殿は今夜もご乱心

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現場はいま…ゴーヤ騒動記・4

2024年06月02日 16時55分01秒 | シリーズ・現場はいま…

事務所のホワイトボードにB社の文字があったと聞いて

アキバ産業の新たな陰謀を察知した私だった。

選挙の恨みで義父との取引を切っただけは飽き足らず

メインバンクに手を回し

義父の会社と取引をしないように命じたB社長と義父アツシは

もちろん絶交。

二人のオジさんは憎しみ合ったまま生涯を終え

父親の言い分しか聞いてないB氏の息子もまた

我々一家を憎み続けて現在に至っている。

 

そのB社にうちのサンプルを納入するとは

そのサンプルで試験的に製品を製造してみて

問題が無いようであれば価格交渉の上、うちから納品させる…

つまり継続的にうちの商品を買ってくれるということだ。

父親に背いた罪で我々を憎み続けたまま

社長を引き継いだ現在のB社長が、ウンと言うわけがない。

つまり、あり得ないことが起きようとしているのだ。

この不自然に、心は騒いだ。

 

「どのサンプルを持って行くか、調べるわ」

やはり尋常でない雰囲気を感じ取っている息子たちは、言った。

B社は、製造材料のほとんどをアキバ産業に納入させている。

それなのに、うちの商品サンプルを所望するとなると

アキバ産業の仕事がわずかでも減るということではないか。

アキバ社長は取引を継続するために

B社長のお古の車を買って乗るほど一連托生の子分に甘んじているのだ。

たとえ一種類だけの商品でも、みすみす譲るわけがない。

しかも宿敵の我が社へ。

あまりにもおかしい状況であった。

 

サンプルの商品名は、すぐに判明した。

午後になると事務所のホワイトボードに

ピカチューの字で商品名が書き添えてあったからだ。

「◯A◯!」

商品名を確認した次男は、ぶったまげたという。

 

「おおごとじゃ!」

早めに仕事が終わって帰宅した次男は、少々おどけて言った。

「◯A◯は、先月からK商事が納品しょうる!」

アキバ産業の兄社長にきついお灸をすえた、その筋の親玉

あのK商事のことである。

 

次男の話によると、この商品は特殊で

アキバ産業には仕入れのルートが無い。

よって、これだけは別の会社から仕入れていたそうだ。 

しかし価格交渉の決裂なのか

B社長が例によって忠誠心を試したくなり

何らかの要求をして断られたのかは不明なものの

とにかくB社はその会社を切り

先月、新たにK商事と契約を結んだという。

 

この話を教えてくれたのは、昔、アツシの会社に勤めていたO君。

転々と仕事を変えるうちに50代も半ばを過ぎて就職が難しくなり

泣く子も黙るK商事に拾われた彼は

今でも時々、次男と電話でおしゃべりをしているのだ。

 

隣の市内に住むO君は、住まいがB社に近いという理由により

問題の商品“◯A◯”をB社へ納入する専任要員として

K商事に雇われた。

そのために新車のダンプを買ってもらった…

O君は先月、嬉しそうに語っていたそうだ。

 

B社へ納品するためにダンプの新調までしたK商事を差し置いて

うちが同じ商品のサンプルを持ち込むということは

K商事の仕事を奪おうとしていると思われても仕方がない。

「ワシらの誰かが連れ去られるかもしれん」

息子たちは笑いながら、そう言って盛り上がっていた。

 

というのもアツシの会社だった頃は、K商事と取引があった。

我々夫婦も何度か、豪奢な事務所へお邪魔したことがある。

行きがかり上、まだ小さかった子供を連れて行ったこともあり

K商事の人々は優しくしてくれたが、普段うるさい子供たちは

妙におとなしくて行儀が良かった。

 

ついでに話せば、今の本社と合併話が持ち上がるのとほぼ同時期

親切なことにK商事も合併の話を持ちかけてくれた。

スリルとサスペンスに目をつぶり、開き直って染まれば

もしや我々は安泰だったかもしれない。

大手のK商事と手を組めば、アキバ産業と組むT興業や

町内の同業者で企業舎弟のC産業よりも

そっちの世界ではずっと格上になるため、楽ちんだと思う。

しかし緊張感は必要になる。

あの夫や息子たちが粗相をしない保証は無いため

丁重に辞退した経緯があった。

 

ともあれピカチューとB社が繋がったところへ

K商事が絡むとなると、コトの次第を早めに見極め

対処を考えなければ。

そのためには慎重に行きたいところだが、結論は一瞬で出た。

考えつくのは、一つしか無いからだ。

 

その考えによると、B社長はK商事と取引を始めたことを後悔している。

離れた市外にあるK商事の素性を知らないまま、契約したのだろう。

アキバ社長はそれを知って止めたが、もう遅い。

冷徹と評判のB社長でも自分から切ることはできず

取引相手に色々と要求して忠誠を誓わせるどころか、逆になりそう。

 

子分のアキバ社長は、親分のお役に立つために考えた。

そして、この名案に行き着く。

「そうだ!隣のヒロシ社とK商事を戦わせよう!」

彼は、うちとK商事の古い付き合いを知らないようだ。

 

その内容とは、K商事が納入している商品をうちが狙い

B社にサンプルを持ち込んだことにする。

獲得したばかりの仕事を奪われそうになったK商事は当然、怒る。

チャラリ〜♩抗争勃発。

夫は、アキバ兄のように連れ去られるという算段。

 

これが大ごとになれば、B社がK商事を切るもっともな理由になる。

しかし、大ごとにならなくても大丈夫。

B社長は「何も知らなかった」と言ってピカチューと夫のせいにし

今まで通りK商事と取引を続ければ、無かったことと同じだ。

むしろシロウトよりも義理を立てるK商事は

何事も無ければ良い取引先である。

 

そして夫は、アキバ兄のように使い物にならなくなって会社を去り

残るはアキバの傀儡に成り下がったピカチュー。

こうなりゃ、彼らの思い通りだ。

自分の手を汚さず、人を操って目的を遂げるという

アキバ社長の思考回路はわかっている。

 

以上のことを帰って来た夫に話したら

フフ…と笑っていたのはさておき

この仮説が事実だと証明する方法が、一つだけある

B社にサンプルを持って行く時

ピカチューが夫に同行を求めるか否かだ。

彼が一人で行けば、我々の杞憂。

普段、一緒に行動しない夫に何らかの理由をつけて

B社へ連れて行こうとすればビンゴである。

《続く》


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