転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
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宝塚ベクトル論
宝塚
/
2006年07月03日 15時59分57秒
たかこ(和央ようか)さんが、行ってしまった(T.T)。
私の偉大なる楽しみのひとつが永遠に終わってしまった。
もう、彼女の男役を観ることは、生涯、二度と、叶わないのだ。
私の愛した和央ようかは、昨日、その呼吸をやめてしまった。
これからの彼女は、ただ私の記憶の中で、
2006年7月の姿のまま、音もなく、ひそやかに生き続けるのみだ。
宝塚は、これだからイイんだとも言えるし、
これだからツラいんだとも言える。
遠からず終わりの日が来ることは、始めた時点から皆が知っていて、
それがイヤなら最初から関わらなければいいに決まっているのだが、
わかっていながら、誘惑に抗しきれずに虜になってしまい、
別れがあるからこそ、かけがえのない、きらめくような日々がある。
・・・なんだか、動物を飼うのと似てないか(爆)。
宝塚・宙組スター『最後の一日』白一色『私たちの宝物』(東京新聞)
石井哲夫氏の考察にある通り、
『ファンは、海のものとも山のものともわからない子に目を付け、
トップを目指して一心同体で苦楽を共にしながらも、
「いつかは辞めてしまう」と、どこかで考えていなければいけない』
というのは、私も宝塚の最大の独自性のひとつだと思うし、
これがあるから、宝塚の人気は支えられているのだと常に思っている。
宝塚のファンには、気に入った生徒さんと
絶えず『一心同体で苦楽を共に』するための、
なんらかの目標が目の前にある。
まだ若い男役なら、新人公演で良い役が貰えるようにとか、
バウホールで主演させて貰えるようになって欲しいとか、
番手のつく地位のスターなら、勿論トップになって欲しいとか。
歌劇団ヒエラルキーの中で、こういう目標が、次から次へと、
ファンの目にもはっきりと見える仕組みになっているのだ。
このことが、様々な年齢や境遇のファンの気持ちを、
一方向に強く牽引する太い合成ベクトルの働きをすると私は思う。
このベクトルの向かう点は、路線男役なら「トップとしての退団」だ。
そしてその裏には、「いつかは辞めてしまう」という切なさが、
かたときも忘れられることなく、ぴったりと寄り添っている。
退団した男役が、例えば外部で女優として舞台に立っても、
ファンは多くの場合、次第次第に離れていくのだが
(新しいファンがつく、という別の可能性はあるにしても)、
それは、単に元・男役が男装の芝居をしなくなったからではなく、
彼女が、歌劇団という巨大ピラミッドの一画を担う存在でなくなり、
ファンの側が、気持ちの拠り所だったベクトルを失ったからなのだ。
川崎賢子氏の、
『本来、演劇は目の前の舞台だけで勝負するものだが、
「目の前にあるもの以外、生徒の過去と未来や、
歌劇団の過去・現在・未来も観客に見せて勝負するのが宝塚」』
というご意見も至言であると思う。
「外部の観客に見せても恥ずかしくないよう、
組制度や固定トップ制度は、もうやめて、
実力本位で、公演ごとに、オーディションで配役すればいい」
などという意見に、私が決して与しないのは、
宝塚が「目の前の舞台だけで勝負するものではない」と感じるからだ。
宝塚ファンとしての私は、技術面に無頓着ではないにせよ、
仮に音程表現の正確な歌を聴かせて貰えなくても、
足の上がらない人の踊りを延々と見せられても、
そのこと自体は、いささかも舞台の価値を減じるものではないと思っている。
技術面での水準が高いことがまず前提条件、という選択基準で観るなら、
良い舞台は、宝塚以外に、ほかにいくらでも転がっていると思うからだ。
それより、舞台の上にいる生徒さんがどういう経歴の人なのか、
どうして、ここで主役を(あるいは脇役を)するに至ったのか、
これから彼女はどうなっていくのか、それは組にとってどういうことか、
それらも込みで観るからこその楽しみが、宝塚にはあると思っている。
『退団が発表されると、ファンはみんなで泣いて、
チケットを入手し、白い服を着て見送る。
ファンも儀式に参加しているというのがとても重要で、
まさに『舞台では観客も表現者の一人である』を実践している』
ファン会の揃いの会服や、楽屋入り出を整列して迎え見送る様子、
『○○ちゃん、大好きです!」等のかけ声、
あるいは客席でファン会が主導する爆竹拍手のことを、
「恥ずかしい」とか「一般人が見たら笑う」などの理由で、
廃止したほうがいい的な意見を言う人が、
同じファンの中にも時々いるのだが、
私は、ああいうものもまた、宝塚だからこその一面だと思っている。
ファン心理の根幹を支える太いベクトルの中に取り込まれたら、
あのような活動の中に、ファンとしての「参加の仕方」を見いだし、
ファンでない者にはわかりっこない世界観を得るようになるものだ、
と私は思うのだ。
『トップが辞める時、トップを支えてきた人も去り
本当の代替わりを果たす。「死と再生の儀式」なんです』
私はこれからも宝塚歌劇は機会があれば喜んで観るが、
当分、これほど熱心に応援する生徒さんには出会えないだろう。
「これっきりです」と操を立てることは敢えてしないが(殴)、
かわりが見つかれば明日からOKというほど簡単なものでもないのだ。
この喪失感は、たとえようもない。
しばらくは、男役・和央ようかの喪に服して(爆)過ごしたいと思う。
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