今年の夏は暑い。これはもう事実として暑い。いやになるほど暑いわけだが、これが人と会うたび適当な挨拶になる。みな暑いのは一緒だから、暑い暑いと言って会話になる。誰それが具合が悪くなった、先日はめまいがして危なかった、熱中症になったかと思った、それぞれの暑さのせいでひどい目にあったことを自慢しあう。これが面白いのかどうかというと、面白がっているわけではなかろう。それでもすさまじくひどい体験をしたというのは、人に伝えたくなる情報ということなのであろう。
日中に外出するにはまったく話にならないほどの暑さだ。そんなことをするような人間は酔狂にもほどがある。しかしながら夏だといっても、人というのはやはり日中に会うというような約束がある。会議室に冷房があればそれなりに安楽だけれど、そういう部屋に入る前が難儀である。階段を登ってたどり着くような場所もある。座る前に汗を拭いて、肌についたシャツをバタバタする。挨拶をかわしながらそういう動作が忙しい。節電もあるからなかなか冷房を強められない事情もあるらしい。しかしたまに冷房が効きすぎると、今度はなんだか調子が狂う。寒いんだか暑いんだかよく分からない。女性などが混ざる会では、話し合いの途中で冷房を弱めてくれという声が上がる。ひざ掛けを準備しているご婦人もいる。温度の適温というのは個人差が大きいようだ。また、座る場所によって風の当たり具合にも違いがあるのだろう。
温められたり冷やされたりすると、それだけで疲れるらしい。やっと家に帰ってビールを飲むと、なるほどしあわせな美味しさである。それは確かに幸福なのだが、やはり疲れのせいなのか、焼酎に替わるころにはもう眠くなってくる。頑張って飲んでいるが、つい横になってしまう。テレビを見ているつもりでウトウトしている。映画ならば何度も同じ場面を戻してみている。あきらめて寝てしまったらもう朝だ。朝といってもすぐに暑い。
今年は夏が終わらないという噂がある。もちろんそんなことはあるまいが、盆も過ぎたが勢いが衰えていない。まったく今日も暑いの話題は尽きないのである。