殿は今夜もご乱心

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デンジャラ・ストリート 弁当篇

2016年09月27日 11時38分55秒 | みりこんぐらし
毎年9月の最終日曜日は

私にとって闘いの日である。

敬老のイベントとして年に一度

町の女性会(昔は婦人会と呼ばれていた)から

お年寄りに、弁当がプレゼントされるのだ。

町の仕出し屋が作った弁当に

お茶とお酒と紅白饅頭

それにハンカチかタオルの記念品が付く

心づくしの包みである。


弁当は年々、質素になり

缶ビールはいつの間にやらワンカップになり

お茶はキリンやサントリーから

無名のメーカーに変わり

紅白饅頭は小さくなったが

それは予算や物価高のせいだけではない。

老人が増えすぎたからだ。


以前、弁当をもらえるのは70才以上が対象だったが

いつの頃からか、75才に引き上げられた。

それでも追いつかないので

78才以上にしようかという案が出ているそうだ。


我々一家の住む、後期高齢者だらけの通り

名付けてデンジャラ・ストリートの面々も

毎年、この日を心待ちにしている。

ただし、弁当を入手するには関門が。

取りに行かなければ、もらえないのだ。

当日の10時から昼までの間に市民館のロビーへ行き

あらかじめ届けられた案内状と

交換するのがルールである。


市民館は車で3分ほどの場所にあるが

ストリートの住民は、ほとんどが80才超え。

運転していたご主人は亡くなり

自転車はおぼつかず、徒歩にも自信がなく

頼める家族もいない人にとって

この日は嬉しくもあり悩ましい複雑な日。

案内状が届くと、どうやって市民館へたどり着くかを

案じる話で持ちきりである。


「だったら、もらわなきゃいいじゃん」

老人の習性を知らない人は言うだろうが

昭和初期の物資の無い時代に生まれ育った人々は

何が何でも、是が非でも

無料の弁当をゲットしなければ気がすまない。


食欲も、調理の意欲も希薄となり

単調になりがちな日々の食事で、たとえ一食でも

変わった物が登場すれば気分は高揚する。

しかも敬老ときた。

なにしろ敬われるのだ。

どうしてもらわずにいられようか。


このような近隣の老人の悩みに

首を突っ込むバカがいる。

私である。


ストリートの老人に代わって

弁当をもらいに行く習慣も、はや6年目を迎えた。

数々の失敗を重ねたあげく

今や、敬老弁当代理受け取り人として

プロの域に達したと自負している。


初心者だった最初の頃は

続々と市民館へ集まる老人の車やバイクに

何度も轢かれそうになった。

足が弱っているため、交通ルールを無視して

会場の前に無理矢理乗り付けようとする

老人の傍若無人をあなどっていたのだ。


さらに失敗は続く。

最初の年は義父母と隣の夫婦の弁当、4個。

取りに行けと言われ

何も知らずに出かけた私だったが

弁当の包みは1個ずつ、固くしばってある。

弁当の上にはお茶やお酒が乗っており

平坦ではないので積み重ねるのは不可能。


2個を両手に持ち、1個は頭に乗せ

1個は口にくわえようか、などと考えていたところ

たまたまショッピングバッグを持っていたことを

思い出す。

それに4個、重ねて入れたが、弁当は中で斜めに傾き

下の2つがグチャグチャになってしまった。


この失敗を踏まえ、来年こそは

まともな弁当を持ち帰ろうと心に誓ったが

翌年から、代理受け取りの数が増えていった。

弁当は欲しいが取りに行くのは嫌な住民たちが

依頼してくるようになったからだ。


もはや同じ失敗は繰り返せない。

私は大きなダンボール箱を抱えて会場へ行くようになった。

帰ったら、それを配る。

喜ばれるので、まんざらでもない。


ある年、弁当を取りに行ったら

市民館で弁当のお世話をしていた知人が

「今日は遅くなりそうだから

うちの姑に持って帰ってもらえない?」

と頼んできた。

この人も近所。

私は二つ返事で弁当を持ち帰り、おばあちゃんに届けた。


認知症と聞いていたけど、全く普通じゃんか‥

と思いながら帰宅したその後、事件は起こった。

おばあちゃんは弁当の包みに入っていた

ワンカップを全部飲んで、大暴れしたという。


「誰じゃ?!ばあさんに酒飲ましたのは!」

ご主人の怒るまいことか‥

後でその知人から話を聞き

「それは私です」と言って、2人で大笑いした。


代理で受け取る弁当の数は

年々順調に増加していった。

ピークは12個。


さすがに一人では無理なので

夫や息子に出動を要請する年もあったが

3年前から減少し始めた。

子供と一緒に暮らすようになり

子供が受け取りに行くようになった家もあるけど

多くは亡くなるからだ。

うちも義父がいなくなったので、義母の分1個になった。


今年は合計4個で、振り出しに戻る。

うちが1つ、隣が1つ

それからご主人が入院中のため

車で取りに行けない家のが2つ。


ダンボール箱では大げさなので

思案の結果、結婚式の引き出物の紙袋を2枚持参し

そこへ2個ずつ、受付の人に入れてもらった。

バッチリで嬉しかった。


この方式に満足してニヤつきながら帰り

弁当を届けて任務終了。

正直、疲れ果てるが

いつか行かなくていい日が来るのも寂しい。

いや、そのうち自分達の分をもらいに行くかも。

ガーン!

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6 コメント

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流石みりこんさん、面倒見良いわ (夫人)
2016-09-27 14:30:23
日曜日に放送されたNHKスペシャル「縮小ニッポンの衝撃」と同じじゃないですか。
だんだんと人口が減り行政も従来のサービスを提供できなくなる日もそう遠くない。
私たちの頃はもう弁当なんて無くなっていると思います。
返信する
流石みりこんさん!(夫人さんパクリました。) (すみこはん)
2016-09-27 16:17:58
エッ、年寄りに取りに行かせるのかい?
配達が当たり前ちゃう?
って読み進めたら、流石みりこんさん!良かったわ。

対象年齢75歳は正解ですね。
70歳のジジババは自分を年寄りなんて思っていないから。でも多くは貰える時は潔く年寄りになるのも事実。
私は見栄っ張りのええカッコしいだから、貰うっていうのは苦手。

今日は友だちが相方のお参りに来てくれたのですが、
余り長生きもしたくないね。
お金も物も要らないし、時々どこかに出かけて美味しいものをチョコッと食べて、それで良いね
って話したのですが、さてさてどうなる事やら。
あぁ、こんな会話したくもなかった・・・・・けど油断していると老いはどんどん駆け足になる。
返信する
やっぱり?(笑) (みりこん〜夫人さんへ)
2016-09-28 09:48:05
弁当は無くなるのね。
女性会も入る人がいなくなって消滅。

昔は長生きする人が少なくて
長寿の老人には希少価値があったから
無条件に敬って大切にされたけど
増えるとおざなりになるのは人間の習性。
今は古来のプレミア感が
末期的ながら残存している時代で
私たちの頃には、きっぱりとおざなりだわ。
ほんと、人口減少で
行政は敬老どころじゃなくなる。

で、選挙の時だけ
思い出して持ち上げられるのよ。
あるのは投票権だけだから。
物が豊富な時代に生まれ
戦争を体験しなかった幸運があるので
仕方ないかな、と思っています。
返信する
貰う勇気 (みりこん〜すみこはんへ)
2016-09-28 10:14:14
私もまだありません(笑)
交換場所はホンマに戦場で
弁当はホンマに情けないくらい質素で
家族を派遣してまで入手する価値は見出せない。

弁当に対する老人たちの情熱は
我々にはひたすら「欲」に見える。
弁当入手にこだわる母親とストリートの人たちや
交換場所の混雑を見た夫は
「餓鬼」と表現しましたが
ぴったりで吹き出しました。

でも、もっと年を取ると
誰かの思いやりを受け取りたい願望が
強くなるのかもしれない。
日頃、思いやりを感じることが減ったり
感じにくくなって、わかりやすい物を歓迎する‥
実際に年を取ってみないとわからないことって
きっとたくさんあるんだろうな。

長生きしなくていいから
ちょこっと美味しい物食べて‥
私もそれでお願いしたいです(笑)
返信する
流石みりこんさん!(夫人さん、すみこはんパクリました) (きょん)
2016-09-29 14:33:27
お年寄りは日常生活の中に
ちょっとしたイベントがはさまると嬉しいんですよね~
流石!みりこんさん!です

子供のころ、クリスマス近くになると
子供会からチョコレートがもらえてわくわくしてました
あの時の気持ちと似てるかも・・・

でも、私の地域では敬老会はお弁当ではなく、公民館での「お食事会」です

這ってでもそこへたどり着かなくては、恩恵にあずかれないシステム
ひゃ~!
足腰きたえとこうっと!
返信する
なるほど! (みりこん〜きょんさんへ)
2016-09-29 18:03:59
たまのイベントが嬉しいのか〜!
そういや私も子供の頃、風船とかもらうと
狂喜乱舞しとったわ。

這ってでもたどりつかないと
恩恵にあずかれないシステム(爆)
しばらく笑わせてもらいました。
そちらはお食事会なんですね。
そりゃ這ってでも参加しないと(笑)
最後は足腰勝負。
返信する

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