晴走雨読

晴耕雨読ではないが、晴れたらランニング、雨が降れば読書、きままな毎日

内田樹、平川克美 『沈黙する知性』

2019-12-28 13:53:16 | Weblog

2019もこのブログ、極私的備忘録ですが、読んでいただきましてありがとうございます。「ウソから始まった五輪」の年、2020がグダグダになるであろうことを祈念して本年を閉めたいと思います。

「寄り添いながら」、「丁寧に説明する」・・内実の無い空虚な言葉が多用されています。少なくてもこれらを口にする人は疑ってかかった方がいいと思います。

 

『沈黙する知性』(内田樹、平川克美著 夜間飛行 2019年刊) 

今や売れっ子の2人に僕が最初に出会ったのは2004年、往復書簡(メール)集『東京ファイティングキッズ』(柏書房)だった。血湧き肉躍るキレッキレの言葉たち、オリジナリティあふれる思想、世の中にこんな軽妙なやりとりができる関係があるのだろうかと衝撃を受けたことを覚えている。

ただ、あれから15年、ファイティングキッズも少々スタミナ切れ、かつてのような弾みが感じられない。それを一方的に作者のせいにするわけにもいかないのは、読者である僕の方にも感受性の劣化があるからだ。

本書は熟練者による対談だ。お互いの考え方の違いをわかりあっている関係だから、べったりではなく絶妙な距離感を保ちながら、作品としての対談を作っている。プロの技は今もなお健在だ。

 

さて、他者の対談は横に置き、僕自身が日常において友人たちとどういう話題について、どういう質をもって話しているのかと振り返るといささか自信がない。僕の欠点はおそらく、自分が見つけたユニークな視点とやらを自慢気に語り相手の反応をみたいという一方通行なところだと思う。「どうだ、俺って凄いだろう」という顔をして。僕は鼻持ちならぬ嫌な野郎だ。

ただ、僕が最近大いに感動した言葉は、友人が吐いた「僕はスポーツ選手のさわやかな笑顔が嫌いだ」というものだ。このフレーズは99%の人を向こう側に追いやるような言葉ではないか。人前ではあまり口にできない言葉、タブーに属すると思われる話題、そういうことを言わせることができるのが僕の持つ小さな取り柄じゃないかなと思う。

 

 

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山家悠紀夫 『日本経済30年史 バブルからアベノミクスまで』

2019-12-04 16:48:03 | Weblog

今年の流行語大賞はラグビーワールドカップで使われた「One Team」に決まった。チームのために、ひとつにまとまって。ひねくれ者の僕には、自分勝手は許さない、ここは君の居場所ではないと聞こえてくる。全体主義が匂う言葉だと感じた。

 

『日本経済30年史 バブルからアベノミクスまで』(山家悠紀夫著 岩波新書 2019年刊)

岩波新書で読む「平成」シリーズ(2019年刊)については、このブログで2019.4.10に『平成の終焉―退位と天皇・皇后』(原武史著)、2019.5.24に『平成経済 衰退の本質』(金子勝著)、2019.9.11に『平成時代』(吉見俊哉著)の読後感を書いた。

本書は平成30年間(1989年から2019年)の経済情況を、読みやすい文章とシンプルな図表で大変わかりやすく解説している良書だ。この期間は、僕の会社生活の中・後半部分と重なっていて、同時代として様々な出来事や社会の気分が思い出され、懐かしく振り返った。ただ、軍国主義、経済成長と大きく激動した昭和と比べると、バブル経済破裂(バブル=泡なので崩壊ではなく破裂だそうだ。)後、経済の落ち目を見た時代、残念ながら一言でくくると華の無い時代だったと思う。鳴かず飛ばずのままただただ時間が過ぎたと。

著者は、消費税に対しては日本経済を悪化させたと否定的見解を持ち、巨額に積み上がった国の債務残高には楽観的で、賃金の引き上げその他労働条件の改善、社会保障制度の拡充により、人々の暮らしを良くすることが日本経済を良くすることにつながるというシナリオを描く。

ただ、留意するべき悲観的なストーリーとしては、(P280から引用)「(矛盾先送り型の政策である)アベノミクスの終焉の時に、必ず生じるであろう諸問題にどう対処するか」であり、「異次元の金融緩和政策で、効果を出せないままひたすら積み上がった日本銀行の供給資金量(マネタリーベース)は2019年3月末ですでに500兆円を超え、GDP比100に迫ろうとしている。(政策発動前の2012年末は140兆円、GDP比30%ほどであった。)これをそう収束させ、正常化させるか。正常化の過程で金利の上昇は必至である。消費者物価の上昇率が1%ほどという現状から考えると、0%台の長期国債の利回りが1%程度に向かって上昇していくことは必至である。その結果として、既発国債の価格の大幅下落、つれての、国債を大量保有する金融機関(日本銀行を含む)における巨額損失の発生。加えて、金利上昇による株価の下落(実態経済の裏付けのない株価だけに暴落の懸念すらある)。あるいは、新規発行国債(その年の歳出をまかなうために発行する国債)の金利上昇による財政負担の増加、等々。懸念の種は尽きない」と述べる。

経済破綻のシナリオについては、2019.6.12に「経済クラッシュ ハイパーインフレ、預金封鎖、新円切り替え」でも書いた。

経済の現状、特に国の長期債務残高に対する認識が2つの主張に分かれている。財政の破たんにつながるので緊縮財政で再建を図るべき。対するは、本書の山家氏やれいわ新選組の山本太郎代表のような積極財政で再建できるという考え方がある。僕は今こそ真っ向からの論争を期待する。

 

コメント (2)
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