ラピダスの本質 国策会社 内国植民地 2nm半導体技術
数年前から僕はあるサークルで北海道の歴史を勉強している。時々考えるのは「何のために歴史を学んでいるのか?」ということだ。ある出来事についての背景などを知ることができると「ああ、そういうことだったのか」と喜びを感じることがある。また、世界の未来を考えるためには過去の歴史に学ぶことが大事だともいわれている。
まだ勉強途上で軽々には言えないが、明治からの北海道の歴史を一言でとらえると、「内国植民地」だと思う。北海道の人が本州を内地と呼ぶことに象徴されるように、国内植民地なのだ。地場の資本が弱いので何かを起業する場合には独力ではできず、つねに本州資本の力が必要だった。また、国は先導して、北からのロシアの脅威に対抗するため、屯田兵の入植をはじめ北海道開拓が国策として進められた。
以上のことから今を考える。千歳市に半導体の製造拠点としてラピダスが建設中で、ラピダスは北海道経済の希望の星になっている。道内のマスコミからは、用地造成、工場建設、上下水道や道路などのインフラ整備、従業員ためのマンションやアパート建築などの需要が大きいと景気のいい話ばかりがマスコミから報道されている。だが肝心の、2ナノメートル半導体の量産技術が未だ確立されていない、製品を販売する顧客が決まっていないなどというネガティブな情報は片隅で少々伝えられている程度だ。さらに、今のところトヨタ、NTTなど民間8社からの出資が73億円なのに対して、国から1兆円近くの公費投入が決定されているのも不自然と思う。
この情況をどのように捉えたらいいのだろうか。歴史を学んでいるものとして、最大限の想像をめぐらしてみたい。
先日、ある方と話をした。「ラピダスで製造する半導体は米国軍事産業からの要望である。台湾や韓国にある半導体工場が地政学的リスクにさらされているために、これからを見据えて日本に製造拠点をつくる(移す)のだ」という。
僕はなるほどと思った。地政学的リスクを考えると台湾のTSMCが熊本に工場を建設している理由もわかる。台湾の工場が稼働できなくなった場合に対する保険の意味があるのだろう。ゆえに日本のラピダスが選ばれたのだろう。だが、大手民間資本は技術開発と販路の見込みに確信を持てないため現実的な判断から様子見ということで腰が引けているのだろう。しかし、何ごとも米国に従属した判断をしている政府は、宗主国である米国からの要望は絶対的なものであり、無条件に従うべきという姿勢から前のめりになって既に約1兆円も支援を決めたのだろう。まさにこれらからラピダスの国策会社としての性格が明らかに見えてくる。
さらにその方は、「現在、技術を開発中のIBMは、浮き沈みの大きい量産からは手を引いていて、低コストで製造できる海外に委託先を求めている。そのためラピダスにはできる限り低コストで製造することが求められているのだ」ともいう。
早々に北海道にラピダスの進出が決まった要因は、第一に北海道の地価が安いことが有利に働いたのだろう。また、賃金や大量に使う水なども安価に抑えられる見込みがあると判断されたためであろう。また、僕の推測では、ラピダス製の半導体製品が米国軍需産業からの求めだとすると、他国から工場が攻撃されることは許されないために隣接地にある航空自衛隊千歳基地の存在もあるのではないかと思う。
また、以前から僕は気になっていたのだが、ラピダスで表舞台に出てくる会長の東哲郎氏、社長の小池淳達氏ともにずいぶんと高齢なのだ。本来最先端産業のリーダーはベンチャーの臭いがしてしかるべきと思っていたが、なるほどIBMの下請け工場であればさもありなんということだ。ここからもこの国でリスクを冒しながらも新しい技術や産業が創出されてこない理由が見える。ラピダスはベンチャー企業ではないのだ。
以上から、歴史に学んだとおり北海道は明治以来、いつまで経っても内国植民地の様相だということがあらためてわかった。そして今、道内の大学など東北の大学と協力して有為な人材を有望な就職先としてのラピダスに送り込もうとしている。学生はラピダスの本質をよく理解してから進路を考えるべきだと考える。