僕は84日ごとに循環器内科に通っているが、病院に着いた時にはこの間を何とか生きることができたなと実感する。また、毎朝何種類かの薬を飲む時にも今日一日何事もなく生かしてほしいなと思う。ただそれは瞬間の出来事であって、身体全体が生きていることを感じるのは、登り坂をランニングで一歩一歩足を止めずに乗り越えた時だ。それは苦しさの中に心地よい汗が噴き出す瞬間だから。
『私たちはどんな世界を生きているか』(西谷修著 講談社現代新書 2020年刊) その2
第3章「日本は朝鮮半島をどう見ているのか」で、著者は北朝鮮と国際社会との関係について述べている。僕は、これまでトランプ前大統領をバランスの取れない人物だと決めつけていたが、本書をあえて反面教師的に読んだときに様々に感じるところがあった。
(著者の論旨)
①2002年の小泉首相訪朝以降拉致問題が浮上し、それによりこの国は戦争加害者ではなくて実は被害者だったという国内世論が起こった。なお、(P129)「訪朝時、(拉致問題を)小泉は知らされていなかった」という記述はそんなバカなことはあり得ないと思う。
②1年後、北朝鮮は国交回復に道を開きたいので、日本政府を信用して拉致された人びとの一部を一時帰国させた。しかし、日本政府は帰国者は帰さないと言い出し北朝鮮との約束を破った。
③北朝鮮の核武装は、冷戦崩壊後に社会主義圏が消滅し、北朝鮮が単独で米国、韓国と対峙しなければならなくなった中で、東独のように西独へ吸収されることを防ぎながら国家を維持するための手段であった。
④米国は、北朝鮮を脅威とみなすことによって、極東における軍事体制、韓国・日本との軍事連携の求心力としたいのだ。また、北朝鮮という脅威が存在することは日本にとっても都合のよいことである。もし南北朝鮮が共同歩調を取るようなことになった場合には、この100余年における日本と朝鮮半島との関係が問われることになる。
⑤では、これからどうしたらよいのか。著者の結論は、北朝鮮を国際秩序の中に受け入れて徐々に変えて軟着陸させるしかないと言う。
(僕の考え)ここでも著者の結論は、これまで20数年間と同様の結論先送りというショボいものだ。さらに軟着陸のためにどうしたらよいのかという方途も具体的には語られていない。また、日本の対米追従を批判するが、ならば東アジアにおいて日本がどのような役割を果たしていくべきかについては語られない。
僕はトランプ、文寅在が金正恩と直接に会ったという事実の持つ意味は大きいと考える。トランプが考えていたのは、北朝鮮との戦争を終結させることよって極東における米国の軍事負担の軽減をはかり、新たなビジネスチャンスを創出したいというものだ。きわめて単純だが合理性を持つ考え方だと思う。
米国の主流を担うマスコミ、それに追随する日本のマスコミは、トランプの発言や行動を奇人・変人のような扱いをしていたと感じる。その背景には現状の変化を望まず維持させたいという米国・日本の政治勢力があると考える。そもそもトランプが大統領に選ばれることを予想していたのはわずかな人たちだったことを思い出す。
少し脱線するが、2008年に誕生した民主党で首相だった鳩山由紀夫は「東アジア共同体」構想を打ち出したが、それが米国の虎の尾を踏んだために、鳩山はマスコミでまさに奇人・変人のように扱われた。
僕は本書を批判的に読む中で、トランプの現状の枠組みを変えようとする思考を再評価しても面白いのではないかと気付いた。おそらくバイデンはオバマと同じく北朝鮮問題については先送り型思考だと思う。では、この国はアジアの片隅でこのままずっと米国に追従するしか術がなく、近隣諸国からも距離を置かれながら徐々にしぼんでいくのか。それとも主体性を発揮して東アジアの要となるのか。意外とトランプってまともに見えてきた。