元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

業界を憂う

2009-02-03 | 仕事について
万年筆の業界もご多聞にもれず、売上げが低迷しているそうです。
電器、自動車、外食産業などの苦戦を聞くとそれも仕方ないと思ってしまいますが、万年筆の業界の苦戦を不景気のためだと片付けるのは少し違うと思っています。
世の中の消費者の購買行動を見たり、聞いたりしていると、家で過ごすためのものには変わらずお金を使っていますし、お金や物よりも自分の内面を豊かにするものへ人々の興味が向いていることを考えると、万年筆にとって今の状況は逆風どころか追い風なのではないかとさえ思えます。
家での時間、あるいは一人の時間を楽しくしてくれる物、自分の精神性を表現することのできる道具が万年筆だとすると、今苦戦している産業が提供しているものと万年筆とは対極にあるもので、需要は増えていると思われます。
そんな整った状況の中で、筆記具の業界が苦戦しているのは業界内の問題が大きいのではないかと思っています。
昭和初期あるいはそれ以前に確立された古い販売の仕方はお客様にもっと快適で楽しい一時をすごしてもらいたいという工夫に欠けていて、物さえ買っていただけたらいいとする考え方が表れています。
作り手は、筆記具以上の書くことが楽しくなるものを作っているという誇りに欠けるような検品の甘さを感じるものを出荷してしまうこともあります。
両者とももっとクオリティの高いものをお客様に提供しなければ、万年筆の業界に未来はありません。
現在の万年筆の業界の負のスパイラルに落ち込んでいて、「売上げが悪い」「理念のないただの物売りに走る」「お客様が離れる」ということを繰り返しています。
あるお客様が私に警告してくださっていますが、万年筆というものをただの道具として、ただの文房具に属する物として提供し続ければ、この業界は必ずなくなってしまい、数十年後には万年筆という筆記具があったと過去のものとして扱われるようになってしまうという意見に同感です。
今の万年筆の業界に足りないもの。
それは今万年筆を買ってくれている人以外にももっと多くの人に万年筆を所有してもらおうとする新しい価値の提供です。
そうするには物作りの考え方から、販売の方法、プロモーションなど全てを考え直さないといけないでしょうが、万年筆にはそうする価値があると思っています。
そんな価値があることを作り手、売り手が認識して、それぞれの仕事を反省して、変えていかなければならないと、自分自身を含めて業界が取り組んでいかなければならないと考えています。