shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

弘田三枝子 エッセンシャル・ベスト

2010-03-30 | 昭和歌謡
 本能の赴くままに続けてきた春の昭和歌謡大会もそろそろネタが尽きてきたので一応今日で打ち止め、最終回はカヴァー・ポップスよし、ジャズよし、歌謡曲よしと、どんなジャンルの楽曲でも軽くこなしてしまう和製ダイナマイト、ミコたんだ
 彼女のキャリアは長いが、やはり60年代がズバ抜けて素晴らしい。70年代以降はキーも下がり、歌唱もテクニックに走りすぎるきらいがあるが、60年代の声量溢れるパワフルな歌唱は本当に凄かった。小賢しいテクニックなどどこ吹く風とばかりにパワーですべてをねじ伏せるような圧倒的な歌唱力は日本音楽史上最強かもしれない。世間の評価はカヴァー・ポップスで次々とヒットを飛ばして破竹の勢いだった60年代前半の東芝時代が圧倒的に高く、 “ミコといえばまず東芝の「ヒット・キット・パレード」” という感じで、私もそれに異存はない。しかしだからといって “コロムビア時代はイマイチ... ミコは東芝で終わった...(>_<)” と早急に結論付けてしまうのはどうかと思う。確かに68年のライヴ「ミコ・ R&B をうたう」あたりになると彼女の身に一体何が起こったのかと思いたくなるぐらい歌唱法が変わってしまい、何かこねくり回すような不自然な歌い方が鼻について正直、全曲聴き通すのはキツイのだが、コロムビア移籍直後の65~67年ぐらいまでの録音では、それまでのパワー一辺倒だったものが上手く肩の力が抜けており、その軽やかな歌いっぷりが結構好きなのだ。そこで引っ張り出してきたのが、東芝時代のヒット曲の再録セルフ・カヴァーを数曲含むコロムビア時代のベスト盤「エッセンシャル・ベスト・弘田三枝子」である。
 この CD は全15曲収録でそのうち④「子供ぢゃないの」、⑤「ヴァケーション」、⑥「渚のデイト」、⑦「想い出の冬休み」、⑬「ビー・マイ・ベイビー」の5曲が再録だ。実は数ヶ月前の G3 で彼女の代表曲⑤を使って東芝盤と聴き比べをやってみたのだが、 901 さんも plinco さんも東芝盤に軍配を上げられた。曰く、東芝盤の方がストレートに歌っていて好感が持てる;コロムビア盤は小手先のテクニックが気になる、とのこと。ちょうど私が68年以降の作品に感じている違和感(74年録音の⑬は心に響くモノがない...)と同じものだろう。例えるなら東芝盤がアクセルをガバッと踏み込むと余裕のパワーでストレートをグングン加速していくシボレー・カマロ、コロムビア盤が抜群のハンドリングでワインディングをヒョイヒョイと小気味よくクリアしていくルノー・アルピーヌといった感じか。私は両方好きなのだが...(^.^) 特に④はその軽快なノリと天性のパンチ力溢れる歌声の相乗効果で屈指の名唱になっていると思う。⑤も終始楽しそうに歌っており、まるでルンルン気分のスキャットでも聴いているようなハッピーな余韻を残してフェイドアウトしていくエンディング・パートが大好きだ。
 この盤のもう一つの聴き所はカヴァー・ポップスで頂点を極めたミコたんの歌謡曲路線への転向である。彼女の歌謡曲と言えばすぐにレコード大賞を取った①「人形の家」が思い浮かぶが、名曲名唱であることは認めつつも個人的にはこういう曲想のナンバーは彼女には合わないと思う。ミコたんはやっぱり元気ハツラツ、明るく楽しい曲がいい(^.^) ⑪「私が死んだら」、⑫「ロダンの肖像」も①と同様なかにし礼=川口真コンビの曲で、どちらもイマイチ好きになれない。この路線は①だけにしときゃ良かったのに...(>_<)
 一方、橋本淳=筒美京平コンビの歌謡ポップス②「渚のうわさ」は美しいメロディーと見事なアレンジがたまらない大名曲で、上記の④⑤といった再録ナンバーと同じく彼女の軽やかな歌声が耳に心地良い。彼女の歌謡曲路線では断トツに好きなナンバーだ。⑨「可愛い嘘」も同コンビの作品で、これもあまり売れなかったらしいが、大ヒットした①なんかよりも淳=京平コンビの②⑨の方が遥かに彼女の持ち味を引き出していると思う。あと、意外な選曲が⑩「グロッカ・モーラの様子はいかが」だ。私がこのバートン・レイン作の名曲を知ったのはソニー・ロリンズのBN盤で、さすがはメロディーの人、ロリンズやなぁと唸るような名演を聴かせてくれたのだが、それを彼女が取り上げているのを知った時はビックリした。名盤「ミコ・ミュージカルを唄う」を想わせるような情感たっぷりの歌い回しに癒される名唱だ。
 コロムビア移籍後の、主に60年代の作品を中心に選曲され、カヴァー・ポップスの再録あり、昭和歌謡の名曲あり、ミュージカル・ナンバーありと、ヴァラエティーに富んだこのアルバム、東芝盤の「ミコちゃんのヒット・キット・パレード」で彼女に入門したら、その次に聴くべき1枚だと思う。

ヴァケーション (コロムビア ver.)


渚のうわさ
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