殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

始まりは4年前・11

2024年08月09日 10時23分40秒 | みりこん流

昨日は宮崎県を中心に、大きな地震がありましたね。

元旦に起きた能登半島の地震を彷彿とさせましたが

皆様がお住まいの地域は大丈夫だったでしょうか?

被害に遭われた方々に、心よりお見舞い申し上げます。

 

さて、この老人シリーズも11話目。

怠け者で筆の遅い私だが、オリンピックに負けじとばかり

連日アップにチャレンジしている気分になっている。

陰気なテーマだけに、興味の無い方にとっては食傷気味かもしれない。

しかし一旦取り組んだら急いで記録しておかなければ

年齢的に忘れてしまいそうなので、まだまだ続けるつもり。

ご自身やご家族にとって、明日は我が身の方には

ジワジワと迫り来る老いの恐怖を実感していただきたいと思う。

 

 

さて、薬を服用し始めた母は、劇的に落ち着いた。

最初なので、かなり弱い薬で様子を見ると聞いていたが

弱い薬で十分という感じ。

今後は月に一度のペースで受診し

薬が合っているかどうかを見るそうである。

心療内科を紹介してくれたA先生は

「心療内科の薬は患者さんの症状に合わせるのが難しくて

一回でピッタリ合って症状が改善するのは珍しいんよ。

良かった良かった」

と言った。

 

落ち着いたとはいえ、夜中の呼び出しが無くなっただけで

薬を飲んだからといっても性格まで良くなったわけではない。

昼間は今までと同じ嘆きの女王であり

私をアゴで使い倒すブラック会社の社長である。

 

それにしても精神安定剤…つまりよく眠れる薬の服用により

一発で改善された症状を考えると

母は老人性の睡眠障害に陥っていたのだと思う。

睡眠障害は、鬱病の前段階で発生することが多いからだ。

 

彼女は若い頃から、夜の10時に布団に入ると即、寝落ちして

朝の6時まで一回も目が覚めないタチ。

夜中にトイレに起きるなんてことは、別世界の話として生きてきた。

それが近年、夜中に目が覚めるようになった。

夜中に目なんか覚めたことがないんだから、そりゃびっくりする。

びっくりして、色々と考えてしまう。

夜中に布団の中で考えることは、ろくでもないことに決まっている。

あれこれ考えているうちに不安になり、それが癖になったと思われる。

 

母のように、あんまり元気過ぎるまま年を取るのは

自分を追い詰める一因になるのかもしれない。

ともあれ夜中に起こされなくなったので、私に文句は無い。

当面、施設も病院も遠ざかったように思えた。

 

そうこうしているうちに、去年の年の瀬だ。

年末には、母の実子マーヤが帰省する。

毎年のお盆と年末年始、マーヤは一家で実家を訪れ

数日間を過ごすのが恒例である。

 

その間は静かで実家には呼ばれないし、電話もかからないと断言できる。

なぜならマーヤの滞在中、母は我々継子を寄せ付けない。

継子と実子の間に一線を引きたい母の主義と

母娘の蜜月を誰にも邪魔されたくないからだ。

 

この10年ほど、母は年末になると

正月の支度や買い物のために私を呼ぶ。

けれどもその作業は、マーヤの一行が車で到着する前日

または当日の数時間前までと厳密に決まっている。

母は周到に逆算し、私の出入りとマーヤの帰省が被らないよう

ちゃんと調整していた。

 

マーヤの帰省が近づくと

楽しみ半分しんどさ半分で感情が乱高下するが

それをやり過ごせば、数日間は解放されるのだ。

ブラボー!

 

が、その年は例年と少し違った。

マーヤが帰って来るのに、掃除機がどうしてもかけられないと言う。

母は人一倍几帳面なので、台所や部屋を散らかすことは無い。

断捨離もとうの昔に済ませ、家はいつも綺麗に整っている。

ただ、掃除機が無理だと言うのだ。

 

精神が弱ると掃除が苦手になると聞くけど

なるほど、よく見ると隅々にホコリが溜まっている。

そのホコリが見えないのは、白内障の手術も虚しく

とみに衰えてきた視力のせいもあるけど

近年、カーテンを全く開けなくなり

暗闇を好んで生活するようになったのもある。

やっぱり症状は色々な所に現れるんだな〜と思った。

 

例年との違いは掃除機もだけど、そもそも私が掃除機をかけるために

実家の全室に出入りしたこと自体が異例。

長年、実家への出入りは玄関と、勝手口のある台所

それからお坊さんが来た時の仏間しか許されておらず

夜中に呼ばれるようになってから、母の寝室へ入るようになった。

自分の実家ではあるものの、すでに母が相続した他人の家なので

入りたいとも懐かしいとも思わないが

母が私に全室への侵入を許すからには、よっぽどしんどいのだろうと感じた。

 

いよいよマーヤが帰ってからも、異例はあった。

大晦日の午後、母とマーヤ一家が突然うちへ来たのだ。

これにはぶったまげた。

 

マーヤと会うのは父の葬式以来、20年ぶりだ。

彼女の夫と3人の子供たちとも、それ以来…

いや、末っ子の女の子は父の死後に生まれたので

よく考えたら初対面である。

が、マーヤは毎年の年賀状に家族写真をプリントしてくれるので

成長の過程は把握していた。

 

マーヤが小声で言うには

「姉ちゃんに会って礼を言え」

母が言い出したので、みんなで来たのだそう。

腹違いの姉妹が顔を合わせるのを激しく嫌ってきた母が

自ら会わせるのは異例中の異例である。

 

玄関が賑やかなので義母ヨシコも出て来て

母と親しく言葉を交わしていた。

この二人が会うのは、義父アツシの葬式以来9年ぶりだ。

 

が、ヨシコ、それが母だとは気づかないままに終わった。

ずっとマーヤの姑だと信じていたらしい。

「マーヤちゃんの姑さんは、小柄な人じゃね」

一行が帰った後で言う。

「あれは、うちのサチコじゃ」

「ええっ?!

知らん人じゃけん、旦那さんのお母さんだとばっかり…」

ヨシコの驚くまいことか。

母の外見が、それほど変化してしまったということだろう。

それよりも勘違いしたまま、会話がちゃんと成立していたのが怖い。

《続く》

コメント
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