晴走雨読

晴耕雨読ではないが、晴れたらランニング、雨が降れば読書、きままな毎日

森まゆみ 『暗い時代の人々』

2020-09-16 14:40:54 | Weblog

スガスガしいスタートの日だ。スッカスカ内閣の誕生である。彼は、ボキャ貧のためかビジョンを語らない。電話料金など2,3の個別政策はあるようだ。「暗い時代」を生きてきたわけではないだろうが笑顔が下手だ。陽の射さぬ沼の底で死んだ両生類が放つような臭いがしてくる。

 

『暗い時代の人々』(森まゆみ著 亜紀書房 2017年刊) 

友人が貸してくれた。森作品は初めて。森氏は僕と同じ1954年生まれ。

「書名はハンナ・アレントの作品『暗い時代の人々』から取られて」いて、著者は「満州事変(昭和6年)から太平洋戦争終結(敗戦だろ!)(昭和20年)にいたるまで」を「暗い時代」と捉える。本書には、「大正から戦前・戦中にかけて、暗い谷間の時代に流されず、小さな灯火を点した人々」、「最も精神の抑圧された、1930年から45年の「暗い時代」に、「精神の自由」を掲げて戦った人々のこと」が記されている。そして、その「暗い時代」にあっても「精神の自由」のために闘った人々として、斎藤隆夫、山川菊枝、山本宣治、竹久夢二、九津見房子、斉藤雷太郎と立野正一、古在吉重、西村伊作の人生を取り上げる。

アマゾンのレビューでは、「勇気づけられた」、「見習いたい」、「私もかくありたい」・・と評価が高い。しかし、僕は本書に対して既読感を持った。この国が戦争へと突き進んだ「暗い時代」にあっても、反戦、反軍、反ファシズム、反差別(母性保護)、反天皇制・・を掲げて闘った社会主義者、無政府主義者(アナーキスト)、自由主義者、左翼文化人らの生き方は正しくそして尊く、私たちも学ぶべきだというこのパターン化されたストーリーには食傷気味だ。類書を随分と読んできたが価値観が共通している。

僕は、以下のような問いを持ちながら、別の読み方が可能ではないかと考えた。なぜ、彼らは信念を持って「自分たちは正しい」と言っているのに大衆に影響力を拡げることができずに孤立して行き詰ったのか。そこには「闘った人々」の意識が高くて、疑問を持たずに時流に流されていった大衆は劣るという思想がないか。果たしてその当時の大衆は本当に「暗い時代」だと感じていたのだろうか。「暗い時代」と捉え「闘った人々」と大衆の感覚の間に乖離があったのではないか。あったとすれば、なぜ離れたのだろうか。

著者が本書を書いた理由は、現在に対する危機感、今生起している様々な事象に対して警鐘を鳴らすべきと考えているからなのだろう。僕も概ねその考え方に同意したい。だが、問題は「暗い時代の人々」を称賛するだけでは、再び「暗い時代」と同じような結末になってしまうのではないかと思われる。僕ら大衆は、会社や組織、地域という現実社会の中で長い時間生きてきた。よりましな選択があるのにどうしてと感じたこともあるだろう。自分の考え方が受け入れられたこと、我慢したこと、自分の内にだけ収めたこともあるだろう。大衆はそうやって生きている。大衆のひとりとして、世間という空間の中で、常識という仕切りの中で生きている。理想を語るだけでは影響力を持てないということを大衆は知っている。

政治家、評論家、学者、思想家、作家、芸術家など危機感を深める人たちは、大衆が何を抱えて生きているのか、大衆に学んでほしい。もはや啓蒙・啓発スタイルは通用しない。

 

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「経済クラッシュ」ノオト その10 これまでのまとめ     

2020-09-02 13:52:41 | Weblog

「・・だよね」の石破、「うんと―、エッと―・・」の岸田、「・・いずれにしましても」の菅。アへの腹は岸田にして院政を敷きたかっただろうに。菅はボキャ貧だからボロが出ないうちに早期解散、総選挙。菅短命政権の後は?僕は、緊縮財政をやれという意味ではなく、「財政規律」を意識できる人が出てこないと、この国はいずれ「経済クラッシュ」を招くことになると考える。

 

「経済クラッシュ」ノオト その10 これまでのまとめ

「雨にぬれて ひとり紫陽花 凛と咲く」と書いて、6月初めから続けてきた「経済クラッシュ」ノオトだが、最近になって週刊誌の見出しに「預金封鎖」という文字が載るようになり、これが敗戦時の昔話ではなくなってきていると感じる。以下、これまでの簡単なまとめを載せる。また、違った角度から学んでいきたい。

 

○きっかけ コロナ禍における赤字国債の増発(70兆円)⇒敗戦時

・GDP(2018)534兆円 政府債務残高 1,302兆円 2.37倍(世界一)

 

○巨額な戦費

・日清戦争2億円、日露戦争18億円、第1次世界大戦(シベリア出兵まで)15億円、日華事変(勃発から2年で)73億円、大東亜戦争(アジア・太平洋戦争)2,217億円(参考④)

 

○戦費調達⇒貯蓄、戦時国債

・1938(昭和13)年、政府「国民貯蓄奨励に関する件」決定。(日中戦争)

・1941(昭和16)年、戦時立法「国民貯蓄組合法」成立。

・『報国債券』として国債も小口化し、国民に購入を強制した。

・1942年、日本銀行法制定。日銀は政府が発行する国債を引き受け、戦争のための資金を無制限に供給することになった。(参考⑤)

・(敗戦時に誓った禁じ手!)赤字国債の発行、国債の日銀引き受け

 

○敗戦―預金の引き出し モノ不足 ハイパーインフレ

・1945(昭和20)年、敗戦と同時に国民が預金引き出し。(参考⑤)

 

○政府の戦時補償債務

・戦時補償債務は、軍事産業への未払金やリストラ資金、軍人復員手当、戦争保険への支払いなど約1,000億円、国民が購入した「戦時国債」2,000億円(参考①)

・大日本帝国の国債と借入金も含めた政府債務残高は、1944年度末時点でGDP比約267%に達していた。(参考③)

 

○新円切換⇒預金封鎖⇒財産税徴収

・(1946.2.17ラジオ)大蔵大臣渋沢敬三の声明「2月26日までに貯金された貯金、預金、信託などは、一家の世帯主が300円、その他の方は一人100円までの払出しを認めるほかは、原則として当分の間、自由な払出しは禁ずる。(預金封鎖)いままで使用してきた百円以上のお札は3月2日いっぱいですべて無効になる。(新円切替、旧券無効)」(参考①)

・(2024年紙幣変更予定、1万円札は渋沢栄一に、5千円札は津田梅子、千円札は北里柴三郎、注視!)(参考③)

・タンス預金などすべての現金(貴金属は除く)を強制的に金融機関に預け入れさせ、名寄せにより残高調書を税務署に提出する。税務署が財産税徴収のための財産調査を終了した段階で一定期間を経て自由に新円によって預金の払出しができる。(財産税徴収)(参考①)

・(マイナンバーによる紐づけに注意!)

 

・1946.2.17に3つの法律「金融緊急措置令」、「日本銀行券預入令」、「臨時財産調査令」を(天皇の緊急)勅令として公布、即日実施。(参考①)

・勅令(国会審議無し)第83号 「金融緊急措置令」では、1946年2月17日現在であらゆる金融機関の預金を封鎖し、その支払いを原則として停止、毎月の生活資金(1世帯当り世帯主300円、世帯員1人当り100円、定期的給与500円)と事業資金に対してのみ、封鎖小切手による支払いまたは現金支払いを認めたものである。(参考①)

 ・勅令第84号 「日本銀行券預入令」では、10円券以上(後に5円券も)の既発行券の強制通用力を3月3日以降喪失させた。そして、3月7日までに旧券を金融機関に預け入れさせ、封鎖預金と同様の取扱いを受けさせようとした。新券は2月25日以降発行し一定の金額に限って引換えを認められ、「金融緊急措置令」の限度内で3月以降引き出させる現金はすべて新券で支払われるものとした。(参考①)

・勅令第85号 「臨時財産調査令」。この法律は戦時利得の排除、国家財政の再建、国民経済の安定等を目途とする新税の創設及び確保にあった。この財産調査令の狙いは、将来実施を予定される財産税の準備として旧券の強制通用力が消滅する3月3日午前零時における預貯金、有価証券、信託、無尽、生命保険契約などの金銭的財産の申告を4月2日限り金融機関を通じまたは直接税務署に提出する義務を負わせるものであった。(参考①)

・財産税は国民の資産に課税する税金だ。政府は資産額に応じて14段階の税率を設定した。例えば、1500万円超90%、500万~1500万円以下85%、300万~500万円以下80%、150万~300万円以下75%、100万~150万円以下70%・・10万円25%・・(参考③)

 

・大蔵大臣渋沢敬三の言葉「(日本国民は)昨日まで1億人戦死と言っていた。皆いっぺん死んだと思って、相続税を納めても悪くないじゃないか。国の再出発のためには借金をきれいにしなくては」、意を受けて策を練ったのが主税局長の池田勇人だった。国民の財産を正確にはかるため、家庭にある紙幣を預け入れさせる。タンス預金を防ぐため、旧円を無効にする。把握できた預金から財産税を徴収する・・。一網打尽の作戦だった。(参考⑤)

・東京都内田イネ(77)「預金封鎖が父を変えてしまった。」雪深い青森県で育ったイネ。漁師の父親は酒もたばこもやらず、こつこつと貯金し続け、「戦争が終ったら、家を建てて暮らそう」と言っていた。だが、財産のほぼすべてを失った。やけを起こした父は海に出なくなり、酒浸りに。家族に暴力も振るった。(参考⑤)

 

(参考)

①『預金封鎖』(荒和雄著 講談社 2003年刊)

②『戦後日本経済史』(野口悠紀雄著 新潮選書 2008年刊)

③『コロナショック』(山田順著 Mdn新書 2020年刊)

④『戦争ができなかった日本―総力戦体制の内幕』(山中恒著 角川Oneテーマ21 2009年刊)

⑤『人びとの戦後経済秘史』(東京新聞・中日新聞経済部編 岩波書店 2016年刊)

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