古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

原発事故対応の調査委員会が必要!

2013-02-27 | 経済と世相
 福島原発事故について、政府や国会の事故調査委員会が、昨年、報告を提出しています。
しかし、事故そのものの調査も大事ですが、事故が起きた後の政府や官僚の対応、
「あの対応でよかったのか」についても調査委員会が必要なのでは?と思っています。
「ただちには健康に影響はない」とか、「事故直後の住民の避難」、「SPEEDIはなぜ国民にしらされなかった?」
「原子力安全委員会や保安院はどうして責任を取らないのか?」
それに加えて「がれきの広域処理」問題があります。
13日の中日にこの問題が解説されていました。以下、その要点です。

『がれき問題』を13日の中日朝刊が取り上げていました。「がれき広域処理もう不要」と題する記事です。
【「多額の費用をかけて遠方まで運ぶ必要などなかった。受け入れ先の住民が放射能汚染を心配するのも無理はない。もともと国のトップダウンで決まった政策だ。宮城県も本音では早くやめたかったのではないか」
 自民党の相沢光哉県議は、広域処理に固執してきた環境省や県の姿勢をこう批判した。県議会では最長老の相沢県議を筆頭に広域処理に異を唱える議員が党派を超えて少なくなかった。
 環境省は先月25日に公表した震災がれき処理計画の見直し版で、広域処理の必要量を69万トンに下方修正した。昨年11月末時点の136万トンから半減。当初の推計の401万トンと比べると、実に6分の1にまで落ち込んだ。
 広域処理のうち、主な対象である宮城県の可燃物と岩手県の木くずは3月末、残る岩手県の可燃物なども12月末にそれぞれ終了する。当初予定の来年3月末から約1年の前倒しになった。
 東日本大震災直後、環境省は「がれきの量は宮城県では通常の19年分、岩手県は11年分、被災地の処理能力には限界がある」と主張した。
 ところが、がれき総量と広域処理の必要量は、昨年5月以降の見直しのたびに「相当量のがれきが津波で海に流失していた」「想定以上の土砂があった」などの理由で圧縮されてきた。
 それでも環境省は「広域処理は必要」と譲らなかった。今回の下方修正については「仮設焼却炉の本格稼働で、現地の処理能力が向上した」と説明するが、それは当初から織り込み済み。がれきの量が減り続けた結果、前倒しする以外に手がなくなったのが真相だ。
 「震災から半年後、県の執行部は広域処理について初めて議会側に説明した。だが、量や経費、受け入れ先を聞いても答えることはできなかった。最初からアバウトな話だった」(相沢県議)
 がれき問題の解決方法として、相沢県議は広域処理ではなく、「森の防潮堤」構想を提唱した。がれきで沿岸部に丘を築き、その上に広葉樹を植林するという内容だ。
 59人の宮城県議全員による推進議員連盟を結成し、国会や環境省、国土交通省にも働きかけた。しかし、環境省は地番沈下やガス発生の懸念を盾に認めなかった。
 相沢県議は「生活の一部であったがれきを1000年先まで生かすのが森の防潮堤だ。実現していれば、広域処理で余計な迷惑をかけずに済んだ」と、今も怒りがおさまらない。
 「国や県の頭には、コンクリート製の防潮堤しかなかった。どこかで津波災害が起きれば、同じ過ちが繰り返される」
 一方、広域処理に協力した自治体は、はしごを外された格好だ。(以下、中略)
 「がれき処理・除染はこれでよいのか」などの著書がある明治学院大の熊本一規教授=環境経済学=は「広域処理では、ゼネコンが利権に群がった」と断ずる。
 「原子力ムラの住人たちは福島原発事故の責任をとらないばかりか、ゼネコンと原発関連業者が事故の後始末で儲ける仕組みをつくった。放射能に汚染されたがれきは東京電力の負担で、福島原発周辺に集中・隔離されるべきだ。しかし、実際には広域処理と除染、避難者の帰還がワンセットで推進されている」

外人投資家のアベノミクス観

2013-02-20 | 経済と世相
19日午前、県図書館へ行き、新着の雑誌をチェックしていたら面白い記事が目にとまりました。VOICE3月号に載った「日本は金融緩和をただちに止めよ」です。
 ジム・ロジャースというという投資家(投機家?)が経済記者に日本経済を語っているのですが、この人、1942年米国生まれ、73年、ジョージ・ソロスとともに投資会社クオンタム・ファンドを設立、10年間で4000%を超える驚異的なリターンを実現。シンガポール在住とのことです。
【―――日本経済の現状について、どのような認識ですか・
 株と経済の話は別ですが、まず株の話・・・安倍氏が首相になることが明らかになった段階で、私は日本株を買い増しました。彼は紙幣をさらに印刷する、と明言したからです。
 もちろん、そのこと自体は世界経済にとっていいことではありません。しかし、・・・安倍氏が紙幣を印刷するといって実際にそうすれば、間違いなく株式市場に影響します。紙幣を刷って株に影響がなかったことは、これまで一度もないのです。
 紙幣の増発はある程度、日本経済を上向きにするのに貢献するでしょう。しかし、いまどの国も紙幣を刷りに刷っていることは懸念材料になります。
―――通貨安は経済にとってマイナスという向きもあります。アベノミクスについては、どのような印象でしょうか。
 通貨安がプラスになる人はいますが、日本人全体について、それは良いことではありません。当たり前ですが、物価が上がるからです。一般国民にとってメリットはないでしょう。もちろん輸入業者にとってもプラスにはなりません。
 当然のこと、輸出業者はその恩恵にあずかります。少なくともしばらくの間は。しかし、通貨価値が下がることは日本人すべての物価が上がることになりますから、結局のところ、いずれの企業にとってもビジネスコストが上昇することになります。
――日本に望ましい為替水準があるとすれば、それはどのくらいのものですか。
 誰にとって望ましいというのでしょうか。一般の日本人にとっては、1ドル=50円が望ましいでしょう。輸入業者にとっても円高がよい。逆に輸出業者にとっては当然、1ドル=100円、いや200円の方が良いというに違いありません。繰り返しますが、望ましい為替水準というのは「誰にとって」ということが重要です。(以下略)』
 さすがにソロスの仲間だけあって、明快な説明です。
 グローバル化経済にあっては、統計上の輸出入の額だけ見て、競争力があるとかないとか議論しても意味がないと先日述べましたが、為替も円が安いから日本に有利だとか不利だとかいう議論は意味がない。安くなっても高くなっても、それにより得をする人、損をする人がいるわけです。日本に益があるとしたら、日本人全体の人数の中で、得をする人が損をする人より多いという意味なのか。それとも得をする人の得をする金額の合計が、損をする人の損をする合計額より多いという意味なのか。
 アベノミクスで、もし円を増発すれば、円安に動き、輸出企業の株価が上がる。株を持っている人は儲かります。しかし、持っていない人には株高は無関係です。ガソリンや輸入食料が値上がりして損するだけです。
 だから、「自分は日本の株高で儲けさせてもらう」が、総合的に考えると、「日本は円安で損をするのだ」と、ジム・ロジャース氏は言うわけです。まことに明快です。
 そこでです。「なぜ安倍さんは、アベノミクスで円安に導こうとするのか」。
 経団連の有力企業は輸出企業です。そしてそれらの企業は自民党のスポンサーです。それら企業の幹部といつも付き合っていると、以下のような考え方に染まってしまいます。
「日本の大企業、特に輸出企業の収益が上がると、従業員の賃金が上がり、下
請け企業の収益も上がって、日本全体の収益が上がる。日本の輸出大企業に良いことは、日本国民にとって良いことだ」。
 しかし、大企業の収益は、必ずしも国民全体に広がっていかないのが、グローバル化経済の時代です。そこで、ジム・ロジャース氏は、日本国民のことを思うと、「金融緩和を止めるべき」とこの対談で述べています。
 

中国経済 あやうい本質

2013-02-18 | 読書
『中国経済 あやうい本質』(浜矩子著、集英社新書、2012年3月刊)という本を読みました。先日のニュースが「中国が、昨年、世界最大の貿易国になった」と報じていました。輸出額と輸入額の合計額が世界一になったというのです。このことの意味を考えてみたいと、この本を読んだのです。
以下、同書から。
【メデイアは「中国は世界の工場になった」という言い方をする。だが、よく実態を考えればそうではない。中国が世界の工場になったのではない。世界が中国を工場にしているのである。かつて、イギリスやアメリカや日本が世界の工場だといわれた時、それらの国々で工場生産の主軸となっていたのは、いずれも、それらの国の企業群だった。だが、今の中国の場合はそうではない。
中国における生産の担い手たちは、その多くが外資系企業だ。まさしく世界が中国を工場にしているのである。
(かつて)日本からアメリカへと「集中豪雨的」になだれ込んでいった日本製のオモチャやブラウスや鋼材やカラーテレビや自動車は、いずれも、日本企業が日本の工場でつくった製品だった。一つの国の中で最終的な付加価値を生み出すところまで自己完結する。その成果物が輸出先の相手国の同種製品と真っ向からぶつかり合う・・・だから、通商摩擦が起きる。
これに対して、グローバル(経済の)・ジャングルの現在はどうか。製品の最終販売者とその生産者たちの顔ぶれが一致するとは限らない。製品の生産企業の国籍と、それらの企業が実際に生産を行う生産地が一致するとは限らない。
こうした中では、国別に整理された貿易統計だけを見ていたのでは、もはや優勝劣敗の構図を必ずしも正確には見極められない。たとえば、中国発の液晶パネルの輸出が増えているからといって、中国メーカーが液晶パネル市場を席巻しているとは限らない。それは、多くの多様な国籍のパネル・メーカーが中国を生産拠点に選んだ結果であるかもしれない。あるいは、巨大な一つの外資系企業が中国に生産拠点を集約したためであるかもしれない。
実をいえば、(輸出競争で)誰が勝ったのでも負けたのでもないかもしれない。誰もが誰かを必要としている。どの国も、すべての国の存在を必要としている。中国は、世界が中国を工場にしてくれることを求めている。世界は、中国が世界の工場を受け入れてくれることを期待している。
ただし、ここで忘れてはいけないことが一つある。それは、いわゆる雇用の空洞化問題である。昨日まで日本国内にあった液晶パネルの製造工場が、まるごと中国に移転してしまえば、それに伴って雇用機会もまるごと日本から中国に移ってしまう。
それがいやなら、日本国内の工場で、あたかも中国に移転したのと同じようなコスト・ダウンを実現しなければならない。そのために、人々は賃金の大幅低下や、雇用環境の大幅悪化に甘んずることを余儀なくされるかもしれない。』
こういう話が載っていました。
【上海にはカラスがいない。ある知人から頂いたお便りに、そう書かれていた。なぜなら、夜明け前に貧しき人々がすべての残飯を持ち去ってしまうからだそうである。
あるときから、筆者は日本における「豊かさの中の貧困問題」が気になっている。日本は世界最大の債権国だ。その限りでは、世界で一番リッチな国である。それなのに、日本の中に格差問題があり、貧困問題が存在する。これがどうにも腑に落ちない。むろん、多くの先進諸国にも都市部の貧困問題や格差問題がある。なにも日本だけの病理ではない。だが、それにしても、ここまでの豊かさの中で貧困問題を解消できない。・・やはり納得できないものがある。
要するにすぐれて日本的問題だと考えていた「豊かさの中の貧困問題」が、中国においても出現しつつあるということだ。】
 最終章で、筆者は、中国経済の謎解きをいくつか紹介している。その一つ、
【「中国とかけて東大入試経済と解く」。その心は「難問が多すぎて、解いているうちに時間切れ」だそうです。】
現在、中国はいくつかの難問に悩んでいる。それは、グローバル化経済の矛盾の集積と言えるのだ。案外、尖閣諸島問題も、中国が、グローバル化経済で生じた難問で、高まる国民の不満をそらそうとしているためかもしれない。

幸せな旅

2013-02-13 | 旅行
 幸せな旅でした。「今年は式年遷宮の年だから、お伊勢さんに行こうか」と、11日、いつも県体育館で水泳を楽しんでいる仲間とバス旅行で伊勢参りに行きました。
8時10分ごろ、体育館横の車道に停まったバスに乗り込んで、出発。名古屋高速から東名阪。四日市ICで降りて、最初の目的地は、いちご農園での「いちご狩」。
 「時間は30分の予定です」と言われたが、温室のテントの中に入り、ぶら下がっているいちごをつまんで食べ始めたが、20分食べ続けたら、おなかがいっぱいになり、もう食べられない。多分40個は食べていない。
食べ終わると、再びバスに乗り込み名阪から伊勢道に入る。伊勢西インターで一般道に降りたが、そこから伊勢神宮までがたいへんでした。超渋滞です。「そういえば今日は昔風にいうと紀元節」、混雑するわけである。普段10分ぐらいの距離を50分ほどかかる。12時15分到着。
 1時間半の時間で、内宮の神域を見て回ることに。
それにしても賑やかでした。まるで、万博の会場を歩いているようで、伊勢神宮という雰囲気ではない。五十鈴川にかかる宇治橋を渡り、お参りする。建物が特に荘厳な神社というのではなく、神域自体が荘厳な空間ということだろう。日本人の宗教観では、山や森などの自然の存在を神と感ずるのかもしれない。カメラは持っていたが「撮影お断り」の掲示があるので写真は撮らなかった。
Kコーチと神域を回る。厩に来て「いつもは白馬がいるのに今日はいないのね」とKさんは言う。再び橋を渡り、今度はおかげ横丁をのぞき土産物を調達する。
1時45分、バスは二見ラインを経由、鳥羽温泉へ。戸田屋ホテルの9Fレストランで遅いランチ。「あれが伊良湖岬、あれが神島」など展望を楽しむ。そのあと、フロントで、タオルを借りてゆっくり温泉入浴。ホテルのランチと入浴付きだから、今回の旅行会費¥8800は値打ちかな?
http://www.todaya.co.jp/day/
3時45分、バスは帰途につく。予定ではこの後みやげものセンターに行くのだったが、すでにみなさん土産は調達済み。渋滞で予定より1時間遅くなっているので、そのまま名古屋に向かう。
亀山辺りから渋滞がすごいという情報で、伊勢関SAで休憩後は亀山で高速を降り、一般道を走り、四日市ICから再び東名阪。7時半、県体育館に帰着しました。
どこが「幸せな旅」? 一行39名。ドライバーと旅行会社の添乗員以外の男性は私一人でした。みなさんとても親切にしてくれました。

5連覇?達成

2013-02-11 | 水泳
中スポマスターズ水泳大会が、10日、日進市の口論義(こうろぎ)運動公園の50mプールで開かれました。私の出場する100mバタフライは、3時46分の予定ですので、午後から行けばよいと、午前中、いつもの東区市営プールで練習してから行くことにしました。
10時家を出て、東区プールで、800mばかり泳いでから昼食、12時過ぎに地下鉄に乗り藤が丘駅へ。リニモに乗り換え、長久手古戦場駅に1時すぎ。会場のプールには1時15分つきました。
玄関に入ると、いつもプールの同じコースで練習しているO女史、「今日はベストが出た」と嬉しそう。浅野先生(本日の大会委員長)もいたので「右肩の痛みが残ってい(*)るので今日はゆっくり泳ぎます」というと「どうぞどうぞ」と言う。ゆっくり泳いでも早く泳いでも、75歳以上は多分私一人だから順位は変わらないことをご存じだ。
2階の観覧席に行くと、わがチームのメンバーが右手にそろっていた。エースのKさんが、「NOZUEさん、参加賞(サランラップ)が来てます」と渡してくれたので隣に座ってしばらく話す。プログラムを見ると、小生は100mバタの1組6コース。一緒に泳ぐのは、55歳、60歳、70歳と私の75歳だ。予想通り75歳区分は1名。完泳さえすれば1位入賞になる。肩に痛みさえ来なければ完泳はできる。そのため。前日肩に痛み止めの注射(副腎皮質ホルモン)を外科で打ってもらってきた。
2時20分頃、女子100mが始まったのを見て更衣室に行った。着替えてプールサイドに行く。男子100m、女子、男子平泳ぎ100m、女子、男子の背泳ぎ100mの後、バタフライ100mだ。女子は2組だけだから、すぐ出番が来た。予定より少し遅れたが4時10分前頃です。スタート台に立ち、号砲で飛び込んだ。
右肩の故障で、バタを泳げるようになったのは半月前、それまでバタは70日間全然泳げなかった。だから、今日はタイムを問題とせず、肩に負荷のかからない泳ぎを心掛けた。腕の掻きは大きくしない、小さく回す。腕をまわし始める時の肩の位置をなるべく高くする(高い位置から腕をまわすと肩の負荷が小さくなる)。そのため1掻き1呼吸に徹する(1呼吸で2回回すと2回目の腕を回すときの肩の位置が低くなる)。
50mまで泳いだが痛みは全然ない。これならいけるとターンの時思った。
なんとか、フィニッシュ。タイムは2分51秒47だった。昨年のタイムが2分30秒18だったから、20秒くらい遅かったが、今回はやむを得ないと思った。
これで、中日スポーツマスターズ水泳大会は100mバタで5年連続1位入賞だ。
プールから上がり、控室に行くと55歳区分でクロールの日本記録保持者のA・IIDAさんが「お疲れ!」と笑顔で声をかけてくれた。水泳を長年、やってきたおかげで、大勢知人ができた。
着替えをして帰途につくことにした。受付で金メダルと記録賞を受け取る。受付の女性から「よくバタで100mも泳げるね」と声をかけられた。帰宅は5時15分でした。

*昨年;11月8日、ジョグ中に転倒、右肩の筋肉(棘上筋(きょくじょうきん)というらしい)を痛めて腕が後ろに回らなくなりました。

スモールサイエンスとノーベル賞受賞論文

2013-02-09 | 読書
 昨年秋、週刊誌で次のような記事を見ました(週刊文春11月8日号)。福岡伸一さんの寄稿です。
【ノーベル賞を受賞した山中伸弥先生が、最初にiPS細胞の作成に成功したことを世に問うたのは2006年。生物学の分野では著名な専門誌「セル」に論文が掲載された。
 本文14ページ、付属データ40ページに及ぶ大論文で、iPS細胞の全容が余すところなく一挙に明らかにされていた。誰もが瞠目した。いったんは分化した細胞を、いとも簡単に初期化する方法が実現されていたから。
 そして世界が驚いたことはもう一つ別にあった。論文の著者として記されていた名前が、Kazutoshi TakahashiとShinya Yamanaka、たった二人だったことである。普通、このような膨大な報告には多数の共同著者が名前を連ねているのが学会の常識だったからである。(中略)
 さて、ここから先、話はちょっと機微になる。はたしてノーベル賞選考委員会は、高橋さんを受賞者に含めることを考慮することはなかったのだろうか。・・・先見性のあるリーダーとそれを支える優秀な右腕。山中先生は高橋さんの多大な貢献をたたえ、高橋さんは尊敬と感謝の言葉を忘れない。しかし、師弟の物語はいつも美しいとは限らない。ガンウィルス発見のケースでは、ノーベル賞から漏れた共著者が不当を訴えて一悶着があった。
 光のそばにはいつも影がある。しかしほんとうに大切なことは、ノーベル賞につながる研究がたった二人で行われたという事実の方にあるのではないかと福岡ハカセは思う。
 スモール・イズ・ビューチフル。発見の萌芽はつねにスモールサイエンスから始まる。】

さて、昨日紹介した吉成さんの本に、ワトソン(DNA二重らせん構造解明でノーベル賞受賞)とのインタビューが載っていた。
福岡ハカセと同趣旨の発言がありました。
【――遺伝子ノックアウト研究や病気の研究などは、広い動物施設や研究室を必要とするわけですが、生物学の研究はいよいよ、多くの人やスペースを必要とするような、大スケールのサイエンスになってきているということでしょうか。
ワトソン 30人もの名前が連なった論文をみると、遺伝子ノックアウト操作をしたテクニッシャンたちの名前も入っているし、どうかするとDNAを提供した医者の名前まで入っている・これはおかしい。これをすることで「個人」という概念を壊してしまっている。(中略) アダム・スミスが『国富論』の中で言っていることですが、そもそも文明の大きな進歩というものは「個人」が生み出すもので、「政府」からはけっして生まれてこない。ですから集団の一員ということでなはく、独立した「個人」というものが尊重されなければならない。
 何人も一緒に働いていると、どの方法がベストであるか、みなの同意をえなければならない。総意というものは往々にして間違っているものです。
 大スケールのサイエンスが幅を利かせつつあることを懸念しています。大スケール・サイエンスもやる必要はありますが、一通り仕事が終わったら、組織を解体すべきなんです。】 

知の逆転

2013-02-08 | 読書
もう1冊面白い本を紹介します。『知の逆転』(NHK出版新書、吉成真由美編、2012年12月刊)を図書館の棚でみつけました。
 著者の吉成さんは、噂によると、ノーベル賞の利根川進博士の再婚相手らしい。マサチュ-セッツ工科大学(脳および認知科学学部)卒業、ハーバート大学院修士課程(脳科学専攻)終了、元NHKデイレクタという。
 この本は、現代世界の知の巨人ともいうべき6人の知識人に、吉成さんがインタビュウした記録を編んだものです。6人とは・・
 ジャレド・ダイアモンドは、『銃・病原菌・鉄』でピューリッツアー賞受賞。ノーム・チョムスキーは「普遍文法」理論で現代言語学に革命をもたらした言語学者。オリバー・サックスは脳神経科医師で作家、ベストセラー「妻を帽子と間違えた男」の著者です。マービン・ミンスキーは認知科学者、人工知能の専門家。トム・レートンMIT応用数学科教授、インターネット企業の設立者です。ジェームス・ワトソンは、DNA二重らせん構造を解明したノーベル生理学・医学賞受賞者です。
 編者と6人の知識人との対話は、まことに刺激的で面白い。
たとえば、チョムスキー。資本主義について語る。
 アメリカは資本主義の国ということになっている。人々はコンピュータを使い、インターネットを使い、飛行機に乗り、薬を飲む。(その)人々が使うほとんど全てのものはどこから来たのかというと、実は経済の公共部門から出てきたもの、つまり税金によって、政府のプロジェクトとして開発されたものなのです。
 (たとえば)近年のアメリカ最大の民間輸出品目は、民間航空機でしょうが、民間航空機とは、要するに改良を加えた爆撃機・・・航空電子工学、計測工学など、やっかいな部分の研究は、国家防衛の名目ですべて政府の支援によって行われた。・・・
 唯一市場原理だけで動いているのが、金融部門です。だから何度も破綻する。市場原理だけでは破綻は避けられません。金融部門はほぼ10年ごとに大きな危機に見舞われています。1930年代から70年代にかけて、比較的安定した金融システムの時代があったのですが、70年代に入って調整システムが崩壊してしまった。通貨が自由化され規制が解かれ、おまけにレーガン、クリントン、ブッシュという規制緩和のマニア(狂人)が出てきて、危機を招くことになったのです。
 メキシコなどの国々では、アメリカが突然利率を引き上げたので債務不履行が出て、世界銀行からの負債請求が突然支払不可能になった。そこでIMF―――といっても実態はアメリカ財務省の出先機関のようなものですが――が介入して、メキシコの貧しい人々から、彼らが負ったものでもない借金の取り立てをするのです。独裁者が作った借金を貧しい国民が支払わねばならない。そして金持ちの債権者であるシテイグループなどは破産し、基本的にはまわりまわったIMFのお金で救済してもらった・・・これが資本主義でしょうか。しかも何度もくりかえし起こっている。・・・市場原理に従っている経済の金融部門は、繰り返し破綻し、その度に政府が救済することを余儀なくされています。
 実際のところ民間ビジネスは強い政府によって保護されることを望んでいる。金融システムも政府が規制することによって生き延びていけることになるでしょう。
―――政府による規制は不可避だということですか。
 絶対に不可避です。(中略:ここで、市場の取引が「負の外部性」を考慮しない問題について述べている)
 アメリカの対中国貿易赤字がますます膨れ上がっていくことが問題になっていますが、対日本、韓国、台湾の貿易赤字のほうが下がっていることには誰も注意を払っていないようです。実際は、これらの国々が部品や技術やアイデアを中国に提供し、中国が組立てアメリカに輸出している。そしてそれを対中国貿易赤字だと言っている。しかしよく考えてみれば、それは対日本、韓国、台湾など、95%の商品価値を提供している国々との貿易赤字になるわけで、その部分を考慮すると、対中国赤字は約30%減り、(中国)周辺諸国との赤字が25%増えるということになります。
 中国は2010年に日本をぬいて、GDP世界第二位になりました。しかし、その巨大な人口は、まもなく人口統計上の問題を露呈します。つまり、中国の急成長は、その巨大な労働人口の平均年齢が大体24歳くらいであることに支えられていますが、一人っ子政策の影響により、間もなく労働者不足がハッキリしてくるでしょう。
 中国はあまり資源を持っていない。エネルギーもあまりない。唯一の資源はレア・アースです。もともと農業用の土地として素晴らしいはずなのですが、環境破壊によって、その多くがダメになってしまっている。重大な環境保護上の問題をかかえています。
 しかも中国は世界でも最悪の格差社会になってきています。労働者階級に富が回らないのは世界的な傾向ですが、中国が最もひどい状態です。
―――「核抑止力」は現実的な概念でしょうか。
 アメリカは本気で「核抑止」など考えていない。アメリカが考えているのは「核抑止」ではなく「核支配」です。・・本気で「核抑止」を言うなら、イランの核武装準備を支援しなければならないのに、本音が「核支配」だからそうしない。
 危機は拡大している。小型で性能の良い核兵器はどこへでも移動可能で、いずれか一つが発射するのは時間の問題でしょう。ですから、核兵器はむしろ危機を拡大している可能性のほうが高い。唯一の解決策は核兵器をなくすことです。

 経済学者でも政治学者でもない著名な言語学者が、こう考えていることを、とても面白いと思いました。
 長くなりますので、そのほかの知識人の対談内容は次の機会に紹介します。

福島原発で何が起こったか

2013-02-06 | 経済と世相
『福島原発で何が起こったか』(畑村洋太郎他著、日刊工業新聞社、2012年12月刊)という本を買ってきて読んでいます。・
 「失敗学」の先生として著名な、福島事故の政府事故調の委員長、畑村さんの著作です。
政府事故調の報告書は1500ページにも及ぶレポートですから、読み通すのはたいへんです。そこで委員長の筆になるこの書を読んで、レポートの概要を知りたいと思いました。なにしろ、この事故は、日本にとっては今世紀最大の歴史的事件になるであろうから、ぜひ失敗学の権威のご見解をしりたいと思ったのです。
 以下はその一節ですが、「全電源喪失」の主因は、非常用デイーゼル発電機の水没ではなく、配電盤の水没であったといいます。
【事故後1.5年以上を経過した現在でも、非常用デイーゼル発電機の水没が、全交流電源喪失の主原因であったかのような報道が多い。しかし、すでに述べたように、実際には1~4号機8台の非常用D/Gの中の2台は、地上階に設置されていたために水没せず、しかもそれらは海水ポンプを必要としない空冷式だったため、発電機単体としては稼働可能であった。
 ところが電力を受ける配電盤はほとんどが地下一階に配置されていたためその多くが浸水し、全交流電源喪失の決定的な原因となってしまった。つまり、配電盤の設置場所の「多様性」の欠如が、「深層防御」を失わせる決定的な原因であった。せっかく多重化されている配電盤の配置の分散化を図っておくべきだった。
 ちなみに、常用・非常用配電盤がともに機能喪失していた以上、外部電源が供給されていたとしても全電源喪失は避けられなかったわけであり、この観点からも全電源喪失の決定的原因は配電盤の水没にあったといえる。】
 交流電源だけでなく、直流電源についても、以下の記述があった。
【直流電源の喪失は、各プラントの計測・制御機能の不全を招き、事故対応の“致命的”な要因になった。1号機のIC((非常用復水器)がファイルセイフ機能で停止したことも、直流電源の喪失が直接の原因である。
 原子力安全委員会の安全設計指針には、30分程度の交流電源喪失への対応の必要性は定められていたが、直流電源については、「一瞬の喪失」 すらも想定されていなかった。直流電源が喪失すれば、交流電源喪失以上に事故が深刻化する。今回実際に起こったように、直流電源が失われると原子炉の状態がわからなくなり、また、わかったとしても機器の操作ができなくなるからである。そのような事態は起こらないことになっていたため、その備えはまったく行われていなかった。
 実際の事故時には、敷地内に駐車していた車からバッテリーを外してかき集めるという応急の策がとられた。しかし、それに手間取り、事故の深刻化の一因になった。そのことの重要性を考えれば、コストのかからない可搬式の直流電源を準備しておくべきだったし、せめて12Vバッテリーの備蓄程度の対策は行っておくべきだったと思わざるをえない。】
 問題の津波への対応については
【福島第一原発において主要設備のある建屋エリヤの敷地高さは10m、海水ポンプなどの設置された海側エリヤの敷地高さは4mである。この付近を襲った津波の高さは約15mで、敷地全域が浸水した。福島第一原発の建設前、もともとの丘陵の高さは約30mであった。しかし建設の際に、原子炉建屋を強固な岩盤上に設置する岩着という必要もあって、これを削り取って10mの敷地高さまで低くしている。このことから、計画時に津波をほとんど意識していないか、さもなければ何等かの理由で津波を低く評価していたことが推察される。】

 いったい、原発の安全神話ってなんだったのでしょう。

国力とは何か(3)

2013-02-01 | 経済と世相
 国民国家の経済政策
自由主義者の多くは、強力な国家権力は、個人主義の敵であると考えている。しかし、実際には、個人主義の実現のためには、強力な国家が必要である。なぜなら、個人の権利は、国家によって、社会制度として保障されるからだ。国家は個人の権利を保障するために、各個人に他の個人の権利を尊重する義務を課さなければならない。例えば、国家の統治能力が弱体な発展途上国や、国家が権力を失って内戦状態にある地域では、自律した個人も存在しえない)。
経済自由主義者は、国家介入はできるだけ小さい方が、市場原理が有効に機能し、経済は繁栄すると信じている。そして、戦前の保護貿易とブロック経済の反省の上に成立した戦後の世界経済が未曾有の成長を遂げたのは、その証拠であると主張する。しかし、市場と社会の関係を調整する国家機能の存在がなければ、市場の自由化だけで戦後の世界経済の繁栄を実現することはできなかった。
一般に、国力とは、軍事力、国際社会における政治的発言力、国内総生産、科学技術、教育水準、文化的影響力、人口、天然資源など、様々なものが挙げられる。・・・(しかし)真の国力とは、・・ネーシヨンという共同体を維持し、あるいは発展させるために、ネーシヨンの中で働いている力が、国力の本質なのである。

経済学者たちは、経済ナシヨナリズムを国あるいは世界全体の経済厚生の最大化を阻むものであるとして批判してきた。しかし、経済ナシヨナリストが保護しようとしているのは、国民の生活様式であり、そしてそれと密接不可分である(国民の)自由の価値である。
同様の観点から、イギリスの社会学者ロナルド・ドーアもまた、保護主義を擁護している。彼は、欧米における日本の経済研究の先駆者であり、日本的経営の経済的優位性を早くから指摘してきた人物である。しかし、その彼も、仕事中毒の日本人による競争力ある製品の輸出によって、イギリス固有のゆとりのある経済生活が脅かされるようであれば、貿易制限が必要であると主張するのである。
19世紀のイギリスや20世紀のアメリカが自由貿易を主唱したのは、それが自国の国力を拡大するからである、その意味において、自由貿易論者は経済ナショナリストであった。19世紀ドイツの経済ナショナリストのリストは、当時の古典派経済学の自由貿易論はイギリスの利益を代弁するイデオロギーであると、反発したが、その洞察は正しい。
デフレの解決は「機能的財政論」で
政府債務が内国債である場合は、財政破たんはあり得ない。それゆえ、健全財政論者のように、累積債務残高の大きさそれ自体を問題視することは無意味である。国家の財政状態が適切であるか否かの判断は、債務の絶対額ではなく、国家財政が国民経済にどのような影響を及ぼし、どのように「機能」しているかを基準とすべきである。これが「機能的財政論」である。
国民通貨と内国債は、民主的な経済のコントロール、あるいは「経済的国民自決」と言うべきものを実現する手段である。そして、内国債と国民通貨という制度を可能にしているのは、ネーシヨンに他ならない。
自律的な国民経済の運営をこれまで以上に従属させるような国際経済ルールは、もはや維持不可能となるであろう。ナショナリズムに目覚めた各国国民は、国際通貨制度を維持するためのデフレを甘受できないからである。
以下、小生の読後感
菊池英博氏はこう述べている。
『日本は、2012年4月に、法人税の最高税率を30%から25.5%に引き下げている。その結果法人税は年間で約1兆円の減収となり、国税に占める増税後の消費税の割合は、37%をかなり超えるのではないか。』
 消費税を上げ、法人税を下げるという政府の方針は、まさに、『グローバル化した時代には、資金、企業、人材、技術が集まりやすいように、投資先として魅力的な環境を整えることを、国家の経済政策の目標とすべきである。』というイデオロギーに基づく。
もう一つの論点、『グローバル化がデフレの原因になっている』という指摘は新鮮だが、さらなる検討が必要と考えます。