カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

濃密な一日の物語  さよなら歌舞伎町

2016-05-05 | 映画

さよなら歌舞伎町/廣木隆一監督

 ラブホテルに集う人々のそれぞれの事情を描いた群像劇。たった一日だけの話だが、単なる定点観測というより、それまでとこれからも分かるようになっている。舞台がラブホテルということもあって、やたらに裸体が出てくるが、実用的なエロを目的とした映画ではなさそうだ(観る人の個人的な目的や事情までは知らないが)。5組のカップルが出てくる上に家庭やきょうだいの事情などもあるので、それぞれが単純に絡んだものということでは無い。しかしながら新宿という場所の風俗と、日本や韓国の社会問題なんかも同時に織り込まれていて、さらに犯罪の時効問題についてまで考えさせられたりする。基本的に何かに批判的であったりというような社会的な問題提起を目的としているようではなく、淡々とそのような問題が絡んだ個人のいろいろな事情に発展する様を描いている。
 それがなかなか成功しているように見えるのは、多少ご都合主義的な絡みがあるものの、それなりに背景が分かるような丁寧さもありながら、さらに語り過ぎない適度な距離感が見事なバランスを保っているためだと思う。これだけ煩雑なエピソードが続いてしまうとお腹いっぱいになってしまいがちだが、断片の切り取り方がいいので、適当に背景を勝手に見る方が想像してしまう。いろいろあるらしいが、彼らなりに合理的に行動しているらしいことに納得がいくようなところがある。AV女優や風俗嬢や家出娘やヤクザな人や警察や逃亡中の犯罪者など、おおよそ一般人とはかけ離れた人々だらけなんだけれど、それが新宿という街に実によく馴染んでいるという感じかもしれない。普通ならリアリティが欠けてしまうところなのに、身近な話としても理解できてしまうのだった。
 まあ、人間というのは全部を表に出せるような生活をしているような人ということの方が、実は少数派なのかもしれない。ものすごく変な人ばかりとまでは言えないにしろ、何とか日常を送っている人々にも、それなりに知られてはならない、もしくは単純に後ろめたいような事情を抱えたまま生きているという当たり前のことかもしれない。それは単純に個人的な責任問題だけに起因するものでは無くて、相対的に仕方のないものだってあるわけだ。知ってしまうとなかなかそのままでは済まないようなことも多々あるのだけれど、結局は感情的に折り合いをつける勇気が必要だ。あんまりまとめても意味は無いが、そんなようなことを自分なりに感じながら楽しんで観てよい映画であろう。
コメント
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