幸せのための経済学/蓼沼宏一著(岩波ジュニア新書)
副題は「効率と衡平の考え方」。高校生でも分かる入門書という捉え方らしいが、高校生でなくとも近代経済学を知るためには役立つと思われる。幸せというのはあくまで個人的な、感覚的な概念とは思われるが、そのことを衡平(公平ではない)に効率的に成立させるための考え方を簡単に説明してある。個人的嗜好と分配を効率的に達成できるならば、個々人の福祉は格段に向上できる。要するに現行のシステムは、その衡平な分配にどうも支障があって、効率よく達成できていないために、ある意味で不幸な状態にあるということを暗に示してある。そういうことを経済学の問題としてとらえ考えていこうという合理的思考を身に着ける一助になるかもしれない。しかしながらちょっと気になるのは、これを本当に一般の人や政治家が理解できるのかという問題はあるのだが…。
やはりちょっと前に(いまだにだが)、ブータンの人の幸福度が高いということで、それに比べて日本はどうだという感情的な議論があったように思う。ブータンの人が、例えば歩くしか移動手段の無かった場合に自転車を持つことによる幸福感は、日本ではクラウンに乗りたい人が軽自動車しか買えなかった場合と比較すると、格段に幸福度が上になるということになろうが、しかしながらそのような比較が、果たして意味のあるものなのかというのは、よく考えなくても疑問があるのではないか。そのようなことをいろいろと思考実験していって、各人の幸福度を高めることを効率的に行うことを、経済の仕組み(もしくは税制など)で行う必要がある。複数の因子を絡めて、そのことが果たして各人に有効な分配となりえるかということを、考えていく。実際問題となると、もっと何を例にとりながら行うのかということの疑問は残ったのだが、少なくとも単純に一つの項目のみで達成を図るのは、かなり問題があることは理解できることである。
また、現在の政治においても、基本的には不利な立場の人を合理的に救済するような政策がとられている訳だが(基本的に多くの人に合意可能な考え方=福祉だから)、しかしながらその分配や方法においては、まだまだ改善の余地があることは確かそうだ。経済政策においてもそのような考え方を取り入れながら公平な制度を作ることは、素直は福祉政策となることは間違いない。経済学の考え方が理解されながら国の政策が形作られることで、政治の意味を大きく変えることになるだろう。感情論だけで陳情に反応するのでなく、合理的に「公平で効率的な」政策立案のために、進むべき道しるべになるのではないだろうか。