津々堂のたわごと日録

爺様のたわごとは果たして世の中で通用するのか?

■先祖附の内容

2021-10-11 10:00:00 | 先祖附

 永青文庫が収蔵する「先祖附」は、正徳四年(1724)四月に命が下されて作成に至っている。綱利最晩年の事である。(11月死去)
大概の書き出しは「先祖何某」とか「私曽祖父何某」などと書かれているが、それは細川家の豊前入国(慶長五年・1600)から124年も経過しているからのことである。
古いお宅では「御書出」を収納する小さな箱を今でもお持ちの家がある。命の次に大事なものとして、床柱に釘を打ちここに掲げられていた。緊急時にはこれを持ち出すためである。
これら資料に基づき、三代目・四代目の方が「御書出」「奉公覚」や「口伝」などをもって先代については書いたことになる。
「私何某は」と自分自身の筆記になるのは三代目・四代目の当主となり、以降は「〇代目何某」となるがこれは後代まとめて書き込まれたものである。筆跡が代々の人のものではない。
これまで多くの先祖附を読んできたが、内容に首をかしげるものが見受けられる。
これは藩庁が認めた公式なものであるから、脇からいろいろ物申すこともできない。よほどの証拠がない限りこれを覆すことは不可能である。

或る事件を調べようと「先祖附」を拝見すると、詳細に触れなかったり、事件そのものの記載をさけたりしており、そういう意味においては研究資料としては正確さを欠いていると言わざるを得ない。
また、家族関係や姻戚関係などにはほとんど触れておらず、他家の系図などから関係を紐解き驚かされることが多々ある。
これらを踏まえて「新・肥後細川藩侍帳」は、データの出処を明らかにして、種々の情報を盛り込む作業を続けている。
遅々たる作業を続けている。

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■川田順著「幽齋大居士」一一、西征途上

2021-10-11 06:40:42 | 先祖附

     一一、西征途上

 天正十五年三月、關白秀吉、島津氏征伐のため西征の途に上り、幽齋は、嗣子忠興
をして七百の兵を率ゐ、これに随行せしめた、さて、おのれは從者數人を連れ、四月
十九日、田邉城下の港から出帆し、ひたすら山陰道の沿岸を急いだ。あるときは「足
占山」の麓を漕いで、軍書の欲必則莫令ト問軍吉凶を想ひ「吉も凶も占ふ暇があ
るか」と通り過ぎ、あるときは「居ぐみ」といふ海村に「旅宿いと所せくて、上なか
下、らうがはしき假枕」と雑喉寝し、あるときは「かゝ」といふ漁村の苫屋に泊つ
て、添乳の嬰児の啼くのに目をさまし、月の末の廿八日といふに、杵築大社を拝ん
で、とある旅宿におちつき、「椎の葉ばかりに盛りたる飯」を食べて夕餉をすませ
た。梅雨の前觸らしい小雨が、そぼそぼと降つてゐた。
「若狭の葛西なにがしと申す者、是非おめどほり願ひ度しと、かどぐちで蓑笠を脱い
て居ります。」
「囃子方の清兵衛だ。通れと申せ。」
 三十歳には未だ間のありそうな、色白の、やせた顔した葛西清兵衛、弟子三人と一
緒に座敷にはひつて來た。幽齋戰場に赴いて萬一の事あらば、太鼓の秘術を授かるに
すべなしと、小濱の郷里から追ひかけて來たのである。笛鼓の役者達が見えた由は、
忽ち、あたりへ聞えて、大社の禰宜らが、酒肴など持ち込み、賑やかな一座となつ

た。京都の職分の噂が出ると、「觀世太夫の葛物も幽玄だが、一噌の笛が天下一品
だ」と幽齋は批評した。葛西のいふやう、
「先頃關白さまの三輪を拝見致しました。途中で手をお忘れになり、見附柱の際から
と舞はれましたが、それがいささかも可笑しくは拝せられませんでした。」
 幽齋微笑みながら、
「其處だて。度胸と申すものぢや。舞臺も、戰場も、われらが歌を詠む机の上も、畢
竟は度胸一つのものぞ。」
 亂舞の興も終つて、夜が更けると、他の者共を退かせ、幽齋と葛西と二人が指向ひ
になつた。
「昔、豊原時秋が新羅三郎を足柄山まで追ひかけたと申しますが。」
「やめろ。追從は
嫌ひぢや。乃公は義光ではない。」
 頭から水を浴びせられたやうな思ひをして、葛西は緘黙した。やがて葛西のさし出
した太鼓を膝の前に据ゑて、幽齋は左右の手に撥を握つた。早舞物の「融」を打つの
である。彼の顔は異様に緊張した。二つの撥は、こも/\急霰の如く太鼓のおもてに
落ち、太鼓のおもては生けるものの如く撥を彈ね返した。イヤアの掛聲と共に打ちお
ろした最後の撥に、皮は裂けたかと思はれた。
「有難う存上げます。」
「なかなか以つて。左右を同時に使ふので、劔よりは難物ぢや。ずゐぶん苦勞して見
たが、今だに左の撥の切れが悪い。」

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