質〈解析性〉をいかに正確に定義するのか、関数の多価性をいかに扱うべきかということなど大きな問題があった。B・リーマン(一八二六~一八六六)は、 学位論文「複素一変数関数の一般論に対する基礎」(一八五一年)において、まず複素平面(複素 数を実数の軸と虚数の軸からなる二次元の平面ととらえる描像) のどの方向から近づけても同じ微分係数をとる複素関数を解析関数と定義し、このような関数は今日コーシー=リーマンの方程式と呼ばれる方程式を満たすことを示した。

この解析性についての条件の下、リーマンは多価の複素関数を、後にリーマン面と呼ばれる 幾何学的描像を用いて、一個の解析関数にすることを考える。リーマン面について本質的なことは、複素数上の多価関数であるということを、複素平面が複数枚重なり合っていることと解釈するということである。複素平面上の変数z点をα(通常は関数値がゼロになる点)の周りで連 続的に回転移動させた際、同じ変数値に戻るごとに関数は異なる値をとるような場合、変数zが一回転するごとに別の複素平面に移っていくと解釈するのである。このような点を分岐点αと呼び、すべての分岐点の周りで同様なことを考える。このような解釈を基にして、変数の定義域のある一次元複素空間と関数の値域のある一次元複素空間から成る二次元の複素空間すな わち四次元の実空間に埋め込まれた二次元の実曲面を構成する。このような関数の幾何学的描像がリーマン面であり、多価関数は一個の関数として理解されるようになる。

このリーマン面の中でもっとも単純なものの一つが、すべての分岐点の周りにおいて、 平方根の因子を持つ二価の関数についてのものである。その中で、 平方因子を含まない一次、また は二次の多項式の平方根を取った二価の関数のリーマン面は球面になる。 また、平方因子を含 まない三次、または四次の多項式の平方根をとった関数のリーマン面を楕円曲線と呼ぶ。 楕円 曲線は穴が一つ(種数一)のトーラス面(ドーナツ状の形の表面)となる。 そして、楕円積分は、 この楕円曲線すなわちトーラス面上の経路に沿った積分となる。 この見方が、それまでの楕円 積分の捉え方を大きく変えていくことになる。

しかし、K・ワイエルシュトラス (一八一五~一八九七) のような厳密性を数学の基礎に据え ようとする数学者は、リーマンの用いる〈面〉といった曖昧な概念は数学において用いるべき でないと考える。 そして、彼は、楕円積分の逆関数と等価である (ペー) 関数と呼ばれる無 限級数を用いて楕円積分の理論を展開していく。 そして、後に、様々な関数と群論の関係がリ ―マン面という概念を通じて明らかにされていく。

リーマン面の〈面〉とは何か。ガウスによる複素平面や三次元実空間内の曲面幾何学につい ては、二次元ないし三次元の物理的空間とのアナロジーの下、感覚表象的に視覚化可能である。しかし、何重にも重なり合った複素平面、ないし四次元の実空間(複素二次元)に埋め込まれた 二次元の面としてのリーマン面は、三次元の実空間の中において厳密な意味では視覚化不可能 である。このような理由から、リーマン面の〈面〉という幾何学的対象を、数学的対象として基礎づけることの必要性にリーマンは迫られることになる。そのような文脈の中で、リーマン は曲面幾何学(三角形の角度の和が一八〇度より大きくなる幾何学)や双曲幾何学(三角形の角度の和が 一八〇度より小さくなる幾何学)といった非ユークリ ッド幾何学を一般化する微分幾何学を構築し 始める「幾何学の基礎をなす仮説について」 (一八五四年)というタイトルの教授資格取得講演 の冒頭で、空間概念の基礎づけのために、現代の集合や位相に繋がる〈多様体〉の概念 (現代数学の多様体の概念とは異なる)を導入する。

+デデキントによる代数関数論と代数学の抽象化

代数関数とは、多項式関数を係数に持つ代数方程式の根として定義できる関数であり、楕円関数もそれに含まれるが、リーマンの弟子であるJ・W・R・デデキント(一八三一~一九一六) も、リーマン面による代数関数へのアプローチに満足しなかった。一方、一八七〇年代頃から ガロア理論が数学界で受容され始める。 デデキントは〈体〉という概念を導入しながら、ガロア理論にとって本質的な考え方、すなわち、〈体〉とは、有理数のように加減乗除の四則演算 で閉じた系であるが、ある体(基礎体)について、それ自身に含まれない元を添加することで 拡大体を生成することができるという考え方を表現した。 そして、このような体の拡大(ガロ ア拡大)に対応して、それを固定する群(ガロア群) が存在するとしたのである。

有理数と整数の概念が拡大され、数の集合が構成され、次第に大きくなっていく。ガロアが その理論を構築する中で導入したように、代数体(代数的数)とは、整数を係数とする代数方 程式の解として表せる複素数のことであり、その代数方程式の最高次の係数が一の場合に、そ れを代数的整数と言う。これらはそれぞれ、通常の有理数と整数の概念を拡大したものである。 デデキントとH・ウェーバー (一八四二~一九一三) は、 それをさらに拡張して代数関数体の理 論を、有理数体の拡大体である代数体の理論との類似性に導かれながら構築した。このように して、デデキントは代数関数論を代数的数論に導かれながら構築していくが、それを通して、 代数学は、任意の対象の集合上に定義された代数的な構造の科学へと変容していく。関数の集 合の生成する体系は、数の集合の生成する体系の拡張として理解されるようになる。 別の見方 をすると、代数関数論の中で、数概念が拡大されたともいえる。 そして、これらのことが大き な動機となって、デデキントは実数の基礎づけ、自然数の基礎づけ、さらに集合論の構築に向 かっていくことになる。

リーマン面は、類比的な意味にしかすぎないかもしれないが、関数の振る舞いを「目に見え る」ようにした。リーマンに続いて、ワイエルシュトラスが解析的な方法で、続いてデデキン トが代数的な方法でリーマン面を再構成した。 それによって、リーマン面に内在する構造が顕 わになった。ここで、構造とは、関数的対応関係に純化された同型性によってのみ定義されるものである。そして、この対応関係を顕わにすることこそ、数学的シンボルそして代数学の本質的役割である。ここには、カント哲学からフィヒテ哲学への移行と類似した移行が観察され る。また、それはカント哲学内部での直示的構成> から 〈記号的構成> へのフィヒテ哲学を 介した転換と理解することもできる。

エルランゲン・プログラムとリー群の誕生

クライン(一八四九~一九二五)はそのエルランゲン・プログラム(一八七二年)の中で、 変換群のもとでの不変量、すなわち群の顕わにする対称性こそが幾何学の基礎にあると主張し、 その見方において、 代数方程式論を正多面体の対称性と結びつける。例えば、四次の代数方程 式の一般解は、鏡像を含む正四面体、ないし正六面体の対称性と結びついている。また、五次 の代数方程式は代数的な一般解は持たないものの、その解の公式は正二〇面体の対称性と結び ついて楕円積分によって書ける。 クラインは、それらの研究によってガロア群の幾何学的意味 を顕在化させ、保型変換関数を不変にする変数変換) によるリーマン面を構成し、その中で双曲 幾何学との結びつきを明らかにする。一方、H・ポアンカレ (一八五四~一九一二)は、リーマ ン面に微分方程式論とガロア理論と結びついた群論(モノドロミー群)を結びつけながら、微分 方程式論の幾何学的描像を得ていく。

S・リー(一八四二~一八九九) は、常微分方程式が解ける条件をガロア理論と類似な方法を 用いて探究することを、一八七〇年代に自らに課した。リー自身はこの試みに成功しなかった が、有限次元連続群の概念を生みだした。リーは、微分方程式に現れる連続群についての一般 理論から、今日リー群と呼ばれる幾何学的にも非常に重要な連続群を生み出したのである。そ して、このことが、代数方程式の代数的解法と微分方程式のシステムの一般的積分の探究との 間に完全な類似があることを示したC・E・ピカール(一八五六~一九四一)とE・ヴェシオ(一 八六五~一九五二)の仕事に道を開いた。

さて、クラインは、「長さ」や空間の曲がり方の大きさを示す曲率を一定に保つ変換群の違 いによって、幾何学的空間の違いが生じると考え、曲率正の曲面幾何学や曲率負の双曲幾何学 といった非ュークリッド幾何学をエルランゲン・プログラムの中に包摂する。ちなみに、曲率 ゼロの空間はユークリッド幾何学の空間である。それに対して、彼は、位置によって異なる曲 率を持つ空間からは、そのような不変量は取り出せないとして、リーマンによって導入された 微分幾何学を重要なものと認めなかった。 しかし、微分幾何学は、物理学者アインシュタイン (一八七九~一九五五)によって一九一五年に見出された一般相対性理論という物理的時空の描像 に用いられた。さらに、数学者H ワイル(一八八五~一九五五)やE・カルタン(一八六九~一九五一)が、微分幾何学に内在するリー群によってその空間の対称性を顕わにした。このように微分幾何学はエルランゲン・プログラムの変換群による幾何学という視点に包摂されていくの である。

今日は「ローマの休日」の封切り日だけど 9時半には来れない だから スケジュールが変わるまで待ちます

 豊田市図書館の4冊
  302.27『シリア・レバノンを知るための64章』
301『戦略の世界史 上』戦争・政治・ビジネス
289.3『スターリンの図書室』 独裁者または読書家の横顔
104『人間自身 考えることに終わりなく』
104『残酷人生論』
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