古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

日本社会は階層化するか?

2005-03-28 | 経済と世相
 榊原英資さん(慶応大学教授・元大蔵省財務官)の『デフレ生活革命』なる本を通
読したら、こんな個所がありました。
 【森永は、日本経済の「非社会主義化」、あるいは、彼の言うアメリカ型階層社会
の実現とともに、一般的日本人の年収が今の700万円強から300~400万円に
下がることを前提に、ヨーロッパ型のゆとりある生活をエンジョイする方向にものの
考え方を変えていくべきだと主張します。(森永卓郎著「年収300万円時代を生き
抜く経済学」)】
 森永さんは、この階層社会化は小泉内閣の構造改革によるものだ、と主張するので
すが、榊原さんはこんな説明をしています。(要旨のみ)
【現在は、構造的インフレの時代から構造的デフレの時代へ,何百年に一回の歴史の
大転換期である。これからは、個人にとっては、借金をして住宅を購入することは、
経済的には得策でない。企業も同様に、資金を設備に固定することは得策でなくな
る。人間にも資金を固定したくないから、終身雇用とか年功賃金制とかは、維持でき
ない。】
 要するに,構造改革政策のためでなく、歴史の避けられない流れだと説くのです。
しかし、森永の説く「米国型階層社会」になるかどうかには懐疑的で、
【日本では、おそらく、欧米型階層社会は生まれないだろうと述べました。そしてそ
の大きな理由の一つが、日本文明が歴史的に持ってきた富と権力の分離にあるのだろ
うとも示唆しました。そしてこのことは、多くの日本人による企業の認識とも関係し
ています。 ・・・
 たしかに、私達は生活するために、つまり、そのためのお金を儲けるために会社に
勤めています。しかし、それだけでなく、会社の仕事に何らかの「公的」な部分を感
じているようなのです。】
【今までのいわゆるサラリーマンは、日本型経営の型が崩れてくるのにともなって、
そうした「公的」な役割、あるいは「公的」な役割をになっているという意識を失っ
ていく可能性があります。これが、森永がいう「階層化」の一現象なのでしょう。し
かし、これは必ずしも欧米的収入格差ということではなく、むしろ「公的」な目的の
喪失ということなのでしょう。】
 この問題の解決という視点で、榊原さんはこう言う。
【こういうなかで大きな機能をにないうるのがNPO型の組織なのではないでしょう
か。】
さらに、インターネットの発展が、NPO組織の発展を支えると説く。グローバル化
の時代に、
【情報化社会では逆にローカルな情報をグローバルに発信できます。特定の技術,特
定の知識に興味のある人達は一地域ではそれほど多くないかもしれませんが、グロー
バルに仲間を募ればかなり大きなグループになりえます。NPO,NGO等を通じて
世界中にネットワークを持ち始めてきています。・・】

 もう一つ、デフレとバブルの関係で、面白い指摘がありました。
 デフレを避けようとして、金融を緩和する。すると、通貨量が増えるが、物価は賃金の低い国から、ものが入ってくるので上がらない。そこで、有り余った通貨が、特殊な資産に集中する。これがバブルだというのです。

 以上,興味深い論議でした。

家計と福祉の逆サイクル

2005-03-22 | 経済と世相
 文藝春秋の4月号が面白い特集を組んでいました。「定年後の生き方」です。巻頭
で,堺屋太一さんが『団塊の世代「最高の10年」が始まる』と論じています。
【「団塊の世代はこれからむしろ真可処分所得が増える」・・・
・・・まず子供の教育費。大学生一人にかかる費用は、平均で155万6千7百円。
標準的な団塊家庭は子ども二人ですから、年間年間300万円を越える負担でした。
それが60代になる頃には、・・・負担がなくなります。・・・年平均120万96
00円も払ってきた住宅ローンが、この時期にはほぼ完済します。・・・第三に、親
がなくなると、介護の負担がなくなり、場合によっては遺産収入が入ってくる。・・
・定年を迎えた団塊家庭の家計をありのままに分析すれば、かってない豊かな消費者
の像が現れてきます。】
【・・・「暗い定年後」という偏見を捨てて、実態をありのままに見つめた時・・・
浮かび上がってくるのは団塊の世代の「最高の10年」】と言っています。
 堺屋さんの主張は少し楽観的に過ぎるきらいはありますが、『この世代で健康に不
安がないならば』という留保条件をつければ、概ね正しいと私は考えます。でも、私
がこの論文を特に紹介したのは、この点ではなく、堺屋さんの次の主張を紹介した
かったからです。

 【では何故、現在の団塊世代や60代の間に不安が立ち込めているのでしょう。
 まず一つは官僚たちが連日のように悲観シナリオを流している・・・官僚は例に
よって恐怖と不安を煽って、自分たちの権限を拡大しようとしているのです。
 そして、もうひとつには、家計と福祉の逆サイクルが出来上がっていることです。
若者から年金保険料や医療保険費を取り上げて、これを高齢者に年金や医療費などの
かたちで支給しています。公的なお金は若年層から高齢者に移転しています。
 ところが、家計では、高齢者が子供の世話をやく。子供の結婚資金の面倒をみた
り、住宅購入の頭金を出したり、孫の入学金を与えたりする。家計のレベルでは、上
の世代から下の世代へお金が流れている。しかも、この逆サイクルの途中では、役人
たちが介入して膨大な手数料を手にしている。社会保険庁問題はそのひとつに過ぎま
せん。
 この無駄な循環によって、上の世代には老後の不安が生まれ、下の世代には将来へ
の失望を招いている。】
 
 『無駄な循環を廃止する』。社会保障の再設計にはこの観点が必要だ。全く同感で
す。

ドーアさんのホリエモン考

2005-03-22 | 経済と世相
 ホリエモンがマスコミを賑わせています。識者の分析が新聞や雑誌に掲載されていますが、今回の問題を外国人はどう見ているかを知る上で,3月20日の中日新聞、ロナルド・ドーア氏の論説が面白かった。

【経済同友会の北城代表幹事は言う。「・・新株予約権の大量発行計画は、株主価値を希薄化するもので問題だ」。アメリカの機関投資家サービスの東京代表もメンバーへの報告でニッポン放送買収劇のいきさつを詳しく説明した後、ひねくってこう締めくくる。「この劇に登場する役者のなかで、一般株主のことを気にして考えたことのある人が一人いるかどうか、つまびらかでない。」
・・一般株主だけでなく、買収劇の報道にあまり出てこないもうひとつの利害関係者は従業員である。
 20年前に敵対的買収が日本人がすることでないとされていた時、企業は単なる働き先でなくて、一生その組織の中で働いてきた生え抜きの取締役、社長達をリーダーとする準共同体とされていた。企業は人なり。企業組織は人間と人間の関係なり。株主に安定配当さえ払えば、後は共同体の将来とメンバーの給料を優先すればよい。企業の成功の秘訣は社員の共同体意識に基づいた努力・忠誠・関わり方である。そうした意識をカネの力で変えれると思うのはドライすぎる――とされていた。
 当時、その「従業員主権」の思想が支配的であったひとつの条件は、株の持ち合い制度であった。今,「株主主権」に変えるのに、株の持ち合い関係が大幅に解体された。――政府の改革論者に政策的に解体させられた――ことが大きな要因である。
 持ち合い制度が完備されたのは、1960年代、資本自由化に直面した時、米国の大企業からの乗っ取りを防止するためだった。今度提出される「近代化」会社法案も同じ心配を起こしている。――外資会社にも自社株発行を許す規定をめぐって。そして、53のポイズン・ピル(毒薬)の代わりに「買取防止策」が表面化してきた。経済産業省がポイズン・ピル研究会を立ち上げるし、自民党は、買収を許すのは東京で上場している外資系企業だけにすべきだと主張する。
 企業買収の問題をナショナリズムの観点から考え直すのはいいが、従業員イズムの観点からも考え直してはどうだろうか。

 また、北城氏は【時間外取引による株取得について,違法ではないにしても、「フジテレビが株式買い付けを実施している中では好ましくなかった。・・社会の一員として行動すべきだ」】と言う・・・乗っ取り自体がドライすぎて、いけないという批判が一般的だった20年前には確かにそうであったが、いまはどうだろう。手前勝手の利益追求が、今、優れたものづくりの企業活動と全く変わりないものとして、ベンチャー精神の表れとして誉められる世の中になったように見受けられる。】

 要するに、「改革」と称して、社会の仕組みをアメリカ流に変えておいて、変えた結果のアメリカ的現象に、慌てふためいていると言いたいようです。

2005-03-19 | 読書
 暇つぶしに読むには絶好の本を見つけました。
 『俄(にわか)――浪花遊侠伝――』という小説です。司馬遼太郎の作品は、ほと
んど目を通しているのですが、この小説だけは読んでいなかった。先日東図書館に
寄ったら新本の棚に並んでいたので、文庫本(講談社)だが、手に取って奥付を見た
ら04年8月刊81版とある。81版と言うのは、よほど面白くて売れたのだろう
と、借りて来ました。

 昭和40年に報知新聞に連載された小説ですが、明石屋万吉という幕末から明治・
大正にかけて生きた大阪の侠客の伝記です。これは、本当に「小説」です。司馬さん
の作品は、「坂の上の雲」にしても「翔ぶが如く」にしても、「小説」というよりも
「大説」の趣ですが、これは、まさに「小説」。司馬さんのストーリー・テラーとし
ての才能を遺憾なく発揮した物語です。800ページもの大作ですが、巻を置くあた
わず、ストーリーを楽しみました。

 歴史好きの方には、蛤御門の変後の桂小五郎の逃避行、維新直後の堺事件の顛末な
どが楽しめますが、圧巻は鳥羽伏見の戦い。兵力では圧倒していた幕府軍が何故負け
たかが、よく分かります。

 小説の主人公は晩年、小林佐兵衛と名乗って日本第一の侠客といわれるようになっ
た頃,自分の一生を振り返って「わが一生は、一場の俄(にわか)のようなものだ」
といったそうです。俄とは、路上などでやる即興喜劇の意味です。「ほなら、往てく
るでえ」と言うのが,万吉の死ぬ間際の言葉だった。

 『相場師の目は、片一方が近目で片一方が遠目やないといけまへん』――10年先
の世の中がどうなるかという巨視的な観測と、きょうあすの相場がどう動くかという
手近な観測と二つが必要である、という。ところが大文字屋(相場師)の言うところ
では、普通相場師というのは10年先を見ない。1年先すらみない。・・・というく
だりがありましたが、ふと、ホリエモンは、10年先を見ているのかな?と思いまし
た。


小説家の発想

2005-03-17 | 読書
 高樹のぶ子「妖しい風景」というエッセイ集が文庫で出ていましたので、読んでみたら、
 女性作家というのは、こういう発想をするのか!驚くような文章に出会いました。

 たとえば、「バイアグラ」について、
【それまでは夫の肉体的老化と諦めていた妻が、私を愛しているならバイアグラを飲
んでよ、と言い出しかねない。飲んでもいいけど妻のためならいやだ、などと本音を
吐こうものなら、お家騒動間違いなく、静かにそれなりに落ち着いていた中高年の家
庭が、波立つかもしれない。】
 ううん、そんなこと考えてみたことなかったけど、言われてみれば・・・
【いや、夫が突然目覚めて妻が逃げ出すケースの方が多いかもしれない。何しろ男で
なくなった夫だからこそ、旨く付き合っていられる女房は山ほど存在するのであ
る。】
 本当に「山ほど存在する」の?

 息子との関係について 
【たとえば母親と娘のかかわりは私などには理解が楽だが、父親と息子となると、異
星人同志が愛し合ったり憎みあったりしているかのよう。「この男のDNAが母を介
して自分に入り込んでいる」という息子の実感は、どうやら母親への娘の気持ちとは
まるで違う・・】

 この男のDNAが母を介して自分に入り込んでいる?言われてみれば、そのとおり
に違いないけど、今時の息子って、そんなこと感じているのかなーー
 作家の思い過ごしだと思うけど、小説家って、凄い発想をするんだと、感じ入りま
した。


名古屋国際女子マラソン観戦記

2005-03-13 | マラソン

 今年も番狂わせの名古屋女子マラソンでした。昨年はオリンピック代表選考会を兼ねて、大本命のQちゃんがはじき出されましたが、今年も、日本最高記録保持者の渋井選手が34Km辺で後退。昨年37Km辺りで逆転された大島選手が,今日はその37Km地点で逆転。そのまま昨年の雪辱!と誰しも思ったのですが、38Km辺で、初マラソンの京セラ原選手にかわされる。なんと初マラソンの原さんが優勝して世界選手権のキップを得るという大波乱でした。
 日本の女子マラソンの層の厚さに改めて驚嘆です!

 1時ごろ、観戦に行こうと玄関を出ると,風が冷たい!この冷たい風は選手には応えるなと思いつつ、下の道路に下りると、それほどの風速でもない。しかし、ラジオで伝える”風速0.9m”よりは風は強い!と感じました。
 最初、中間点手前の路傍で待機していたら、タイム1時間10分ぐらいで、約10人のトップ集団があっという間に通り過ぎた。流石、鍛えているだけに、呼吸は、どの選手も乱れていない。
 その後、26Km地点に回る。しばらく待っていたら、一般参加の選手が来る(この地点は20Km地点でもある)。トップから随分遅れているな、しかし時計を見ると、まだ一時間半になっていない!20Kmを1時間半を切るというのは、アマチュアとしては相当早い。トップ集団がいかにエリートランナーであるかが分かる。
 トップ集団が来た。まだ8人ぐらい連なっている。次は30Km地点だ。
 折り返してきたが、まだ集団だ。これは予想と違う。前評判だと、この辺まできたら、渋井に付いて走れるランナーはいないのでは、ということだったが・・・
若しかすると,予想外の結果になるかも?と思った。
 UFJの大南が少し遅れてきた。左ひざの故障が伝えられていたが、やはり・・・
 その後、家に戻りTVで観戦。34Km過ぎてからの競り合いは圧巻。ゴールの瑞穂競技場、「先ほどまで雪が舞っていました」とアナウンサーが伝える。最高気温が8度ほどの名古屋でした。

 最後は、標記の結果になったわけですが,やはり、特に後半は風の影響があったようですね。マラソンという競技は、左足と右足を交互に前に出すだけの簡単な競技ですが、当日その時刻に体調を最高に持っていくのが難しいし、当日の天候に合わせてどの辺でスパートするか(ただ完走を狙うだけなら簡単ですが)、とても難しい競技です。

 TVの最終で、疲労困憊ながらもゴール(2時間31分)する大南選手を、
泣きそうな顔で見つめていた原選手の映像が印象的でした。
 (写真の3番手を走る赤のユニフォームが優勝の原選手)


--------------------------------------------------------------------------------




黄金の土地

2005-03-10 | 政治とヤクザ
 「佐々木吉之助」という名前をご記憶でしょうか?おそ
らく「知らない!」。では「桃源社」ってご存知ですか?「うーん、どこかで聞いたことあるみたい」かなり記憶力のよい方でこうでしょう。
 「住専問題覚えてます?」「あっ、そうか。住専から膨大な借金をして、返すとか返さないとか、国会に社長が参考人か、証人で呼ばれた会社だ」。ご名答!その桃源社の社長が、佐々木吉之助氏です。
 佐々木氏の著した「蒲田戦記」なる本が文春文庫から刊行されています。
 書名の由来は、蒲田駅前の旧国鉄用地を656億円で落札したことからの顛末を述べていることから。以下は、正月休み(いつも休みですが)にピーナツをかじりながらの読書感想です。

 住専に6850億円の公的資金をつぎ込むことで、8年前、国会が大騒ぎ。改進党の議員が議会で座り込んだあの騒ぎは、一体何だったのでしょうか?今、銀行には数十兆円の公的資金が投入準備、先だっての”りそな銀行”だけで2兆円も、国民の血税が、いとも簡単に投入されています。住専問題は、銀行に税金投入の前例を作るための儀式だったんですね。

 この本には、実名で有名人が登場。最初の登場は「新井将敬」。この名ももう忘れられていますが、汚職疑惑で検察に呼ばれ、自死した衆院議員。当時は大騒ぎでした。蒲田の土地の入札の前日「入札を辞退せよ」と、電話で佐々木氏に圧力をかけたとあります。高級ウナギ屋に佐々木氏を呼びつけておきながら、利なしとみるや、新井が勘定も払わずさっさと玄関を出て行くシーンには思わず笑ってしまいました。

 橋本竜太郎の秘書が、桃源社と興銀の間を仲介して、浮利を得ようとする話も出てきます。 以前、「政治家とヤクザ」を論じたことがあります。
興銀対佐々木の攻防を読んで、「メガバンク」も「ヤクザまがいのこと」をやってるんだ!と、「日本は三権分立の民主主義国家ではない。日本にあるのは(日本の権力構造は)政・官・業・ヤクザの”鉄の四角形”で、不況が克服できないのはヤクザの為である」(「日本がアルゼンチンタンゴを踊る日」)は正しかった?と、昨年の自分のメールを読み直した次第です。

 バブル経済は断じて自然現象ではない、人の誤り、政策の誤り。【日本経済が土地本位制、土地兌換性の基盤に立って運営されていることが全くわからない】役人や政治家が、バブルを作り破裂させたと、実名で非難している点も率直で良い。
 【バブル経済を急速につくり上げた宮沢喜一、バブルを破裂させた橋本竜太郎、それに三重野康の三人は、多くの人々の生命を奪い、財産を毀損せしめたA級戦犯である】

 もう一つ、吃驚する話があります。蒲田の落札した土地に鹿島建設がビルを作るのですが、建て始めたら工事担当者が佐々木氏のところに来て言う。
「地表から7m下の敷地内を斜めに走る内径約7mの巨大土管があります。・・この中は下水ですから、雨水など生活排水、糞尿などが中を流れている。」
「土管の内面には何万トンの水圧がかかり、流速は1分間に数百メートル・・・地下を単純に掘っていくと、どうなると思います?中空に浮いたお化け土管は必ず、真っ二つに折れます。するとどうなると思います?蒲田の町は糞尿の都になってしまいます。途中で締めるバブルもありません。」
 656億円の土地から黄金物が湧出するなんて出来すぎた話と思いませんか。
追伸:2004年正月のメールの再録です。

日本国憲法(1)

2005-03-07 | 読書
 最近、憲法改定論議を聞くことが多い。もう一度、憲法全文を読み直して見たい
と、「英語で読む日本国憲法を読む」(島村 力著、グラフ社、平成13年)という
本を図書館で借りてきました。著者の島村さんは元中央公論編集長。どうせ読むな
ら、英語文と比較して読もうと考えたのです。
 なにしろ、日本憲法は、米軍占領下で制定され、マッカーサー司令部が起草したも
のを、日本語に翻訳したという噂もありますから、英文と比較した方が、文意をつか
めるのでは?と思ったのです。
 英文憲法は、日本国憲法が公布府された時、英文官報に掲載され、「六法全書」に
も収録されていたが、今では六法全書からは姿を消している。その理由はわかりませ
ん。
 憲法を読んだのは、高校一年生の「社会」を学んだ時ですから、52年も前の話で
す。再読してみて、あれっ、こんな風になってた?と吃驚したところがあります。
 前文にこうありました。
「・・・政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにする・・
・」、英文では
「・・never again shall we be visited with the horrors of war through the
action of government,・・」
 戦争が起きるのは政府の行為だと、明確に書いてある。
 日本国憲法の草案を、マッカーサー司令部が起草して、当時の日本政府に示したと
き、「政府の行為による戦争・・」という文を見て、政府高官は愕然としたことで
しょう。松本国務大臣は「前文カット」を佐藤達夫法制局部長に指示したそうです。
日本側が総司令部に提出した「憲法改正要綱」には前文はなかった。アメリカ側は前
文がないのに興奮して抗議し、日本側はあっさりと前文を認めた経緯があり、そのせ
いか、前文の英文はほとんどマッカーサー草案と同文だということです。

 この文言を書いた人は、相当革新的(あるいは左より)な人だったらしく、「戦争
は国家、即ち国の政府が起こすものだから、政府が戦争を起こさないよう、国民は政
府を監視すべきだ」と言いたいようです。この件に関しては、私も相当革新的(ある
いは左より)でして、その通りだと思うのです。
 以前述べたと思いますが、近代国家は戦争に勝つために考え出されたシステムで、
国家を作れなかった国は、属国になるか、植民地になるしかなかった。
 逆に言うと、戦争は国家が行うもので、国家以外の個人やグループが行う戦争行為
は、戦争でなく、テロである。話は別になるが、この意味で、北朝鮮の拉致事件をテ
ロという人がいるが、あれは政府がやったものだから、テロでなく、戦争である(宣
戦布告はないが)と思う。小泉首相は国家賠償を要求すべきだ。(続く)
 

日本国憲法(2)

2005-03-07 | 読書
 次は、憲法9条です。
 島村さんの本から、1946年、憲法草案を審議した国家での発言を見てみます。
 南原繁(貴族院)『戦争はあってはならぬ。是は誠に普遍的なる政治道徳の原理で
はありますけれども、遺憾ながら人類種族が絶えない限り戦争があるというのは歴史
の現実であります。従って私共はこの歴史の現実を直視して、少なくとも国家として
の自衛権と、それに必要なる最少限度の兵備をかんがえるということは、是は当然の
ことでございます』
 鈴木義男(社会党衆院議員)『戦争の放棄は国際法上に認められて居ります所の、
自衛権の存在までも抹殺するものではないことは勿論であります。』
 野坂参三(共産党衆院議員)『ここに戦争一般の放棄ということが書かれてありま
すが、・・この憲法草案に戦争一般放棄という形でなしに、我々は是を侵略戦争の放
棄、こうするのがもっと的確ではないか』・・・これに対して吉田首相
 『正当防衛、国家の防衛権による戦争を認めることは、戦争を誘発する有害な考え
だ』

 最も本質を突いたのは、吉田首相の発言と思います。吉田さんは朝鮮戦争後、米国
から軍備強化を要求される度に、憲法9条を盾に、極力軍備費を少なくして、経済復
興に努めました。
 確かに、国家は戦争が出来るように考え出されたシステムですから、戦争をしない
国家と言うものは、『ふつうの国』ではない。
 しかし、日本が『ふつうの国』になって、海外派兵が出来るようになった時、自衛
隊は日本独自に行動できるだろうか?米国の世界戦略に組み込まれ、いわば米国の傭
兵(傭兵ならお金を貰えるけれど、貰えるどころか持ち出しになるだろう)になるの
がセキの山!ではないだろうか。
 こうした時代が来ることを見越して、9条を定めた先人の知恵を無にすべきでな
い。
 小泉さんには、吉田大先輩の爪の垢でも飲んで欲しい。と思うのです。今日は、吉
田首相の命日でした。(続)

 

日本国憲法(3)

2005-03-07 | 読書
 憲法の話、次は第24条です。
『結婚は両性の合意のみに基づき、夫婦が同等の権利を持つことを基礎として、お互
いの協力によって維持されなければならない。二項 略』
 英文『Marriage shall be based only on the mutual consent of both
sexes and it shall be maintained through mutual cooperation with
the equal rights of husband and wife as a basis』
 この第24条について、私は『合意のみ』の『のみ』が気になるのですが、これに
ついて後日述べることにして、面白い裏話がありますから紹介します。

 芳紀22歳のベアテ・シロタさんが原案を起草したというのです。彼女は2000
年5月2日の参議院憲法調査会で証言しています。(彼女は、妊産婦や非嫡出児の保
護、長子単独単独相続権の廃止なども起草したという)
『ケーデイス大佐は「あなたが書いた草案はアメリカの憲法に書いてある以上です
よ」といいました。私は、当り前ですよ。アメリカの憲法には女性という言葉が一項
も書いてありません。しかし、ヨーロッパの憲法には女性の基本的な権利が詳しく書
いてありますと答えました。私はこの権利のために闘いました。涙も出ました。しか
し、最後には運営委員会は私が書いた条項から・・今の第24条だけを残しました。
・・・私はそのとき、22歳でした。だから、その運営委員会が、私より随分権力を
持っていたのは仕方がないと思いました。』
 原案が次々と削除されたとき、シロタさんは感情的になって大声で泣き出したとい
います。
 日本側との交渉では、シロタさんは通訳として、見事な活躍をしています。日本側
の代表として孤軍奮闘した佐藤達夫法制局第一部長は、シロタさんの印象を次のよう
に回想しています。
『法律論の相手は、ほとんど私一人で務めたわけであるが、その通訳は、主として、
ミス・シロタという司令部側の婦人がやってくれた。この人は・・・痩せぎすの、大
して美人ではなかったけれども、日本語もよくわかる非常に頭のいいむすめさんで
あった。・・・』(『日本国憲法誕生記』)
 徹夜に及ぶ日米間の作業の中で、第24条が合意に達したのは深夜2時ごろでし
た。この草案に消極的だった日本側が、ケーデイス大佐の「シロタ嬢は女性の権利に
ついて心を固めている。はやくこれ通そうじゃないか」という発言に促されて同意し
た背景には、シロタさんへの日本側の評価が幸いしたと言えるでしょう。 (続)