カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

確かにうまく騙しているものだ   ジェシカが駆け抜けた7年間について

2018-04-02 | 読書

ジェシカが駆け抜けた7年間について/歌野晶午著(角川文庫)

 女子の長距離陸上選手が絡んだ殺人事件を題材にしたミステリ作品。題名にあるジェシカはエチオピア人で、これも仕掛けの一つになっている。ただし、大どんでん返しがあるとか、特に飛び上るほどびっくりするような話では無くて、ちょっと不思議な気分が続く作品である。時間のトリックがあるらしいというのは読みながら分かるし、それは重要ではあるけれど、何か人間模様に悲しさが現れていて、日本の陸上界の闇のようなものを、あぶりだす(あくまで作品世界でのことではあるけど)ような話なのかもしれない。しかしながら事件が起こってしまって残念ではあるのだけど。
 外国人が絡んでいるが、当然読者は日本人だけだろうから、会話は基本的に日本語である(または翻訳してある)。だからジェシカの回想も、外国のことのような気分がほとんどしない。さらに外国での時間もたくさん描かれているのに、やっぱり日本のどこかで行動しているような気分が抜けない。翻訳ものと違った作品というのは、そういう意味でも不思議なものだな、と感じた。
 読者を騙すトリックとしてはそれなりに大掛かりなもので、構成も僕が気付かないだけかもしれないが、破綻無いように思う。僕は個人的に日本陸上のリアルなファンというのがあるので、こういう話はあんまり無いだろうな、とは思ったが、トリックの題材としては、よくできていると思う。後味も不思議と悪いものでは無いし、正直言って読んで面白い作品なのではないだろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする