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情況論ノート第20回 

2008-07-23 20:34:29 | Weblog
 情況論ノート第20回 

 1990年代初頭のバブル崩壊から21世紀初頭まで及んだ「長期不況」の原因と特質、特に、製造業における生産システムと蓄積構造をめぐる変容を述べる。

(1)過剰資本の圧力とグローバル化
 バブル崩壊後の不況が「長期不況」として深刻化した原因は、70年代後半以後、「平成景気」に到るまでの資本の過剰蓄積、その帰結として「過剰資本」(過剰設備、過剰在庫、過剰雇用、不良債権、不良資産など)が膨大となり、処理が困難になったためである。

 また、国際的には、冷戦の終結により、グローバル化の加速とメガコンペティションの進行など環境の急変に晒された。これらにより、日本企業は、生産拠点の移転と国際分業体制の編成、国内的な制度・慣行の切り崩し・再編を要請されることになった。

(2)生産システムの変容
 製造業では、この経済環境の激変に対応するため、バブル期までの「多品種化」への反省によるモデル数や部品の削減、部品の共通化による「ムダの排除」とコストの削減、生産ラインにおける「人手」の見直しを行なった。

 自動車企業では、品種の削減、部品の共通化、プラットフォーム(車台)の統一、モデルチェンジサイクルの延長など「製品設計の簡素化」を進めた。また、国際的規模での自動車産業の再編が進んだ。

 電気産業では、低賃金労働力を求めてアジア諸国への生産拠点の移転、同時に、普及品・量産品はアジア諸国で、先端技術製品や高級品、新製品や試作品は国内に残った工場で生産するという「製品別分業」「工程間分業」が展開された。

(3)蓄積構造の変容
 バブル崩壊後の過剰資本の処理は、①アジアへの生産拠点の移転による対外直接投資、②国内外企業との「産業再編」のもとでの合理化・リストラ、③正規雇用の放出とそれに替わる非正規・不安定雇用の拡大により「日本的経営」の切り崩しが進行した。

 その結果、大企業の利潤は増大したが、他方では、安定した雇用の削減と労働者所得の低下をもたらした。

 完全失業率は、高度成長期の1%台、第1次オイルショック後(1976年以後)の2%台に対して、バブル崩壊後の1995年には3%台を超え、98年には4%を超え、2001年7月に5%、2001年11月には5.5%に到った。

 (参考)原理論的には、恐慌とそれに続く不況過程での個別企業間の厳しい競争を通じて「過剰資本」が処理され、固定資本の更新投資に伴う新たな生産方法の採用(技術革新)とともに超過利潤を獲得する諸企業が現れれば、更新投資に続いて新投資も拡大し、回復(好況初期)へ向かうことになる。



 以上のことから、近年のワーキングプア、格差社会などと呼ばれる現象は、バブル崩壊後の資本活動の帰結であることがわかる。そこにおけるキーワードは「過剰資本」である


『日本の「長期不況」と構造変化―生産システムおよび蓄積構造の変化―』(栗田康之著)を参考とした。 
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