殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

再び・現場はいま…7

2020年11月22日 09時41分01秒 | シリーズ・現場はいま…
藤村が神田さんに愛の告白をし、振られた…

次男からこれを聞いた我々は、もちろん大笑いした。

割れ鍋が、とじ蓋に断られて大恥をかいたのだ。

こんなに面白いことがあろうか。

今回のシリーズに取りかかった当初は、予想だにしなかった展開である。


「必ず幸せにします!」

神田さんにそう言ったって、ヤツは借金持ちだ。

そして3人だか4人だかと結婚、離婚を繰り返し

誰も幸せにできなかった輝かしい実績を持っている。

うち1人を除いて、相手はフィリピン人ホステスという国際結婚の熟練者。

ちょっと前までは、同じくフィリピン人ホステスのテレサと結婚目前だった。

彼女が祖国へ里帰りした途端、コロナで疎遠となったまま

現在に至っているが、今回は国内結婚でいいのか。


「お母さんの面倒も見ます!」

と言ったって、一人っ子の彼は認知症の母親と暮らしている。

この上、母親をもう一人増員する経済的余裕があるのか。


「2人でこの会社をやって行きたい!」

そんなこと言ったって、お前の会社じゃねえし。

万年学生のまま結婚、結婚と急ぎながら

相手を幸せにできる根拠を何一つ持たない小室圭じゃあるまいし

理論崩壊もはなはだしい。


そんな変なのに魅入られた神田さんは気の毒ではあるが

最初から藤村の下心を知りながら

自分は楽な仕事に従事できるよう画策した。

それだけではない。

彼女は藤村を操り、自分と仲良しのチャーターを呼ぶように仕向けた。

そいつらと一緒に楽な仕事をむさぼり

藤村の女房気取りで会社を牛耳っていたのは事実。

それを今さら若い娘のように怖がるのは、厚かましいというものだ。



やがて、浮かれて笑い転げた束の間が終わると

我々は真剣な表情になった。

上司が部下に求愛した場合、部下が合意すれば秘密は守られる。

しかし合意に達しなかった場合、相手の受け取り方によっては

パワハラにセクハラのダブルハラスメントになる。

これが公になったら、無傷では済まない。

部下への告白は、天国か地獄かの大博打なのだ。


その博打に藤村は負け、神田さんも気が弱っている。

これは千載一遇のチャンスではないのか。

逆襲するなら今だ。

我々は、この問題を発展させるか

それとも「面白かったね」で終わるかを話し合うことにした。


まず意見を聞くのは、夫。

彼には過去、自分の愛人を会社に入れて共に働いた実績がある。

経験者の意見に耳を傾けるのは当然ということになった。

「藤村とは順番が違う!

親の会社に愛人を入れるのと、雇われの身で新入社員を狙う差は大きい!」

夫は強く主張しつつも

「早めに本社の誰かに連絡した方がいい」

と言った。


その理由として、神田さんがいきなり見ず知らずの常務に電話をして

藤村のことを訴える可能性は低い…

藤村の幼稚な性格上、このまま放置していたら

神田さんに何をしでかすかわからない…

どっちもガキだから、こじれて事件になったり

労働基準監督署へ駆け込まれたら、社長を始め会社全体が迷惑を被る…

自分は報告義務を怠ったことにされ、責任追求は免れない…

これらの事柄が挙げられた。


義父の会社だった頃、似たようなことがあったのを

夫は忘れていなかったようだ。

社員が取引先の女子事務員をデートに誘い

チューを迫ってトラブルになったというものだが

向こうの顧問弁護士まで登場して揉めた。

シチュエーションは違えど、人の気持ちは紙一重であり

本人や周囲の受け止め方次第でどうにでも転がる様子を

我々は実際に見ていたため、ここは用心する必要があった。


息子たちは、「チクれ!チクれ!」の合唱だ。

私もそれに加わった。

従来の私であれば、一応は止めるふりをしたかもしれない。

人のしたことを…しかも思いっきり恥ずかしいことを

誰かに告げ口するなんて、かわいそうだわ!

なんて道徳家ぶって反対意見なんぞ言ってみせ

3対1の多数決で負けて、薄笑いを浮かべるパターン。


が、藤村に、もうそんなことはしない。

人の道や慈悲にこだわって、我々は彼の態度に我慢を重ねてきた。

だけどそんなもの、彼には通用しなかった。

思い返せば、夫の愛人どもも同じく。

情けをかければ、どこまでもつけ上がりやがった。

こんなヤツらに心を砕くのは、時間の無駄である。

よって満場一致、本社の誰かに話して対処をゆだねると決定した。



となると、誰に話すかが問題になる。

ここは慎重な人選を行わなければならない。

一発でコトを大きくするには、人選が鍵になるからだ。


常務を始め身分が上の人は、内々で済ませたがるのでダメ。

本社の耳に入れると、最初に神田さんへの聞き取り調査が行われるはずだが

長年、人の上に立ってきた人物は効率的な動きが身に付いている。

エラい人が遠くからわざわざ来て、親身に話を聞いたという形を取れば

告発者の気持ちが八割がた治まるのを知っているのだ。


これでひとまず静かにさせ、一緒に働くのが嫌なら…と転勤を提案してみたり

合間で「どうだね?大丈夫かね?」と、気にかけるふりをしながら

実際は何もせず、自己都合退職を待つ。

厄介な問題で騒ぎ出す人間の多くは、長く勤めないことを知っているからである。


会社組織というものに、物事の善悪はあまり関係ない。

特に今回のようにテーマが破廉恥で、どっちもどっちの傾向が強い場合は

自動的に上を守るようにできている。

よってエラい人は、ヒラの神田さんより上の藤村を庇いつつ

穏便に片付けるからダメ。


かといって藤村の前任、松木氏のような下っ端も

ただの噂で終わるからダメ。

若いのも、権力が無いからダメ。

程よい中間層に位置する人物が望ましい。

地位にある程度の重みがあり、上層部の信頼は厚いが

まだ自己判断は許されていないため

必ず上に相談する人でなければならない。

ちょっと下の者が知っているとなると

上はもう、内々で収めるわけはいかなくなるからだ。


中間層となると、私や息子たちはよく知らない。

夫には心当たりがある様子なので、人選は彼に任せることにした。


翌日、夫は本社営業部の今井課長に電話をした。

彼は営業部のNo.3である。

一番上が河野常務、次が永井営業部長、その次が50才の今井さんで

藤村を含む営業部社員のまとめ役。

営業部のボーナス査定も、この人がやる。


夫が今井さんに決めたのは、本社で数少ないマトモな人というだけではない。

少し前、藤村が彼に暴言を吐いたからだ。

理由は知らないが、夫は今井さんと藤村の双方から

その時のことを聞いていた。

今井さんの話では急に興奮して、ひどい言葉を浴びせたという。

かたや藤村のほうは、「今井に喝を入れてやった」という武勇伝だった。


「今井さんは藤村を嫌っとるけん、絶対に動く」

夫はそう言った。

パーフェクトな人選である。

《続く》

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
重要人物が登場ですね (田舎爺S)
2020-11-23 17:28:46
新たな重要人物が登場しましたね。
今井さんの活躍が楽しみです。
それにしても作戦会議は大切ですね。
返信する
ほんとだ! (みりこん〜田舎爺Sさんへ)
2020-11-23 21:18:34
言われてみれば、新たな重要人物ですね!
この重要人物が頑張ってくれます。

作戦会議は大切ですね。
事前に各自の認識を統一し、役割分担を
明確にすることが成功の第一歩だと思います。
返信する
スパイ映画さながらの (ユウキ)
2020-11-24 09:19:45
情報戦ですね。
これもひとえに全員同じ組織で働き
人間、組織を熟知しているからなせる技!!
この先の展開が楽しみです♪

それにしても

>相手を幸せにできる根拠を何一つ持たない小室圭じゃあるまいし

に苦笑い。
先日のお言葉といい
もう片側の問題でなく、両者の問題のような気もしてきました。
返信する
Unknown (モモ)
2020-11-24 10:45:51
河野常務の動きを期待していた私が甘ちゃんでした。
まだまだ社会の機微をみりこん姉さんから、教わりたいです。

中間層のエライさんに報告したらどうなるか?私も想像してみました。

昨今の流れとして、やはりパワハラ、セクハラ問題を上層部に直に報告したら小さい炎上で終わらそうとするのが、会社を守る方法ではないか。
経営者側として。

しかし(まっとうな)中間層に報告したとしたら、働く側の環境改善は自分達中間層以下にも関わりがあるし、労働監督署への相談も行きやすい。

やはり人選が大事ですね~。

ヒロシさん、大笑いをされて良かったですね。
元気と自信を取り戻されたようで安心しました。


返信する
スパイ映画! (みりこん〜ユウキさんへ)
2020-11-24 13:05:06
スパイ映画さながらの情報戦とまで言ってくださると
何やらかっこいいじゃありませんか!
内容がショボいのが申し訳ないところです。

あ〜、日本中を幻滅させた、あのおコトバね〜笑
昨日だか、女性宮家の案を却下して
降嫁した皇族女性を公務員扱いにする案が
発表されましたが、これに決まる予定は
早いうちに伝えられていたと思います。
公務員だと、男が無職でも養えるので
髪結いの亭主でいいわけですよ。
私も両者の問題だと思います。
返信する
そうなんです〜 (みりこん〜モモさんへ)
2020-11-24 13:11:27
上の人は穏便が好き。
穏便でなければ困る。
自分の安泰が揺らぐから。
会社の個性にもよりますが、チクるなら
相談や報告で上下に話が拡がりやすい
中間管理職ですわ。

お陰様で、ヒロシはずいぶん元気になりました。
戦いはこれからなので、良い精神的休養になりました。
返信する

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