転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



マエストロ・ポゴレリチは10月2日、ギリシアのテサロニケで
現地オーケストラとの共演でラフマニノフの2番を弾くというのだが、
それを報道する新聞記事に、なかなか面白い表現があった
(教えて下さった某氏、ありがとうございました)。

機械翻訳が間違っていなければというのが前提だが、
冒頭、ポゴレリチを神話になぞらえて
『the Dionysus of the Piano』(ピアノ界のディオニソス)
と言っているのだ。
アメリカでは「カルト」、台湾では「激越88鍵」、日本では「崩壊寸前」、
等々、ポゴレリチを表現する枕詞はこれまでも各種あったが、
何より先に神話が出て来るとは、さすがはギリシア、ご当地ネタだ。

ディオニソスは、豊穣と葡萄酒と演劇の神だ。
神話では、狂気におかされ各地を放浪し、正気を取り戻したあと
人々の支持を集め、熱狂的な信者たちを従える神となるが、
彼の心を常に捉えていたものは、冥界の母。
死んだ母親を取り戻して神性を分かち合い、
ともに天へ上ることで、彼はようやく救われるという・・・

81年の西側デビュー当時、その目覚ましい演奏・華やかな容姿から、
若きポゴレリチのことを、確かアメリカのどこかの新聞が、
「鍵盤上のアポロン」と書いていたのを私は覚えているのだが、
あれから三十年近く経って、なんと彼はディオニソスになった。
アポロンとディオニソスをひとつの「対照」と考えたのは、
ニーチェだったっけ?

ディオニソスは人々に葡萄の栽培を教えた神でもあるが、
一説によると、彼の葡萄酒に酔って踊る崇拝者の集団が、
いつも彼の後ろには長々と続いていたそうだ。
ローマ神話上の名は「バッカスの巫女」と聞こえが良いのだが、
つまりこの崇拝者は女性ばかりで、
彼女らは「ディオニソスの狂信女たち」とも呼ばれており、
ハイになりクレイジーになった、傍迷惑な女たちの群れなのだった。

私も、彼の背後で、もうカルく四半世紀は踊り続けているのだな。
いやもうホントに、どなた様にも、ご迷惑だとはわかっているんですが。

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