未来の二つの顔/星野之宣(原作ジェームズPホーガン)著(講談社漫画文庫)
星野の漫画は海外での評価が高いのだという。これはSFの古典的な名著をさらに漫画化させた作品だが、そのためもあってか、セリフ回りなど、まさにハリウッドの映画的な雰囲気を醸し出している。そして星野の画力が、ぐいぐいと物語をドラマチックに描き出しているのだ。
あとがきによると作品の発表が79年、邦訳が83年。そして漫画化して発表されたのが92年である。舞台は2028年の月面近くの宇宙ステーションである。当時はまだAIなどという言葉すらなかったが、コンピュータにあえて危機的状況を与えて、それを自己補修する中で学習させて、いわゆる進化を促して意志を持つようになれるのか、という実験を行う。そうして確かに自ら考えられるようになっていく過程で、これらのトラブルを生み出している人間自体を敵と認識するコンピュータが暴走するという物語である。実に恐ろしい訳だが、結末に至ってハッピーエンドなのである。どうしてそうなるのか? もちろん読んで確認してください。
間に挟まる研究者の会話も実に機知に富んでいるし、恋愛もあるし、軍事的なアクションも申し分ない。どんどんコンピュータが学習していって進化する過程も面白いし、その意思がどのように進んでいくのかも論理的に納得のいくところだ。細かいところに目がゆき届いている感じで、このような予想が、近未来には起こるだろうことが見て取れる。おそらく少なからぬ近い将来に、このような体験を人類はすることになるのではないか。まあ、コンピュータは意志を持つことはない、という研究はあるわけだが、これだけの学習が可能になったコンピュータなら、ありうると思える内容である。そうしてこれは、現代の科学でも可能なことになっているのではなかろうか。まだ、暴走しているというニュースは聞かないが……。
どうせ実現するのであれば、早くそういうものを見てみたい気がする。もちろんこのお話のように、人間側がそのこと自体を予測して、学習内容を吟味すべきであるが、その学習のさせ方においても、これなら可能性はそれなりにありそうだ。ぜひともコンピュータ関係者には読んでもらわなければならない作品といえるだろう。