さて狂牛病である。
狂牛病の発生原因は、肉骨粉だと特定され、その使用が禁止された。
ヨーロッパでは、従来から牛、豚、羊など家畜から食用肉を取り去った残りやくず肉をあつめて、加熱・脱脂し、これを乾燥させ粉末としたものを家畜飼料として”リサイクル“することが行われていた。これが肉骨粉である。草食動物の牛を肉食動物にする行為だった。このことは、草が牛の体内に入り、牛のタンパク質となる元素の流れを人為的に変える行為だった。
狂牛病の発生を見て、1988年7月、イギリス政府は肉骨粉を飼料として使用することを禁じたが、国内だけで輸出は禁止しなかった。
日本に狂牛病の発生が確認されたのは、2011年秋以降で、今日までに14例である。
狂牛病の原因の探求はどうであったか。
スタンリー・プルシナーは狂牛病の病原体として「プリオン説」を提起し、1997年、ノーベル医学生理学賞を受賞した。「プリオン説」とは、狂牛病の犯人はタンパク質だという説です。病原体は細菌にせよウィルスにせよ、遺伝子を持っていた。ところがプリオンは遺伝子を持たない。遺伝子を持たないタンパク質がどうして感染や増殖が出来るのか。
プルシナーは、狂牛病にかかった動物の脳を正常な動物の脳と比べ、病気の脳に蓄積している特有のたんぱく質があることを見出し、これこそが病原体と直感し、プリオンタンパク質と命名した。プリオンタンパク質には正常型と異常型があり、異常型の方に感染性がある。正常型はヒトを含む健康な動物ならみな体内に持っている。外部から異常型が侵入すると、体内の正常型を次々異常型に変え、脳内に異常型が増えて臨界値を越すと発病するというのだ。
一般に、病気の原因として病原体の存在を立証するためには、
1) 病気にかかった個体にその病原体が必ず検出され
2) その病原体が分離・精製され
3) それを他の個体に摂取したとき同じ病気が起こること
プリオン説は1の条件は満たしている。
2について、プルシナーは、1982年、病原体の精製に成功したと発表した。ところが科学雑誌「セル」に掲載されたその論文には、重要な一文が挿入されていた。「最終的に精製したプリオンタンパク質には感染性はなかった」
状況証拠は「プリオン説」に有利であった。
いくら探しても細菌もウィルスも見つからない。通常の細菌やウィルスを死滅させる処理でも感染能力は消えない。プリオンタンパク質を持たない(ノックアウト)宿主は発病しない、など。しかし
ノーベル賞の後光に守護されているとはいえ、プリオン仮説は不完全な仮説である。
福岡ハカセは、本の最後にこう述べている。ハカセの一連の著書が一貫して述べていることでもある。
『シェーンハイマーが数十年前見出し、そして今、ふたたび、狂牛病禍が我々に問いかけているもの、それは全く同じである。「分子は流れ、私たちを通り抜け、とどまることはない」。
繰り返して云おう。炭素でも窒素でも地球上に存在する各元素の和は大まかに言って一定であり、それが一定の速度で流れゆく中で作る緩い“結び目”がそれぞれの生命体である。流れは巡り巡ってまた私たちにもどってくる。
できるだけ人為的な組み換えや加速を最小限にとどめ、この平衡と流れを乱さないことが、私たち自身の生命、あるいは環境を大切にすることである。』
このような認識の旅を続けていけるならば、それは長い時間を要するだろうが、やがて狂牛病を世界の果てのごく限られた場所の風土病に還り、人々の記憶から消えていくことになろう。
狂牛病の発生原因は、肉骨粉だと特定され、その使用が禁止された。
ヨーロッパでは、従来から牛、豚、羊など家畜から食用肉を取り去った残りやくず肉をあつめて、加熱・脱脂し、これを乾燥させ粉末としたものを家畜飼料として”リサイクル“することが行われていた。これが肉骨粉である。草食動物の牛を肉食動物にする行為だった。このことは、草が牛の体内に入り、牛のタンパク質となる元素の流れを人為的に変える行為だった。
狂牛病の発生を見て、1988年7月、イギリス政府は肉骨粉を飼料として使用することを禁じたが、国内だけで輸出は禁止しなかった。
日本に狂牛病の発生が確認されたのは、2011年秋以降で、今日までに14例である。
狂牛病の原因の探求はどうであったか。
スタンリー・プルシナーは狂牛病の病原体として「プリオン説」を提起し、1997年、ノーベル医学生理学賞を受賞した。「プリオン説」とは、狂牛病の犯人はタンパク質だという説です。病原体は細菌にせよウィルスにせよ、遺伝子を持っていた。ところがプリオンは遺伝子を持たない。遺伝子を持たないタンパク質がどうして感染や増殖が出来るのか。
プルシナーは、狂牛病にかかった動物の脳を正常な動物の脳と比べ、病気の脳に蓄積している特有のたんぱく質があることを見出し、これこそが病原体と直感し、プリオンタンパク質と命名した。プリオンタンパク質には正常型と異常型があり、異常型の方に感染性がある。正常型はヒトを含む健康な動物ならみな体内に持っている。外部から異常型が侵入すると、体内の正常型を次々異常型に変え、脳内に異常型が増えて臨界値を越すと発病するというのだ。
一般に、病気の原因として病原体の存在を立証するためには、
1) 病気にかかった個体にその病原体が必ず検出され
2) その病原体が分離・精製され
3) それを他の個体に摂取したとき同じ病気が起こること
プリオン説は1の条件は満たしている。
2について、プルシナーは、1982年、病原体の精製に成功したと発表した。ところが科学雑誌「セル」に掲載されたその論文には、重要な一文が挿入されていた。「最終的に精製したプリオンタンパク質には感染性はなかった」
状況証拠は「プリオン説」に有利であった。
いくら探しても細菌もウィルスも見つからない。通常の細菌やウィルスを死滅させる処理でも感染能力は消えない。プリオンタンパク質を持たない(ノックアウト)宿主は発病しない、など。しかし
ノーベル賞の後光に守護されているとはいえ、プリオン仮説は不完全な仮説である。
福岡ハカセは、本の最後にこう述べている。ハカセの一連の著書が一貫して述べていることでもある。
『シェーンハイマーが数十年前見出し、そして今、ふたたび、狂牛病禍が我々に問いかけているもの、それは全く同じである。「分子は流れ、私たちを通り抜け、とどまることはない」。
繰り返して云おう。炭素でも窒素でも地球上に存在する各元素の和は大まかに言って一定であり、それが一定の速度で流れゆく中で作る緩い“結び目”がそれぞれの生命体である。流れは巡り巡ってまた私たちにもどってくる。
できるだけ人為的な組み換えや加速を最小限にとどめ、この平衡と流れを乱さないことが、私たち自身の生命、あるいは環境を大切にすることである。』
このような認識の旅を続けていけるならば、それは長い時間を要するだろうが、やがて狂牛病を世界の果てのごく限られた場所の風土病に還り、人々の記憶から消えていくことになろう。