古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

新聞の二つの記事

2011-11-29 | 経済と世相
TPPについて先日送信しましたが、23日の新聞で、松原東大教授が、「理解できないTPP参加論」なる寄稿をしていました。
TPP参加論者は、要するに、参加しないと日本は輸出が出来なくなる、と言っているようですが、輸出は、関税(TPP)よりも為替相場がどうなるかを考えないといけない。私も松原教授に、まったく同感です。

理解できない「TPP参加論」
 【筆者には(TPP)賛成論の論旨がほとんど理解できない。
 例えば、「アジヤの高い成長力を取り込む」という言い方がある。だが、取り込むとは何のことか。アメリカがこの先輸出先として期待できないから、アジヤへ輸出したいということか。
 けれども仮にアジヤへの輸出先が拡大したとしよう。そうすればその国の通貨が入ってくる、そして輸入はしなかったとしよう。そこで起きるのは、その通貨が中長期的に円に対して安くなること、つまり円高だ。円高になればその国には輸出できなくなる。
 実際、これまで日本はアメリカに対して輸出するほど輸入せず、それゆえドルがあまることになり、円高圧力が強まった。仕方なくドルを米国債他に投資する(米国債の輸入)政策を採り、積みあがった対外債権は250兆円にも上がった。世界一の金持ち国である。
 けれどもこの米国債は、果たして富といえるのか?売れば円高を誘発してしまうから、持っているだけである。しかもリーマン・ショックを経てアメリカは金利を下げたため、金利目的ではこれ以上、米国債を購入する理由も薄れてしまった。・・・
(TPPで)一部の産業は価格競争に耐えられなくなり、アメリカの安い製品を輸入することになろう。
 関税で守られてきた産業の競争力が低いから仕方がないのだ、という見方もある。・・・
 日本人の賃金は、昨年からの円高でドル建てでは40%とかの水準で高騰している。外国人が日本で働きたいというのはもっともであり、日本の製造業が海外に工場移転するのもまた然り。輸入を拡大しない限りその傾向には歯止めがかからない。
 ある産業が輸出攻勢をかければ円高になり別の産業は競争力を削がれるというのはともに「円」という通過を用いて貿易を決済するからこそ生ずる現象なのだ。だからこそハイエクは、自由貿易というなら通貨も自由化し、複数を国内で流通させるべきだとした。過激な策だが、各産業が別の通貨を使えば上記の問題はなくなる。
もしくは、TPP加盟国で共通通貨を使うという手もある。「ユーロ」に相当する貨幣を創出する。・・・その場合、わが国は関税自主権どころか、金融政策の自主権を失うことになる。
 いずれにせよ通貨にふれないでTPPを論じても的を外すことになる。】
(松原隆一郎東大教授、11月23日中日朝刊)

 次に、11月25日の中日夕刊・大波小波欄に「原発推進の舞台裏」なる記事がありました。
以前送信した「原発と権力 1~3」と読み合わせていただけると、とても興味深い記事です。
【原発事故半年を機に特集した米週刊誌『ニューヨーカー』(10月17日号)の「フクシマからの手紙 放射性降下物」を読むと、(原子力関係)予算の大盤振る舞いに合点がいく。日本人の核アレルギーを取り除くため、米政府が日本に原発推進をたきつけていたというのである。
 東西冷戦の激化の1955年代、アイゼンハワー大統領は核への反発から日本が米国離れするのでは と思い悩んだ。広島、長崎の悲劇に加えて、54年3月、マグロ漁船「第5福竜丸」が水爆実験による死の灰を浴び、反米世論が盛り上がった時である。
 大統領は国家安全保障会議で「日本からは鼻持ちならない戦争屋と見られている」とぐちった。国務長官代理は「日本人は核兵器に病的に敏感だ。原発をつくらせて原子力時代に誘い込むのがベストの対応です」と応じたと、秘密メモを基に報じている。
 これを受けて、大統領は国連総会で原子力の平和利用を宣言。日本に対し、政界は中曽根康弘、民間は読売新聞社主・正力松太郎に狙いを定め、CIAも加わって原発の技術、資金援助を進めたという。国際政治の世界は油断も隙もない。】


名東区のウオーキング(3)

2011-11-28 | 旅行
 昼食後、学習センター前の猪高緑地公園に入る。センター前の道から這入ったら、いやに険しく狭い道で、少し上ったら「通行止め」!迂回路の図があったが、それを見ると、センター前の道まで戻れとある。やむなく、戻って、公園西側の迂回路へ。こちらの方が道は広い。
戦前はこのあたり一帯、名東区のほとんどが里山と田園地帯だった。猪高緑地は元々谷地を利用して作られた農業用のため池と雑木林からなる場所で、このあたりの住民は炭や竹そしてお米をここで作って生活を営んできた。しかし高度経済成長時代以降、名東区がベッドタウンとなっていくにつれ、この雑木林は誰も手入れをしなくなり荒れ放題になった。そこで住民と行政が一体になって里山保全活動を行うこととなり、「いだかの森」として里山の風景を残していくことになった。一度は失われてしまった里山風景を取り戻し、現在では、このいだかの森が昭和30年代以前当時の姿を保っていると言っても良い。森にはその昔農業用に作られたため池や、コナラ、ヒノキといった林が残されている。
短い距離だが、山中の気分を味わい、広い道に出たところは、名東区スポーツセンターだった。先ほどの障害者スポーツセンターの東隣だった
次は観音寺だ。十一面観世音菩薩があるという。北へ途中、5km地点の貴船公園で小休憩した。公園の北隣にも貴船社という神社がある。雨の神様で、昔の農民にとって水がいかに大事であったか、よく分かる。

観音寺の上り坂を上がると、クロガネモチの大樹(写真)があった。名古屋市の指定保存樹と
のこと。

11面観音様は、観音堂はあったが、鍵がかかって中をのぞいても、残念ながら、お姿を拝見できなかった。
観音寺の参拝を終わると、ゴールの地下鉄本郷駅まで5~600m。無事に全員完歩できました。
後は地下鉄でおうちへ。3時20分帰宅しました。

名東区のウオーキング(2)

2011-11-28 | 旅行
途中、屋根を突き出した柿の木を見た。
写真は屋根から飛び出す柿の木

 交差点をわたると前方左に森が見える。そこが明徳寺だった。立派な石段です。柴田勝家の産まれた地、山門前右に下社城跡、左に柴田勝家公生誕地の碑が立っていた。
 勝家の生まれた頃は、下社城だったらしい。
境内で掃除などしている男性がいた。
「この辺は、柴田さんという家が多いですね」
「戦前は、柴田と加藤ばかりだった。柴田のほうがやや多かった。空襲で疎開の人たちが見えて、それ以外の姓もあるようになった」と教えてくれた。
周辺の豪壮な邸宅は概ね「柴田」の表札を掲げている。さしずめ「柴田の荘」です。

石段を降りて大通りを東へ。ベーカリーベックというパン屋さんあった。
「おいしそうだから、買っていかない」と奥様方が言う。しばし買い物。ここまで3km。さらに東へ。障害者スポーツセンターのある交差点に出た。斜め右の坂を上ると、名東区の生涯学習センターがあった。12時10分前、昼食にしようと、学習センターのロビーに入り、喫茶部のお姉さんに「後で珈琲頼みますけど、ここでお弁当を使わせてください」。皆で弁当を広げた。Sさんが「NOZUEさん、これ食べない?」と、先ほどのベーカリーで買ったジャガイモ入り固焼きのパンをくれたので、ご好意に甘える。

名東区のウオーキング(1)

2011-11-28 | 旅行
 25日はシニアクラブのウオーキング。男性2名、女性5名の7人で名東区にでかけました。お天気は良い。気温は低いが、風はないので、それほど寒くはない。行き先のポイントは、明徳寺(みょうとくじ)と猪高緑地です。明徳寺は、柴田勝家が居をかまえていたところで、猪高緑地は昭和30年代頃までは里山でしたが、現在「いだかの森」として整備されています。

10時10分ごろ、地下鉄東山線の上社(かみやしろ)駅に着きました。名東区は東名名古屋ICがある区。駅から高速道路のコンクリート造りを横断する歩道橋を渡って東へ。最初に訪れたのは神蔵寺。柴田勝重が15世紀に創建したと伝えられます。

坂道を上がると、墓碑が立ち並ぶ。柴田某なる名前の立派な墓石が多い。柴田勝家の係累のようだ。隣に貴船神社という雨の神を祀る神社があった。お寺と神様が共存して祀られている。
南へ、植田川の散策道を歩いていくと、窓の形のユニークな建物があった。名古屋商業大学寮である。その前を東へ曲がると陸前町の交差点。


暗黒物質と暗黒エネルギー

2011-11-26 | 読書
宇宙論の話の続きです。
暗黒物質、暗黒エネルギーの追求は、理論物理学の基本理論に関係するようになりました。宇宙に働く力を分類していくと、重力、電磁気力、強い力、弱い力の四つに分けることができる、という話は耳にしたことがあるとおもいます。強い力、弱い力とは、正確には、強い核力、弱い核力です。原子核よりも小さな距離でしか働かない力です。

【宇宙の研究は、宇宙は3次元空間と1次元の時間の4次元でできていて、しかも一つしかないということが前提になっていました。しかし、研究を進めていくと、宇宙は、どうやら違う姿をしているらしいことが分かってきた。多元宇宙という言葉には二つの意味があります。
一つは多次元宇宙、空間は3次元ではなく、もっと次元が多いという宇宙論。もう一つは、多元宇宙、宇宙は一つでなく複数あるという宇宙論です。】
まず、多次元宇宙について。
【何故、多次元宇宙が存在すると考えるのか?宇宙は多次元だと言ったのは、1921年、数学者のテオドール・カルーツア。そして1926年に物理学者のオスカー・クラインも異次元があると唱えました。
二人は何故そう主張したのか。アインシュタインの成し遂げられなかった夢、力の統一理論、電磁気力と重力を一緒に説明できる理論、を完成するためでした。
重力は電磁気力と比べてとても弱い(重力の大きさを1とすると、電磁気力は10の36乗)。片方はものすごく弱くて、もう片方が凄く強いという二つの力を同じように説明することは出来ない。しかし、5つ目以上の次元があれば、例えば、重力が5次元に向かうことが出来るが、電磁気力は5次元には行かないと仮定すると、重力の弱い力が説明できる、という形で統一理論が出来るかもしれないというのです。実際1998年こうした理論が発表され、研究者に衝撃を与えました。】
そこで私は思うのですが、『空間が3次元であるというのは、人間の感知能力では3次元までしか感知できないという意味であって、空間が絶対的に3次元であるということではない(「ひも理論」という最新の物理の理論では宇宙空間は9次元だという)。4次元以上の空間で働くエネルギーを把握できていないので、残りの95%は何なのか、分からないのでは?』
多元宇宙論については(これも興味深いのですが)割愛します。

結局、現在、暗黒物質について物理学者のやっていることは、暗中模索。実験や観測で得られた事実をつなぎ合わせて、矛盾がないような説明を考えているのです。
 興味深い話題、満載の本でした。

宇宙論の話

2011-11-25 | 読書
『宇宙は本当に一つなのか』(村山斉著、講談社新書、11年7月刊)を読んでみました。「ニュートリノが光より早かった」という実験が話題になり、宇宙科学最先端の話題を知りたくなったのです。「暗黒物質」、「暗黒エネルギー」が興味深々でした。
 まずは、「はじめに(前書き)」から
【私たちは学校で、万物は原子でできていると習いました。ですが、その原子は宇宙全体の5%にもならないのです。ここで疑問になるのが、残りの95%は何なのか。実は約23%は暗黒物質で、約73%を占めるのが暗黒エネルギーなのです。全部足すと誤差の範囲でちゃんと100%になります。暗黒物質も暗黒エネルギーも、名前はついていますがその正体はわかりません。】
【暗黒物質という考え方が最初に提起されたのは1933年のことです。銀河団の中の銀河の運動を観測したフリッツ・ツビッキーが、最初にそういった。
最近の観測では銀河団のほとんどが暗黒物質でできているそうです。どうしてそれが分かるのか?重力レンズ効果を利用して、暗黒物質の分布が分かります。重力レンズ効果とは、アインシュタインが予言したもので、光は重力に引っ張られて曲がる。そのため、遠くにある銀河や星の光は変形して地球に届く。この重力レンズ効果が、今は正確に測定することができるようになったのです。
暗黒物質の(分布)地図作りではっきりしたことは、暗黒物質は原子ではない、つまり、宇宙にある物質の8割以上は、原子ではないということです。】

第4章で暗黒物質を論ずる。【暗黒物質は、ニュートリノ以上に、他の物質と反応せずに、地球などもすぐに通り抜けてしまう物質です。電子やニュウトリノと同じような小さな粒々の粒子だとおもいますが、反応はしない。重い素粒子と想像されます。】
第5章で暗黒エネルギーを論じます。
【暗黒エネルギーは暗黒物質と並んで、宇宙を作るものの中で正体がわかっていないものです。正体不明のエネルギーなので、暗黒エネルギーといっています。暗黒物質のほうは、10年以内にその正体が明らかになるのではないかと期待が持てるようになってきましたが、宇宙の全エネルギーの73%を占めると考えられている暗黒エネルギーは、まだ糸口がつかめていない。
今のところ、私たちは暗黒エネルギーを見ることも感じることも出来ません。しかし、宇宙のエネルギーの約四分の三を占めているものが、どこか一部の場所に偏って存在するとはあまり考えられないので、私たちの周りに既に存在するはずです。
暗黒物質も、暗黒エネルギーも、それがどんなものか分かっていないのに、物質とエネルギーとに分けているのはなぜか。一番の違いは、宇宙が大きくなると暗黒物質は普通の物質と同じように薄まるのに対し、暗黒エネルギーは薄まらない。暗黒エネルギーを発見するきっかけは非常に遠くの宇宙で起きた超新星爆発です。】
 超新星の観測から宇宙は常に膨張し、その膨張速度は速くなっていることが分かりました。
【宇宙には、目に見える星や銀河などより、目でみることの出来ない暗黒物質のほうが多く存在します。ところが、宇宙が広がっていけば、その分薄まっていきます。そうなると、宇宙のなかのエネルギー密度が低くなり、宇宙の膨張速度は遅くなると、物理学者は考えていました。ところが、観測結果はそうでなかった。宇宙が大きくなるにつれて、どこからともエネルギーが湧き出てくる。何故そうなるのか。それは宇宙が大きくなっても薄まらない何かがある。それを暗黒エネルギーと名づけた。】(続く)

政治家たちが凡庸に見える

2011-11-22 | 経済と世相
 『週刊司馬遼太郎 8』という本を読んでいたら「たかが15年の歳月 されど15年の変化」というコラムがありました。朝日の和田宏氏の寄稿です。小生が退職してから、15年ですから、印象に残りました。
【司馬さんが亡くなって15年が経った。世の中の変化がめまぐるしくてあのころの総理大臣の名もすぐには出てこない。
 ペリーの来航から維新まで、これも正味15年、この間、毎日のように時局が変化し、まさに激動の期間であった。・・・
 フランス革命などで見るように、変革期には人材が群がり出る。しかし見方を変えれば、人材が出揃ったから変革期が来たともいえる。ペリーが来るまで、江戸後期は日本の周辺に強国の圧力がひしひしと押し寄せ、幕府の体制は古びて、事態に対応する力を失っていた。それが危機感を呼び、人材に苗床を用意し、育て上げたといえる。
 歴史を見れば、古代中国から近代に至るまで、変革すべき時なのに人材を欠いて、国が滅んだ例のほうが普通である。
 江戸期の人口は3千万で頭打ちだった。いまの世界で見ると、アフガニスタン、ウガンダ、モロッコあたりの人口しかなかった。これで迫りくる先進国の圧力に立ち向かおうとしたのだ。・・・
 現今の政治家たちがそろって凡庸に見えるのは何故だろう。いまの日本は変革を要するほど差し迫っていないのか、変革すべき時なのに人がいないのか・・・・背筋が寒くなってきた。】
という文章です。
『現今の政治家たちがそろって凡庸に見える』。残念ながら同感です。
どういう点で凡庸に見えるのか?
 村上龍さんのエッセオ「無趣味のすすめ」(幻冬舎文庫、10年4月)に、こんなくだりがあったことを思い起こしました。
リーダーの役割という章です。
【どんなに優れた資質があっても、「何をすればいいのかわからない」リーダーは組織を危うくする。リーダーは「どこに問題があるのか」「何をすればいいのか」わかっている人でなければならない】
 今の政治家を見ていると、これが本当に分かっているのか?と思ってしまうのです。
 和田宏さんは、鋭いコメントをされる方で、以前「週刊 司馬遼太郎」を読んだ時にも、感銘を受けたコメントがありました。
http://blog.goo.ne.jp/snozue/d/20100715


金融が乗っ取る世界経済

2011-11-20 | 読書
筆者の言う「日本経済のアングロサクソン化」とは、企業経営の株主主権主義への傾斜です。
 ドーアさんは、この株主主権主義に反対し、「ステークホルダー経営」を説く。
【株式会社は、理念的には企業価値を可能な限り最大化してそれを株主に分配するための営利組織であるが、同時にそのような株式会社も、単独で営利追及活動ができるわけではなく、一個の社会的組織であり、対内的には従業員を抱え、対外的には取引先、消費者等との経済的な活動を通じて利益を獲得している存在であることは明らかであるから、従業員、取引先など多種多様な利害関係者(ステークホルダー)との不可分な関係を視野に入れた上で企業価値を高めていくべきものであり、企業価値について、もっぱら株主利益のみを考慮すれば足りるという考え方には限界があり採用することはできない。(ブルドックソース事件東京高裁判決)】
 続いて「「株主主権主義」と「世界経済の金融化」との関係。
 【「株主主権主義」への傾斜は「世界経済の金融化」と無縁ではない。
「投資」の意味が変わった。19世紀~20世紀、資本所有者は、自分の判断でモノをつくり、有用なサービスを提供する事業家に直接投資した。
現在は、それと対照的に、投資取引は、カネで生産手段を作る/買うために行う投資行動より、今手放す金融資産がより高い資産価値を持って帰ってくるための取引が圧倒的に多い。東京株式市場で、日本の会社が「モノ」をつくるための新規上場会社の株売却による資本調達の総額は、2000年から2009年まで、難関最低1.4兆円、最高6.2兆円だった。2007年の年間株売買の「出来高」(約1000兆円)の微々たる部分でしかない。】
そしてこうした「金融化」の背景には「国家の社会保障の衰退化」がある、と解説しています。
 【1945~80年の間、先進諸国で著しかった傾向の一つは、集団的保険、国民のリスク・プールを作る社会保障制度を徐々に完備してきたことである。いわゆる賦課制の原理を貫徹する制度が基本だった。
 賦課制の原理とは、年金制度について言えば、今年の老人給付を、今年現役で働いている人たちの掛け金で払うような制度である。
 高齢化、少子化の時代が襲ってくると、掛け金を払う人・給付を受ける人のバランスが変わってくる。その対策として、次のような提案がある。
① 現役の人の掛け金をだんだん上げる。
② 毎年の掛け金収入と給付のギャップを消費税など国税の一般収入で補う。
③ 「国家共同体の中の分かち合い」という原理の代りに、基金制度と「自己責任」の原理に行こうする。つまり、個人のレベルでいえば、給付を貰う権利が、自分の一生の掛け金の累計額、およびその貯蓄/投資の利回りによって変わるという原理を採用する。
 (日本は)過去15年間は第三の対策に重点を置いてきた。アメリカの税制から名をとって「401k」の個別基金勘定を、国家年金にも、会社年金にも導入し、医療の自己負担分を増やしたりして「自己責任」の原理を推進してきた。
 こうして年金基金、医療保険基金などが膨張し、市民同士の絆ではなく、資本市場が社会保障の基本となっていく(これを「国家の社会保障の衰退化」と筆者は言う)。その結果、金融資本はますます膨張せざるをえない。年金基金の資産額は、資産価格の変動でかなり変動するが、金融危機でもっとも価値が下がった2008年には、世界の合計が、世界のGDPの58%であった。09年には70%にあがったのだが、まだ07年のレベルに及んでいなかった。
 「リスクの個人化」、「社会保障制度の衰退」が、金融資本の著しい拡大の一つの源泉であったことは明らかである。】

 さすが、日本の研究者!日本の社会、経済を鋭く分析展望しています。

ロナルド・ドーアさんの新刊

2011-11-19 | 読書
『金融が乗っ取る世界経済』(ロナルド・ドーア著、中公新書11年10月刊)を読みました。「あとがき」の問題提起が挑戦的です。
【本書で描いた日本経済のアングロサクソン化は、米国が西太平洋における軍事的覇権国であり、日本と安全保障条約を結んでそこに基地を持ち、その基地を移設しようとする内閣(たとえば鳩山内閣)を倒すくらいの力がある、という事情と密接な関係がある。
 詳しく論じる余地はなかったが、3,40年も経てば、西太平洋における覇権国家は中国になっているだろう。2010年、北朝鮮が韓国の延坪島を砲撃した。世界的な避難が広がる中、アメリカは黄海での韓国との合同軍事演習に航空母艦ジョージ・ワシントンを派遣した。この空母の航入を、中国は一時激しく拒否した。後で認めることになるのだが、この事件は長い冷戦の始まりにすぎないだろう。米ソの冷戦は半世紀近く続いた。熱戦にならず、何千万人もの犠牲者を出さずに終わったのは、ゴルバチョフが東中欧における米国の覇権を認め、「負けた」と手をあげたからだ。
 今度は半世紀も要さないだろうが、中国が勝ちそうだ。なぜそう思うかと言えば、次の条件を勘案しているからだ。
◎ 今後の米中の相対的経済成長率
◎ 政治的課税力――国庫収入の視聴率
◎ 国威発揚の意志の強さ――軍事予算拡大の用意
◎ 人的資源(日中ではIQ分布は似たようなものだから、優れたミサイル技術者になりうる頭脳を持つ日本人が一人いれば、中国には10人いる)

西太平洋における覇権の交替はほとんど必然的だと思うが、それについての大問題が三つ。
① アメリカにゴルバチョフはいるか、である。それとも、何千万人もの死者が出そうな実際の衝突、つまり戦争の勝ち負けに決済がゆだねられるか。
② その頃になると、徐々に東洋のモデルになるだろう中国の経済は、米国と同様な個人所有権がオールマイテイの組織になるのか。そして、アメリカのような成功した人とそうでない人の格差が大きい社会となるか、それとも儒教的な家父長主義な政策をとってより平等な社会になるのか。
③ 土壇場になっても、日本は依然として米国に密着しているのか。独立国家として、米中が何千万人を殺しかねない衝突に突き進まないよう、有効に立ち回れるのかどうか。】

ロナルド・ドーアさんは、イギリス人の日本研究者。農村、教育から経済にわたるまで多方面にわたって記念碑的な著作を発表。
1925年、ポーツマスに生れる。戦時中、日本語を学び、1950年、江戸教育の研究のため東京大学に留学。現在、ロンドン大学LSEフェロー、という。(続く)


TPP問題を愚考しました

2011-11-12 | 経済と世相
「TPP問題」が話題になっている。以下は、小生のTPP論です。
まず、TPPの参加国、
TPPの発足時の目的は、「小国同士の戦略的提携によってマーケットにおけるプレゼンスを上げることであった(2006年5月、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国が協定を締結)。2010年10月、アメリカがこのTPPに目をつけ、アメリカ主導の下に急速に推し進められることになった。

加盟国・交渉国に日本を加えた10か国のGDPを比較すると、その91%を日本とアメリカの2か国が占める。さらに、オーストラリアを加えると、実に99.7%になる(アジヤの成長力を取り込むと首相は言うが、中国も、韓国も台湾もインドネシヤもカナダもロシヤも加入していない)。
つまり、環太平洋といっても、大国は日本とアメリカ。だから、日本が加入しないと、アメリカにとって、TPPは意味がないといってよい。
だから、アメリカ政府は日本に加入を強要しようとしている。

アメリカはTPPで何を狙っているのか?
米国は第二次世界大戦以後、世界一の覇権国の地位を維持してきた。この立場を維持し続けるには(下世話な話だが)、カネがかかるのだ。かつては米国の経済力は抜群で、貿易で稼ぎまくることが出来た。ところが、ベトナム戦争の出費で疲弊し、さらに日本や欧州の追い上げで輸出競争力は落ちてきた70年代、ニクソンによる金ドル交換の停止、ドルは変動相場制に至った。金本位制を離脱した時点で、ドルの基軸通貨はなくなるはずだったが、米国は軍事力と政治力で中東を押さえることにより、ドルがあれば石油が買える、石油本位制にした。しかし、米国製造業の競争力低下が続き、80年代後半、プラザ合意で、ドル切り下げの軟着陸を実現した。しかし、ドルが安くなっても、製造業は依然として強くならない。ここで、米国は製造業を諦めて、金融業とITで稼ぐことにし、一時これは成功したかに見えた。しかし、リーマン・ショックで、完全にこの路線が失敗した。
かくて、アメリカは「もう一度、米国企業の競争力を強化して稼がねばならない」。ここで、TPPに着目した。「TPPという仕組みの中で、その加盟国の国内では、アメリカ企業にアメリカ国内と同様に稼げるようにしよう」。そのためには、小国連合に経済大国(日本)を加盟させ、TPPを再編成しようというのである。
つまり、TPPは米国の輸出を増やす仕組みであって、日本の輸出を増やす仕組みではない。関税をなくすといっても、アメリカはどんどんドル安に持っていく方針だ(ドルが機軸通貨でなくなることも覚悟した?)から、仮に関税がゼロになっても、円高の損で日本の輸出は伸びない。

では、何故、野田総理はかくも反対の多いTPPに前向きなのか?アメリカの覇権が今後も続くと、考えているからだ。アメリカが世界を支配する体制が続く限り、日本には、米国に協力しないという選択肢はない。
TPPは、日本にとって、コメなど単に農業の問題ではなくて、外交の基本に関する問題なのだ、と愚考します。