『アンモナイトの森で 少女チヨとヒグマの物語』(市川洋介作 水野ぷりん絵 学研教育出版ティーンズ文学館 2010年刊)
小学校中学年くらいから読めるであろう児童文学の作品です。第18回小川未明文学賞大賞を受賞した作品です。縁があって読ませていただきました。
本書でも、著者がさきに発刊したフォトエッセイ『透明な朝・霧の朝』の身近な自然を素材とした写真や季節の文章と同様の眼差しの優しさを感じました。
この作品には複眼的な思考が貫かれています。著者は、断定的な物言いをしませんが、読者として想定されている小学生に対しては、ものごとを考えるための素材がたくさん提供されます。大人が読んだ場合にも、この作品から突きつけられる問題が見えてきます。
さて、物語の中に、大きな二つの時間軸があります。
一つは、ヒグマ、オオカミ、アンモナイトが棲む自然界にある時間の流れです。人間が暮らすずっと前から連綿と続く命の流れです。また、古代に生きていた生物が化石になるくらい時間の流れがあります。
もう一つは、人間の知りうる位の歴史的時間です。舞台は、北海道の開拓時代、明治の頃です。人間の何世代分かの時間ですので何とか実感できるのではないでしょうか。
人間と自然の関係についても考えさせられます。
人間が生きていくためには自然と対峙しなければなりません。自然に働きかけて生産をしないと食べていけません。開拓の歴史を振り返ると、人間が自然の侵略者であったのは事実です。
しかし、源治とツネが絶えず自分たちの子どもである主人公のチヨを心配するように、自然の中で生きているヒグマの親子の側にも同じ想いがあることを想像させられます。欲に惑わされ、不必要に自然を破壊しようとした猟師の二人はしっぺ返しを受けます。人間と自然との関係には、節度が必要なのでしょう。
また、都会の中で、人間関係だけが中心の生活をしていると、自然の中で私たちが生きていることをつい忘れがちになります。この作品を読むと少女チヨのように私たちにも何か自然に対する能力が潜在的に備わっているかも知れないという思いになります。
このように、この作品からは、重層的なメッセージが伝わってきます。ぜひ多くの子ども達に読んでほしいと思います。
小学校中学年くらいから読めるであろう児童文学の作品です。第18回小川未明文学賞大賞を受賞した作品です。縁があって読ませていただきました。
本書でも、著者がさきに発刊したフォトエッセイ『透明な朝・霧の朝』の身近な自然を素材とした写真や季節の文章と同様の眼差しの優しさを感じました。
この作品には複眼的な思考が貫かれています。著者は、断定的な物言いをしませんが、読者として想定されている小学生に対しては、ものごとを考えるための素材がたくさん提供されます。大人が読んだ場合にも、この作品から突きつけられる問題が見えてきます。
さて、物語の中に、大きな二つの時間軸があります。
一つは、ヒグマ、オオカミ、アンモナイトが棲む自然界にある時間の流れです。人間が暮らすずっと前から連綿と続く命の流れです。また、古代に生きていた生物が化石になるくらい時間の流れがあります。
もう一つは、人間の知りうる位の歴史的時間です。舞台は、北海道の開拓時代、明治の頃です。人間の何世代分かの時間ですので何とか実感できるのではないでしょうか。
人間と自然の関係についても考えさせられます。
人間が生きていくためには自然と対峙しなければなりません。自然に働きかけて生産をしないと食べていけません。開拓の歴史を振り返ると、人間が自然の侵略者であったのは事実です。
しかし、源治とツネが絶えず自分たちの子どもである主人公のチヨを心配するように、自然の中で生きているヒグマの親子の側にも同じ想いがあることを想像させられます。欲に惑わされ、不必要に自然を破壊しようとした猟師の二人はしっぺ返しを受けます。人間と自然との関係には、節度が必要なのでしょう。
また、都会の中で、人間関係だけが中心の生活をしていると、自然の中で私たちが生きていることをつい忘れがちになります。この作品を読むと少女チヨのように私たちにも何か自然に対する能力が潜在的に備わっているかも知れないという思いになります。
このように、この作品からは、重層的なメッセージが伝わってきます。ぜひ多くの子ども達に読んでほしいと思います。