チェット・ベイカーの「ラウンド・ミッドナイト」。
死の2年前、1986年の「クール・キャット」(タイムレス・レコード)から。
チェット・ベイカー(tp,vo)
ハロルド・ダンコ(p)
ジョン・バー(b)
ベン・ライリー(ds)
チェット・ベイカーは、みずからの生で、人の弱さ、小ささを僕たちに思い知らせる。
同時に、それを乗りこえるすべのひとつを示してくれているかのようだ。
とても不完全であるとしか思えぬが。
彼の歌やトランペットの声・音は、波立つ心を静める方法を示唆する。
チェット・ベイカー自身が、どこまで自覚していたかは知れぬ。
でも、彼の音楽は結果として示している。
今夜、やしろの黒い木の向こうに光る丸い月。
和泉式部の歌
冥きより冥き道にぞ入りぬべきはるかに照らせ山の端の月
「ラウンド・ミッドナイト」に耳を傾けてみよう。
デクスター・ゴードンの「アワ・マン・イン・パリ:OUR MANN IN PARIS」(1963 Blue Note)。
1962年に渡欧し、翌63年にパリで録音されたアルバム。
錚々たる顔ぶれで演奏されている。
デクスター・ゴードン:DEXTER GORDON(ts)
バド・パウエル(p)
ピエール・ミシュロ(b)
ケニー・クラーク(ds)
デクスター・ゴードンは、コールマン・ホーキンスより年下、ジョン・コルトレーンやソニー・ロリンズよりは年上。
以前、「ゴー」を聞いたとき、どんな印象を持っただろうか。
いいけど、これと言ったひきつけるものがない。
収録曲は5曲。
1.スクラップル・フロム・ジ・アップル
2.ウイロー・ウィープ・フォー・ミー
3.ブロードウェイ
4.ステアウェイ・トゥ・ザ・スターズ
5.チュニジアの夜
デクスター・ゴードンの主なアルバム。
・1947:ザ・ダイヤル・セッション(Storyville-Polydor)
・1955:ホット・アンド・クール(Dootone)
・1962:ゴー!(Blue Note)
・1963:アワ・マン・イン・パリ(Blue Note)
・1965:ゲッティン・アラウンド(Blue Note)
・1969:ライブ・アット・パラダイオーソ(Odeon)
・1974:「アパートメント」(teeple Chae)
Chet Baker / Oh You Crazy Moon ~ The Legacy Vol.4(enja)
1978年、チェット・ベイカー49歳の録音である。
1曲目は、「ザ・タッチ・オブ・ユア・リップス」。
ヴォーカルだけである。
その声には、若々しさ、ナイーブさを感じる。
2曲目は、「ビューティフル・ブラック・アイズ」。
これは、トランペット。
3曲目は、アルバム名になっている「オー・ユー・クレイジー・ムーン」。
ヴォーカルとトランペット。
月からの何やら妖しい光の滴り・・・でも、さみしい心にひとときの慰め・・・。
4曲目、「ラブ・フォー・セール」。
そして、「ワンス・アポン・ア・サマータイム」、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」。 6曲、収録されている。
パーソネル
チェット・ベイカー(tp,vo)
フィル・マーコウィッツ(p)
スコット・リー(b)
ジェフ・ブリリンガー(ds)
ジャズの魅力、人の喜びや悲しみが、演奏者の存在と一体になって表現される。
演奏者は、自分の存在をかける。
そうでないジャズもあるが、それは、ジャズと言えるのか。
チェット・ベイカーの音は、いつも悲しみをたたえている。
叙情がある、こけおどしのような気どりはない。
明日の運動会や遠足を前に、わくわくする、そんなところはない。
恋に胸がときめくと言うのではない、彼女といると安心できる、心がやすまる、やさしさに感謝する・・・・。