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現場はいま…ゴーヤ騒動記・2

2024年05月28日 13時58分23秒 | シリーズ・現場はいま…

ピカチューを使ってF工業を排除し

代わりにT興業のダンプをうちへ入れる…

T興業は持ち前のコワモテを発揮して社内を揉ませ

夫や息子たちを始めとする社員を一掃、ジワジワと会社を衰退させる…

やがて、うちは消滅、アキバ産業が本社の子会社に成り代わり

T興業も安泰…

これが、アキバ計画である。

この業界で、切羽詰まっている者が考えることは皆同じなのだ。

自力での解決が困難となれば、諦めて倒産するか

あるや無しやの仁義を捨てて、誰かの食いぶちを奪うしか道は無い。

 

厳密に言えば、我々のように大手と合併する手段もあるが

これは自分から売り込んでどうにかできるものではない。

向こうが言い出してくれて初めて実現するので、レアケースだろう。

本社の物好きと河野常務の憐れみ深さによって合併に至ったが

今や競合他社が成り代わりたがる道を

十年以上前に選択した自分の判断に満足している。

 

だからアキバ計画を知っても、腹は立たない。

以前の我々と同じように大変だろうから、同情すらする。

ただ、アキバ社長は、いつも誰かとグルになる。

50も半ばを過ぎたというのに、未だに一人で勝負できないんだなぁ…

などと、若い頃から見知っている整った風貌の彼を

おぼろげに思い浮かべる程度である。

 

ともあれ、ピカチューがF工業に会うのを止めたT興業の判断は

正しかったと思う。

それは、平和のためではない。

ピカチューがF社長と会っていたら、T興業は危なかった。

 

ピカチューがアポを取りたがっている…

このことを次男から聞いたF社長は、瞬時にアキバ計画を見抜いた。

ピカチューと喧嘩した夫が辞めると言って帰った後

彼が夫の机を片付けていた…

あの“机事件”に怒り心頭のF社長だったが

その時、次男には、こうも言っていたのだ。

「うちを切ってT興業を入れるんなら、M物産の仕事、取っちゃろ」

 

M物産とは、F工業とT興業の中間に位置する大手の会社。

つまりT興業にも近いが、F工業にも近い場所にある。

そしてT興業にとってM物産は、最大の取引先。

T興業のT社長はアキバ社長と仲良しではあるものの

仕事の方はM物産がメインである。

大口で美味しい仕事なので、まずそっちを優先し

M物産から呼ばれずに余った1台か、たまに2台を

アキバ産業へ行かせているのだ。

 

太客が一本だけというのは、経営者にとって非常に怖い。

向こうの都合や気まぐれで切られたら、会社は一巻の終わりだからだ。

確実な顧客を増やしたいT興業がアキバ計画に乗るのは

当然といえば当然である。

 

その、T興業にとって命綱であるM物産の仕事を

F社長は奪うと言っているのだ。

だって今回の場合、うちへ入っているF工業の仕事を

先に取ろうとしたのはT興業。

ここで我々の業界の掟、「取ったら取り返していい」がまかり通る。

F工業にも近く、大口で美味しい仕事を振ってくれるM物産は

ぜひとも欲しいところだ。

 

F工業にとってのアキバ計画は

「うちの仕事を奪うなんざ、とんでもないヤツだ!プンプン!」

と怒って終わることではない。

M物産の仕事を正々堂々と奪える、絶好の理由になる。

そのために、うちの仕事を先にT興業に奪わせる手も

あるということだ。

 

F工業が去ってT興業が入って来たら

厄介なことになる恐れはあるものの、その期間は短いだろう。

M物産の仕事を奪われたT興業は早晩

二度目の倒産を迎えることになるからである。

 

我々の業界では、たまにこの手が使われる。

目の前にエサをぶら下げて、相手が食いつくのを待ち

エサが取られたら、報復と称して相手のエサを取るという高度な手口だ。

今回のエサは、うちということになるけど

たいしたエサでもなし、F社長の役に立つなら全然かまわない。

信頼し合う同志と仕事ができるのは

変な輩から変な計画を立てられたり、足をすくわれたりの不快を

大きく超越する喜びである。

 

エサをぶら下げて先に取らせ、報復に出る手口は

20年近く前、我々も見たことがある。

この手に引っかかったのは、他でもないアキバ産業だ。

 

当時の社長は今の社長のお兄さんで

次男の現社長は専務だった時代である。

亡き父親の後を継いで社長に就任したばかりの兄社長は張り切り

あちこちに顔を出しては、単価を下げて取引を持ちかけるという

アキバのお家芸を炸裂させていた。

 

常々申し上げているように

我々の業界にはカタギとクロウトが混在する。

この世界で生きていくならば、まず業界の歴史を学び

違いを見分ける選球眼を養うことが不可欠だ。

しかし兄社長は、チャレンジャーであった。

どこの取引先であろうと分け隔てなく、果敢にアタック。

その噂は、危険な行為として業界に広まっていた。

 

やがて兄社長のチャレンジ精神は

絶対に誰も手を出さない聖域にも及んだ。

同業者では県内で一、二を争う大手、かつ“その筋”の親玉として

戦後の復興時から業界に君臨してきた会社、K商事である。

お兄さん社長は、このK商事の取引先であるD総業へ行き

「K商事より単価を下げるので、うちと付き合って欲しい」

と申し込んだのだ。

 

するとD総業は、いとも簡単にOKした。

喜んだ兄社長は後日、契約を詰めるために再びD総業を訪問。

その時には、K商事のスリリングな方々が多勢でお待ちだった。

そう、D総業は最初から乗り換える気など無かった。

見境いの無いアホがいるということで

K商事と共に兄社長をからかったのである。

 

K商事の縄張りを荒らした兄社長はスリリングな方々に連れ去られ

スリルを味わったそうだ。

以後、兄社長はちょっとおかしくなってしまい

弟が社長を交代して現在に至っている。

《続く》


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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2024-05-29 12:50:51
みりこんさん
こんにちは😃
スリリングな業界のお話ありがとうございました。
それがどうしてゴーヤ騒動というタイトルと結びつくのか?
続きを楽しみにしていまっす!日向ぼっこ
返信する
Unknown (みりこん〜日向ぼっこさんへ)
2024-05-29 16:36:48
タイトルね〜…。
書き始めた時は、確かにゴーヤがテーマだったんです。
だけど途中で色々あって、そっちを書いているうちに
ゴーヤがどこかへ…。
終わり頃、出てくると思います。

続きを楽しみにしてくださって、ありがとうございます。
スリリングな業界のこぼれ話ですが
隣の兄社長が遭遇したスリルは
首だけ出して地中に埋められたというものです。
返信する

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