アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング/アビー・コーン、マーク・シルバースタイン監督
小太りの女性は、その容姿のせいで遠慮がちになり、何もかも自信が持てない。そういうことで彼氏もできないし、仕事も冴えないという訳だ。しかしながらフィットネスクラブで頭をぶつけてその後鏡を見ると、自分が美しく生まれ変わっていると思い込んでしまう。実際には何も変わっていないのだが、自分だけそう見えているようなのだ。ところがその所為でみるみる自信が湧いてきて、自分がいい女のような振る舞いをするようになる。美人しかやっていない受付嬢に応募したり、ちょっとした男性とのやり取りも積極的になったり。見た目は変わってないので、周りにいる人は大いに戸惑うものの、美人でない人がそうふるまったとしても、あなたにふさわしくない、などとの注意が現代社会でできるわけがない。
そうなのだが、しかし自信を持った彼女の行動は、何か妙に感じのいいものでもあって、周りはそれに戸惑いながらも、楽しんでいくようになる。そうして彼女自身がみるみるいい方向に成功していくようになるのだった。
いわゆるルッキズム批判の映画なのだが、こういう見た目のギャップを楽しむコメディになっていて、そこを笑うためには、やはり見た目が悪いのにいいようにふるまうギャップを認めなければ面白くは無い訳だ。だからそれが面白いと感じること自体が、ルッキズム信者だという証明にもなる。なんとも複雑な心境だが、これは前向きな心持が人生を切り開く、と考えて納得するよりないかもしれない。しかしながらそれこそが、近代的な奇妙な偏見の価値観にも過ぎない訳で、もう少し深く考えてみる必要があるのではないか。
実のところこの映画は、そのあたりのダブルスタンダードが、あまりうまく処理されていないところが散見される。面白く見るためには、これらのルッキズムを馬鹿にしなければならないし、そんなことを気にしなくて良いのなら、これらの負け組と勝ち組の明らかな揶揄など必要なさそうだ。おそらくだが、そういうところに気づかないままの人に対してだけ、なんだか良い映画と認識されうるのではなかろうか。見ていながら、それならもっといい男と結ばれた方がいいようにも思ったし、金持ち勝ち組であっても、もう少し頭がよくてもいいようにも感じた。同僚の男性は最後まで偏見に満ちて馬鹿みたいだったし、なかなかこういう自意識というものの表現は難しいものである。