古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

FOXP2

2014-01-29 | 読書
ネアンデルタール人は3万年前に絶滅したそうです。ヒトは、現在も地球上で繁栄している。その差はどこから?
 【神がヒトに与えた賜物と言える「奇跡の遺伝子」があります。「FOXP2」という名の遺伝子です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/FOXP2
 FOXP2はヒトだけでなく、サルやマウスをはじめ、ほかの動物にもあります。しかし、ヒトのFOXP2遺伝子は2か所に変異が起こっていると考えられます。
 わずか2か所の変化ではありますがこの変異こそが、ヒトの能力に劇的な相転移を引き起こした・・・・この新しいFOXP2を手に入れたことで、ヒトは言葉を繰ることができるようになったようなのです。】
【そもそもFOXP2の発見の経緯が言語の研究からです。言語障害のある家系で、原因となる遺伝子を探っていったところ、FOXP2の変異に行きついたというわけです。】
【この人類の至宝ともいうべきヒト型FOXP2遺伝子を、なんとマウスに組み込んでみるという、神をも恐れぬ大胆な実験が行われました。マックス・プランク研究所で行われた研究です。
 マウスは、言語を操るための舌や咽頭などの身体道具は持っていませんから、さすがに言葉を喋ったりはしませんが、ヒト型FOXP2を埋め込まれたマウスは声質や探索意欲が変化していることがわかったのです。さらに、大脳皮質の一部で、神経線維が長くなり、シナプス伝達の可塑性も増強されていました。】
 【言語の役割は大きく二つあるといわれます。「通信手段」と「思考ツール」です。
 情報伝達のために音波を用いるという使用法は、ヒトの言語に特有のものではなく、虫や鳥たちの鳴き声も同じことです。
 したがって、二つめの役割である「思考ツール」として言語を活用することこそが、人間らしさを生み出しているといってよいでしょう。
 言語がいかに私たちの認知や内省を実現しているのか、逆に言えば、もし言語がなかったら、どこまでヒトの心は豊かでありえるのかという問題は、とても興味深いものがあります。ボストン大学のバレット博士らは、「自分や他人の感情に気付くことができるのも、言語をもっているからではないか」と考察しています。
 持っている語彙が、ヒトの意志や思考や行動に独特のパターンをもたらします。】
 言語を繰るようになったヒトが生き残り、私たちより図体が大きく、筋骨隆々であっても、言語を持たなかったネアンデルタール人は絶滅したとのことです。

ヒトとネアンデルタール人

2014-01-28 | 読書
『脳には妙なクセがある』(池谷裕二著、2013年12月刊、扶桑社)を読んでいて、とても面白い文を見つけました。
【衝撃的なことは、ヒト自身もネアンデルタール人と交配してきたらしいのです。ネアンデルタール人は50万年前に人類と分岐した後、別の「種」として生き、3万年前に絶滅しました。
 ところがネアンデルタール人の骨からゲノム解析を行った結果、彼らの絶滅の直前にヒトと交雑した形跡があることが判明しました。私たち現生人類の遺伝子の1%以上がネアンデルタール人に由来しているのです。
 ネアンデルタール人は知的生物ではあったにしても、私たちより図体が大きく、筋骨隆々で、体毛も濃かったと言います。言葉も持ちませんでした。ですから私たちがふつうに創造するような「人類」というより、外見的にはむしろ巨大な野獣に近い存在だといってよいでしょう。
 そんな生物と交尾しようというのだから、なかなか勇気ある行為です。
 ところが話はそれほど単純ではありません。ネアンデルタール人のミトコンデリアにはヒトとの混雑の証拠がないからです。ミトコンデリアは母系遺伝します。つまり交雑は、ネアンデルタール人の「男」とヒトの「女」の間で生じた可能性があるのです。】
 【今回のネアンデルタール人の交雑の発見から、もう少し奥深いことがわかってきました。混血が認められるのは、現代人でも白人や黄色人なのです。アフリカ系の黒人にはネアンデルタール人との混血は見られませんでした。
 この事実から、次のことが想像できます。人類はもともとアフリカ大陸で誕生し、そこで生活していました。その人類の中からネアンデルタール人(あるいはその祖先)が誕生します。私たち現代人という「種」が誕生するより、ずっと昔の話です。
 化石や遺跡の分析から、ネアンデルタール人はアフリカ大陸ではなく、ヨーロッパ大陸に住んでいたことがわかります。つまり、彼らは早々にアフリカ大陸を離れ、寒いヨーロッパ大陸にわたり、そこで生活を営んでいた】
 【さて、つぎに現代人についてですが、・・・現代人には大きく2種類が存在する・・白人・黄色人系とアフリカ黒人系です。
 数万年前、私たちの祖先の現代人の一部が、果敢にもアフリカ大陸を離れて、ヨーロッパ大陸に渡った。そこには、すでにネアンデルタール人が住んでいた。新参者のヒトとネアンデルタール人との間で、DNAに残る痕跡から、交雑が生じたことは確かです。】
 ネアンデルタール人の男ヒトの女が交配し、ヒトの男とネアンデルタール人の女の交配はなかった。何故なんでしょう。(続く)


賢帝の経済政策

2014-01-22 | 読書
『日本人へ』(塩野七生著、文春新書、2013年10月刊)を読みました。
一番面白かった箇所を、以下に紹介します。
【法律も政治も経済もまだ「学問」として成立していなかった時代のリーダーは、何を参考にして統治していたのか。私が書くのはそろいもそろってこういう時代の統治者たちだが、それでもけっこう上手くやっていたように思う。
 紀元2世紀に入った頃のローマ帝国は、・・・この時期の皇帝だったトライアヌス帝はダキア(現ルーマニア)まで制覇し、ヨーロッパ・中近東・北アフリカまでも網羅したローマ帝国が、その領土を最大に広げた時代である。だが、大帝国のトップになったトライアヌスは、あることに気付く。帝国の領土は最大になったが、その帝国にとっては本国にあたるイタリヤ半島が、「空洞化」しつつあるのに気付いたのだった。
これも、彼も含めたこれまでの皇帝たちの苦労の果実でもあるのだが、「パクス・ロマーナ」(ローマによる平和)が帝国の全域にまで浸透したおかげで、ローマ市民の投資先が本国から属州に向かうようになっていたからである。
 いまだローマが帝政に移行しきっていない共和制時代の末期、つまりユリウス・カエサルの時代、しばらくすればカエサル暗殺の首謀者になるブルータスは属州に投資していて、その”リターン“が48%にもなった。あの時代はまだパクス・ロマーナが帝国の全域にまで広まっていなかった。それで属州への投資はハイリスクを覚悟せざるをえず、ゆえにリターンも「ハイ」であったのだ。一方、安全な本国イタリヤへの投資は、ローリスクでローリターン。
 ところが、それから150年が過ぎたトライアヌス帝の時代ともなると、帝国では辺境も平和を謳歌するようになり、とはいえ蛮族侵入の危険はゼロになったわけではないので、その地域への投資はミデイアムリスクくらいはあり、ゆえにリターンもミデイアムに留まったまま。にもかかわらず、本国への投資はあいかわらずのローリターン。
 これではマネーどうしたって属州に流れてしまう。そして、それによる投資の減少は、雇用の減少につながる。失業者の増大をどうかしなければ、統治者としては失格だった。
 皇帝トライアヌスは、あの時代にも経済学者やエコノミストがいたならば断じて反対したに違いない、非経済学的な暴挙を決定したのである。皇帝立案で元老院に議決をつまり法律化を求めて実現した政策だが、当時の基幹産業は農業で、ゆえに大規模農園は現代の大企業と考えてよく、元老院議員の多くはこの種の農園のオーナーだったので、元老院に法律化を求めたということは、現代日本なら経団連に加盟している大企業にすべてに求めたということになる。
 毎年の収益の3割は、絶対に本国に投資すること、がそれだった。現代のように税制は複雑でないので、税金は経費などを除いた所得ではなく、除く前の収益にかけられていたから、稼いだカネの3分の1は本国に投資せよ、というわけだ。この法律の成立後には本国の農地の値段が上昇したと記録にもあるので、法律で決まった以上はしかたなく元老院議員たちも本国に投資するようになったのだろう。
 だがこうなれば、ローマ時代の経営者とて頭をしぼる。頭を絞った結果は、付加価値が高いから単価も高くなる物産の生産になってあらわれた。本国イタリヤは、農産物でさえも輸出できるようになったのだ。パクス・ロマーナのおかげで属州でも経済力が向上していたから、高価でも需要があるように変わっていたのである。
 しかし、増えた投資も雇用の増大につながらないかぎりは本国イタリヤの経済力の向上にはならない。そして、雇用の増大にはそれに応じられる質と量の人間が必要だ。トライアヌス帝は、今ならば少子化対策にあたる政策まで法律化する。ローマ時代の「成年」は、男子ならば17歳、女子ならば14歳だったが、成年に達するまでは毎月、平均すれば13セステルテイウスを与えると決めたのだ。ローマ軍団の兵卒の月給でも、その10倍前後であった。
 100年前に皇帝アウグストウスが、力量が同等なら3人の子持ちのほうを登用するという、いわゆる「3人の子持ち法」を法化していたから、皇帝トライアヌスは、それを、成人後でも返す必要のない育英資金で強化したということになる。トライアヌス帝の治世は20年に及んだので、これらの政策を確たるものにする時間も充分であったのだった。
 トライアヌスの後を継いだのは、ハドリアヌス帝である。この皇帝の業績で最大のものは、21年に及んだ治世の大半を費やして行われた帝国全域をまわる視察行だろう。それも、“SP“を大勢従えての旅ではなく、パクス・ロマーナが浸透していたことを実感させるような少人数の旅で、しかも滞在先は快適で安全な大都市ではなく、辺境に置かれた軍団基地の視察だった。
 この視察行の目的は、再構築・再編成という意味ならばこれこそが真正のリストラだと思わせるもので、おかげでローマ帝国全域の防衛は、ハドリアヌスによってスリム化しつつも効率のほうも、格段に向上したのである。
 このハドリアヌスの後に皇帝位に就くのは、アントニヌス・ピウスだが、この人物はこんな言葉を残している。「責任を果たしていない者が報酬をもらいつづけることほど、国家にとって有害な行為はない」というわけでこの皇帝は、治世の23年を使って、何も手を打たないと自然に肥大化してしまうという性質をもつ、公務員機構改革を進めたのだった。
 この3人に、ネルヴァ、アウレリウスを加えた5人の皇帝の時代を、歴史上では「五賢帝の時代」と呼ぶ。(以下略)】
 正しい経済政策は、経済学を知らなくとも実行できるのですね。

スポーツ医事相談

2014-01-19 | マラソン
17日夜、白鵬が勝ったのを見て、直ぐ出掛けました。年1回の「スポーツ医事相談」です。毎年、年末に受診していましたが、昨年末は申し込みが遅くなって、「1月17日まで空いていません」と言われて、この日になったのです。
 10年以上、継続して毎年受診するのは、運動能力、筋力などの測定をしてもらい、現在の運動を続けてよいか、専門医師の見解を聞くのが目的です。私にとって、いわば「スポーツ維持相談」です。
 6時40分、笠寺駅前の総合体育館に着き、診断室に行きました。寒かったので、先に検尿を採り、受付け、受診料は500円です。
 運動着に着替え検査を始めました。
 身長、体重、体脂肪、肺活量測定と進み(身長が170.6、昨年より4mm縮んだ?)、次は 脚伸展パワーの測定です。
 これは、シートベルトで体を座席に固定し、両足でペダルを蹴飛ばし、その時の力をワット数に換算して表示する検査です。結果は、486Wで、前回421Wだから、脚の筋力は落ちてない。ただし一昨年と比べると100Wぐらい落ちた。
 一昨年までは、年間1400㎞ほど走っていたが、昨年は年間600㎞だから、その影響だろう。体脂肪も13.6で、以前の11~12より増えている。
 その後、ベッドに横たわり、心電図をとり、最後は自転車エルゴメーター。これは、自転車をこぎながら心電図をとり一定の時間間隔で血圧、脈拍を測るものです。脚にかかる負荷(ワット数で表示)は徐々に増加させていきます。
測定は、11分余、血圧が215に達した時点(最高負荷132W)で負荷終了、後3分間はダウンでペダルをゆっくり回して終了です。
いつも、この検査は、最後は汗びっしょりになりますが、今回はほとんど汗なし。今年は確かに寒い冬です。
 着替えをすませてから、担当医師のコメント。「昨年までの体力が維持できているようで、全身持久力(予測最大酸素摂取量)は維持されています。」
予測最大酸素摂取量(ml/㎏・分)は57.9(前回58.8、前々回52.9)ですから、持久力はまったく落ちていません。
これが落ちていないということは、少なくとも、持久力については完璧です。
最後はスポーツ・アドバイザーのアドバイスです。
「前回までの体力は維持されています。心拍数87~104拍を目安に運動を継続してください」。
私が質問「前回はウルトラマラソンをやっている女医さんに診てもらいましたが、彼女はお元気ですか?」
「あの方、転勤されたので、最近の様子は存じませんが、お元気だと思います」と、微笑まれました。


アベノミクスの評価

2014-01-13 | 経済と世相
 1月もはや中旬になりました。今年の世の中の動き、識者はどう見ているかと、13日、県図書館に出掛け雑誌に目を通しました。
 「世界」2月号に、寺島実郎さんが「脳力のレッスン」と題する寄稿で述べていました。
【世界的脈絡の中でのアベノミクス再考。
 アベノミクスの本質が外国人投資家依存の株高幻想に過ぎないことは何回か触れてきた。2012年11月の「解散総選挙」、「安倍政権成立」から1年、異次元の金融緩和と財政出動を誘発剤として外国人の投資を招きこんで形成してきた危うい臨界点に差し掛かってきた。2013年12月6日の時点で、解散(2012年11月16日)からの外国人投資家の日本株への買い越しは累計15.0兆円となった。この間の日本の機関投資家は累計6.2兆円、個人投資家は累計7.7兆円の売り越しであり、日本人は累計13.9兆円も売り越しているのである。「アベノミクス効果での株高」とはやしながら、実は日本人は心底でアベノミクスなど信じていない。日本の未来などに投資することなどなく、外人によって株が上がっているのをよいことに、平然と売りぬいてきたのである。
 外国人投資家といっても、主体は「育てる資本主義」の産業金融ではなく、ヘッジファンドなど「売りぬく資本主義」のマネーゲーマーである。株、債券、為替、不動産、いかなる分野であれ、「利ざやを狙う」ことだけを考える、移ろいやすい主体である。先進国こぞっての超金融緩和と新興国(BRICS)への過剰期待が後退した局面で、行き場のないカネが日本に流れ込むという世界金融構造の歪みを背景とした株高であり、決して実体経済の向上ではない。春先からは世界金融は、異常な緩和基調からの「出口」を求めて動き始めるであろう。
 日本の資本主義の性格が変わりつつある。この1年間で外国人が15兆円買い越し、日本人が14兆円売り越したことにより、東証上場企業の外国人保有比率は3割を超した。配当性向への配慮など、日本の企業経営は変わらざるをえないだろう。それは、労働分配へのしわ寄せをも意味する。「格差と貧困」は静かに進行している。ヘッジファンド主導のユーフォリヤ(株高幻想)が去った時、食い散らされた焼け跡に立ち尽くすことになってはならない。技術と産業に立つ「実体経済」と、税と社会福祉の在り方を問い詰める「公正な分配」についての真剣な議論が今こそ喚起されねばならない。
 愚かな呪術経済学にはまり、「異次元の金融緩和」に酔いしれていた時代としてアベノミクスが位置付けられるようでは、国民的悲劇である。「成長力を取り戻す日本」を世界は期待していると思いがちだが、現実は、歪んだ金融資本主義のマネーゲームの草刈り場を提供し、おだてられ陶酔しているにすぎない。】
 筆者の主張を、私はこう解釈する。
 『アベノミクスは、実体経済にほとんど何の影響も及ぼしていない。この意味で、「安倍・黒田氏は何もしていない」という主張は正しい。しかし、先進各国に倣って、異次元の金融緩和をしたので、カネは世界の投機資金をふくらまし、その投機資金の多くが、日本円を売り、日本株の買いに、廻った。「アベノミクス」効果とは、アナウンスメント効果である。』

池田教授の卓見続編

2014-01-07 | 経済と世相
『池田教授の卓見続編』が週刊朝日1月3/10日号に載っていました。
【北朝鮮のような特殊な国は措くとして、グローバリゼーシヨンの波に飲み込まれている国は、労働者の権利を抑えて、多国籍企業の利益を最大化する方向へと政治的な流れが動いていくことは間違いない。TPP然り、雇用特区然り、そして・・特定秘密保護法もこの延長にある。アメリカでも日本でも、政治的なエスタブリッシュメントはグローバリゼーシヨンの恩恵に浴する人々だからだ。反対に大多数の一般国民はこの恩恵の埒外にある。しかし、民主主義国家では、一般国民を騙さない限り、国民に不利な政策は遂行し難い。そこで、様々なアメをちらつかせると共に、国民の危機感を煽って政権を取り、議会で絶対多数を握れば、後はやりたい放題となる。
 グローバリゼーシヨンを止める一番の近道はエネルギーの枯渇か、人口減だが、人口が減らずにエネルギーが枯渇すれば、それはそれで別のややこしい問題が起こるだろう。場合によっては資源争奪戦争になりかねない。アメリカでシェール革命が起こらずに、このまま石油資源が枯渇に向かうと、グローバリゼーシヨンは厳しい状況に直面しただろう。アメリカでも日本でも原発を推進したのはこの故である。しかし、今やアメリカは原発に頼る必要はなくなって、新規の原発建設を止めてしまった。
 鍾愛的に最も有効なグローバリゼーシヨンを抑える方法は少子化である。エネルギーが枯渇せずに人口が減れば労働力は希少になり、労働者の権利も増大するだろう。だから、少子化反対と言うのは年金問題云々よりも、グローバリゼーシヨンの陰謀なのだ。
 しかし、エネルギー資源量をコントロールすることは誰にとっても不可能で、グローバリゼーシヨンに抵抗するために、子供を産まない選択をする人もいるとは思われないから、現状ではグローバリゼーシヨンの波を止めるのは難しい。一般国民にひとつだけできることがあるとすれば、選挙では政権党に投票しないことだ。少し前、ねじれ国会だった時に、政策を迅速に遂行できないのは国益に反するなどとバカなことを言っていた人がいるが、予算案以外の法案など通らなくて国民が困ることは何もない。ねじれこそ政権の暴走を止める装置なのだ。アメリカは共和党が政府の債務上限引き上げに反対してデフォルト寸前になったが、赤字国債の自動発行を15年度まで認めている日本に比べ、はるかにまともだ。反対勢力の歯止めが機能しない所では、どんなデタラメもとおってしまう。非効率こそ民主主義の真髄なのだ。】
 多数に物言わせて秘密保護法を成立させた現政権に「多数を握れば、後はやりたい放題」とお腹立ちらしいですが、現在の世界の趨勢を的確に語ってみえると思います。
 すなわち、民主主義の形骸化と資本主義・自由市場の失敗(経済の自由化が市民の福祉向上に貢献できない)が、21世紀初頭の大問題であることを指摘しています。
卓見だと思う所以です。
 それにしても過去20年、国会で成立した法案で、国民の福祉に貢献したものが、あったのでしょうか。

グーグルで必要なことはみんなソニーが教えてくれた

2014-01-03 | 読書
『グーグルで必要なことはみんなソニーが教えてくれた』(辻野晃一郎著、平成25年4月刊、新潮文庫)を元旦、二日で読みました。
 本屋の立ち読みで「えっ、こんな本あるの」と見つけました、本の帯に、阿川佐和子さんが「日本はどこまで落ちていくのか。そんな不安に打ち勝つヒントを、辻野さんは星の数ほどおしえてくれる」、また経済学者の金子勝さんは「これはビジネス本ではない。敗北の物語である」と記している。
 更にエピローグ(後がき、立ち読みでは最初に後がきを見る癖がある)には、
「東京マラソン当日の2007年2月18日は、あいにくみぞれ混じりの冷たい雨が降りしきる厳しいコンデイシヨンとなった。スタートの新宿都庁前から、ゴールの東京ビッグサイトまでの42.195㎞を、「これはどう考えても人間が走る距離ではないな」、などと思いながら何とか完走した、とあった。
 第1回東京マラソンは私も完走している。あの寒い日、この著者も走っているのだと、購入したのです。
 著者は、私は知らなかったのですが、1957年生まれ、慶応義塾大学院電気工学科を卒業、ソニーに入社、88年にカリフォルニア工科大学院修了。2006年ソニーを退社、翌年グーグル入社。その後グーグル日本法人代表取締役就任、2010年4月、同社を退社し、アレックス株式会社を創業とのことである。

 グーグルという会社を物語るエピソードが載っていました。
 【(日本法人の)社長になってすぐ、エレベータに乗っていると、若い社員が「新しい仕事にはもう慣れましたか」とコーヒー片手に話しかけてきた。私が「まあね」と答えると、笑顔で「そうですか。それは良かった。じゃ、頑張って」とエレベータを降りて行った。】
 因みに、グーグルの創業は1998年9月とのことです。
クラウド・コンピューテイングについての解説が第9章にありました。
 【グーグルという会社については、「検索エンジンの会社」と説明されているが、「クラウド・コンピューテイングの世界を構築する会社」と定義するのが最もふさわしい。】
【クラウド・コンピューテイングとは、インターネット上に存在する無数のサーバ群が提供するサービスを、それらのサーバ群の存在を特に意識することなしに利用できるコンピューエイング環境を指す表現である。】と書いています。
分かり易く言うと、例えば私たちは、データやアプリケイシヨンソフトをハードデイスクに保管していますが、自分のHDに保管しなくても、ヤフーやグーグルのサーバに保管し、必要な時にダウンロードして使うことができます。  自分のHDに保管する場合、自宅でないと利用できませんが、サーバにあれば、インターネットに接続できる所ならどこでも利用できます。データ・クラッシュもセキュリテイも専門家がお守りをしてくれますから、自分でやる必要はない。少なくとも外付けHDの必要は全くない時代になっています。
グーグルのすべての事業は、クラウド・コンピューテイングの実現を目指すものだそうです・
「グーグルの見つけた10の事実」という章があります。グーグルのカルチャーがうかがえますので、その中のいくつかを紹介します。
【Fast is better than slow 遅いより速い方がいい】
(当り前のように聞こえますが)【ソニーのように、ハードウェアを量産する会社では、「やることにリスク」というのが非常に高い。速くても、拙速で売れない商品を量産し、在庫の山を築いた瞬間にそれは会社の経営を直撃する。一方、ネットの世界では、むしろ「やらないことのリスク」の方が高い。一般に、ウェブの世界は参入コストも撤退コストもハードウェアの世界に比べれば桁違いに小さいので、いいアイデアやテクノロジーを持っていても動きがわるいと、誰かに先行され、みすみすチャンスを逸する。】
ソニーのテレビ部門のプレジデントに就任した際、「ネットワークと共に進化するテレビ」を目標にした筆者は、これからの商品はネットにつながることにより、「ネットでメンテナンスできる商品」としての性格が強くなりますと説きます。
【You can make money without doing evil 悪事を働かなくともお金は稼げる。悪いことをやろうと思えば、リアルの世界だろうがネットの世界だろうが関係ないが、ネットの世界ではその気になれば見えないところでインチキなことを比較的簡単にできる】
【Democracy on the web works ウェブでも民主主義は機能する。民主主義、多数決に基づいた公平性、ということを非常に重視している。たとえば、検索結果の順位を表示するためのアルゴリズム、「ページ・ランク」でもこの多数決による公平性の遵守が基本的な考え方となっている。】
【Great just isn’t good enough「すばらしい」では足りない。
全世界のユーザーがまだ具体的にイメージしていないニーズを予測して商品やサービスを開発し、新たなスタンダードを作り出すことが必要です。】

この本では、ソニーが何故業績悪化したか。詳しくは語っていない。しかし、それをうかがわせる記述は見られます。
【デジタルエンターテインメントの世界は、インターネットと連携した優れた生態系をトータルで作り上げることが勝負なのであって、昔のようにオフラインのデバイスの優劣で勝負が決まる時代ではなくなった。
しかし、当時の旧ウオークマン部隊の人たちは、iPod対抗策を議論するときに、依然として「音質のよさ」とか「バッテリーの持ち時間」、果ては「ウオータープルーフ(防水加工)」などの話を主題として持ち出してくるので唖然とした。】