殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

現場はいま…ピカチューの乱・9

2024年04月25日 14時44分09秒 | シリーズ・現場はいま…

夫が思い通りに退職しなかったので

アキバ社長と善後策を話し合うため

連日のアキバ詣でを続けるピカチュー。

はたして彼らは、新たな一手を思いついたようである。

 

その気配は、F工業の社長からもたらされた。

F工業のことは、ここでも何度か話題にしたが

うちよりずっと多くのダンプを所有する大手で

お互いにダンプのチャーターをし合っている仕事仲間だ。

50代の社長はやり手で、他にも手広く事業を展開しており

こちらに何かあると助けてくれる

漢気が服を着ているような人物である。

 

数日前のこと、そのF社長から次男に電話があった。

「板野ってヤツが、N建設の社長を通して

ワシに会いたい言ようるんじゃけど、何が目的かの?」

 

ピカチューが着任してまる1年、今まで無視を貫きながら

ここにきて急に会いたがる謎もさることながら

彼に会いたければ次男に頼めば済むことなのに

無関係のN建設を間に挟んで連絡をしてくるのはおかしい…

F社長がピカチューのアポイントをいぶかしむのは、無理もなかった。

 

ちなみにN建設は市外の建設会社で、うちとの付き合いは全く無い。

そしてF工業とN建設は一緒に仕事をすることも多く

社長同士はとても親しい間柄。

そしてピカチューは以前、生コン会社に居た時

N建設の社長と顔見知りだったという関係性である。

 

つまりピカチューは

急にF工業の社長とお近づきになる必要にかられた。

しかし次男を介して会うのは都合が悪いらしく

F社長と親しいN建設の社長に連絡を取ってもらうことにした…

ということだ。

 

「回りくどいことされるの嫌じゃけん、断ってええかの?」

ピカチューの人となりを見抜いた様子のF社長に

次男はここしばらくで起きた出来事をかいつまんで話した。

「わかった、断るわ。

ワシ、これでも忙しい身じゃけんのぅ。

バカの相手をしてやる時間は無いんじゃ」

F社長は笑った。

 

 

ピカチューとアキバ産業が何を考えているか…

ここでピンとこなければ、建設業界で生きては行けない。

我々の脳裏に、まず共通して浮かんだのは

アキバ産業とピカチューが企てていた共同仕入れの作戦が消え

新しい作戦に変更したということである。

共同仕入れのことを河野常務に言って

ピカチューが怒られるのを楽しみにしていたというのに

残念じゃわ。

夫の退職騒動で常務に怒られたので、言えなくなったのかも。

 

では、新たな作戦とは何か…

この業界の人間なら、誰でもわかる。

仕入れの次に狙うのは、配車以外に無い。

安く仕入れることも大事だが

利益を左右する配車も同じく大事。

仕入れと配車、この二つを押さえておけば

たいていのことはどうにかなるのが、この業界なのだ。

 

配車といえば、心当たりは大いにあった。

隣市に、K興業という同業者がいる。

興業という名前でうっすらとおわかりのように

長年、反社組織の企業舎弟というプロフィールを活用し

仕事を獲得してきた会社だ。

そのため、うちとの付き合いは全く無い。

 

K興業は、10年ほど前に計画倒産して以降

社名だけを変更して同じ仕事を続けていたが

いつの頃からか、隣のアキバ産業へ

ダンプのチャーター仕事で入るようになった。

K興業のK社長とアキバ社長はここ数年

仲良しこよしのベッタリである。

 

一方、ピカチューもK興業の専務と同級生だそうな。

裏社会の人と親しいことを自慢するコモノが時々いるものだが

ピカチューも、それがご自慢で仕方がない。

 

K興業は小規模の会社なので

アキバ産業の衰退に連動して、近頃は景気が悪い。

よってK社長もアキバ社長も

お互いに厳しい現状打破と、事業拡大を熱望している。

そこで考えつくことは、誰でも同じだと思う。

「隣に入り込めないか?」

 

K興業がうちとチャーター契約を結べば、K社長は仕事が増えて嬉しい。

アキバ産業はK興業がうちへ入り、持ち前のヤカラ臭を漂わせて

邪魔者を辞めさせてくれたら嬉しい。

そうなったらピカチューは、ご自慢の同級生に顔が立つだけでなく

邪魔者が消えて自分の天下になるので嬉しい。

 

K興業の活躍により、うちの運転手が減ったら

アキバ産業とK興業からすぐ補充できる。

一旦退職させて、募集に応募させればいい。

うちはアキバ産業やK興業より給料がいいので

両社の運転手は喜んで就職し直すだろう。

 

こうして内部から侵食を進め

「隣を淘汰して、アキバ産業が成り代わる」

この目的を難なく達成…そう考えているのが手に取るようにわかる。

うち以外のみんなが嬉しくなっちゃう作戦といったら

これしか無いので間違いない。

 

しかし、そのためにはハードルが一つ。

F工業だ。

ピカチューがいきなり

「あんたら、手を引いてちょうだい」

なんて言ったら血の雨が降るのが、この業界。

無知なピカチューでも、それくらいはわかるはずだ。

 

だからまず、F社長に挨拶と言って近づく。

そして親しくなったら、K興業のダンプも1台か2台

入らせてくれと言う。

F工業がすんなり了解すれば、最初はわずかな台数でも

だんだんK興業のダンプを増やしていって、最終的にF工業を切る。

F社長が拒否したら口論し、とっても怒ったということで

やっぱり切る。

ピカチューでもできそうなことといったら、その程度だ。

 

が、K興業がうちへ入る目は無いように思う。

ピカチューの前任、松木氏が入社して間もない頃だった。

K社長から「入らせて欲しい」と頼まれ

張り切って河野常務に言ったところ、メチャクチャ怒られた前例がある。

 

それまで瓦屋のアルバイトだったのが、急に営業所長になり

肩書きの付いた名刺を誰かれなく嬉しげに配り歩いたので

つけ込まれたのだ。

難しい所とわざわざ取引するな…というのが常務の意見だった。

《続く》


コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 現場はいま…ピカチューの乱・8 | トップ | 現場はいま…ピカチューの乱・... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ぎんど)
2024-04-26 21:59:05
ピカチュウ どんじかられる(うちの方の方言でもの凄くおこられる)のを回避したかと思ったけど
結局どんじかられるんでしょうか?
後の無いアキバ、窮鼠猫を嚙めるんでしょうか?
せいぜい頑張ってね。
続き楽しみにしています。
返信する
Unknown (みりこん〜ぎんどさんへ)
2024-04-27 08:02:56
どんじかられる!
面白い方言ですね!
ピカチュー、常務にちょっと怒られますが
F社長にはどんじかられると思います。

アキバには頑張っていただきたいと思います。
うちは銀行管理にこそなりませんでしたが
明日をも知れぬ薄氷を踏む気分は経験しているので
応援はしませんが同情はしています。
今後も稚拙な作戦を次々と繰り出して
楽しませていただきたいと思っています。

続きを楽しみにしてくださって、ありがとうございます。
返信する

コメントを投稿

シリーズ・現場はいま…」カテゴリの最新記事