晴走雨読

晴耕雨読ではないが、晴れたらランニング、雨が降れば読書、きままな毎日

朝倉喬司 『戦争の日々(上・下巻)』 その3 厚生省の起源 

2020-11-30 09:36:06 | Weblog

なぜ今ごろになって桜が咲くのか?この間の大きな変化は、この国の宗主国である米国でバイデン政権への移行が始まったこと、そしてその意向が検察を動かしていると推察する。米国では、アへ(スカ)=トランプの関係の見直しに着手し始めたのだろう。では、バイでンは誰を選ぶのだろうか。僕は、先週の羽鳥慎一モーニングショーでテレ朝社員の玉川徹氏が「検察に期待したい」と発言したときにピンときた。検察の本質は正義の具現者などではなく、所詮岡っ引きなのに。

 

『戦争の日々―天皇から娼婦まで、戦時下日本の実況ドキュメントー(上・下巻)』(朝倉喬司著 現代書館 2009年刊) その3 厚生省の起源  

スカ首相が宣う「国民の命と暮らしを守る」。僕は、国民の健康を増進するのが厚生労働省の役割と思っていたのだが、そもそも(旧)厚生省なる役所は、良い兵士の生産という目的からスタートしていた。

(上巻88Pから要約引用)「厚生省は、陸軍が内閣に提案して1938(昭和13)年に体力局、衛生局、予防局、社会局、労働局の5局をもって創設された。その中で最も重視されたのは『国民体力の増強』を目指した体力局だ。同省は、1939(昭和14)年に『国民体力法』を制定し、翌40年に17歳から19歳の男子に、身長、体重、胸囲、精神知能検査、疾病検査(花柳病、結核等)、体質、畸形、不具などの項目の体力検査を実施した。その結果、病気や劣等性ありと認められた者には、治療、矯正のための施設利用が命じられた。」

当時は、兵隊として有用かどうかの一点で人を評価していた。徴兵検査(20歳)前の男子の体力を検査する目的は、兵士の予備軍をいかに鍛え上げるかだったのだろう。しかし当時は欧米人と比較するとあまりにも体格が貧弱だったのは明白だ。さる高貴な御方とマックアーサー氏の並んだ写真が如実に語る。そうなると残された強みは、大和魂、武士道精神を持ってすれば必ず勝てるという根拠もない精神力だった。

(上巻90P)「同じく1939年には、厚生省は『国民職業能力申告令』、『国民徴用令』を公布した。前者は、鉱工業や輸送業に関わる専門技能を持つ国民を登録し一朝有事が発生した場合に動員するために予めデータベースを準備したのだ。後者は、国の行う総動員業務に対し、厚生大臣が就労を命じることができるというものであった。召集令状の労働版だった。」

さらに、「1940(昭和15)年には『国民優生法』が公布された。悪質の遺伝性精神病者、同精神薄弱者、同病的生格者、同身体疾患者、同畸形者の本人、両親、配偶者などから優生手術の申請があった場合、妥当性を判断し知事の名において必要なものは断種を行うとした。」

さきに書いた「赤紙」のシステムを効率よく動かすためには、予め国民に係る個人情報を収集しておき、即座に国家が召集(軍、労働)を命じることができる体制を作ったのだ。そこには弱者の保護や差別を排除するという視点はなかった。

 

 

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朝倉喬司 『戦争の日々(上・下巻)』  その2 怪傑ハリマオ 

2020-11-24 16:06:30 | Weblog

めっきりと人との交流が減って閉塞感に包まれているコロナ禍生活だが、少しいいなと思うこともある。ひとつは、予定というものが無い生活、家の中でじっくりと本を読んだり、考えごとをしたりほぼ自分のペースで時間を使えることだ。もう一つは、もしコロナが無かったら、この夏は「ニッポン、ニッポン」という国威発揚のカラ騒ぎがあり、その余韻に乗じてアへが今ごろ憲法改悪を発議していた可能性があったのではないかと思うことだ。スカにその力も無いし、彼には誰も期待しなくなっている。

 

『戦争の日々―天皇から娼婦まで、戦時下日本の実況ドキュメントー(上・下巻)』(朝倉喬司著 現代書館 2009年刊) その2 怪傑ハリマオ

長年に渡って知りたいと思っていた疑問がもう一つ解決した。小学生の頃放映されていたテレビドラマ『怪傑ハリマオ』。アンコールワットのような石崫が主な舞台で、日本人青年のハリマオが現地の人たちとともに悪人たちと闘うストーリーだった。ただ、ハリマオ自身にも悪党の雰囲気があり、なぜ彼が現地で何のために誰と闘っているのかが子どもの僕には今ひとつ理解できなかった。

(下巻42Pから要約引用)「1942(昭和17)年4月3日『読売』社会面トップに『翻然起つ祖国の急 義賊“マレーの虎(ハリマオ)” 死の報恩・昭南に薫る』の見出し。マレー作戦から帰還した藤原岩一少佐が語る陣中秘話が掲載されている。」著者は、これが『怪傑ハリマオ』の原型という。

「大東亜戦争の火蓋が切られる直前、某任務を帯びて南泰(タイ)を国境へ急ぐ藤原少佐。藤原(F機関)の『某任務』とは、タイに拠点があったインド独立連盟(IIL)との連携による英軍編入インド兵の寝返り工作(インドへの独立支援)。彼は一人の日本人と出会う。その名は、福岡県筑紫郡日佐川村五十川出身の谷清吉の息子、豊。豊の両親は大正初年ころ北部マレーのコタバルに移住。豊はそこで成長したが、満州事変後にマレーを襲った華僑の排日ボイコットで8歳になる妹を殺され、両親は帰国。マレーに残った豊は『復讐の鬼』となって『悪の道に踏み込み、強大な強盗団を組織しケランタン、バハン両州を荒し廻った。しかし、彼は決して良民を襲わず常に英人と華僑を襲撃し』虎王(ハリマオ)と称された。そして、藤原の指揮下に入り、インド兵の宣撫、反英的マレー人の組織化、鉄道破壊、後方攪乱などの活躍をしたが、マラリアに犯され、シンガポール陥落の翌日、藤原の手を握りながら亡くなった。」とされる。

ハリマオには実在のモデルがいて、アジア・太平洋戦争中の出来事であったことがわかった。そして、彼は、妹を殺した華僑に対して私怨を抱いていて、日本軍が進めていた英国植民地からのインド独立工作に義を感じていたのだ。ではなぜ藤原を信じたのか。当時の日本軍指揮官の中には、軍の戦略上の独立工作命令の枠を超えて、本気でアジアの植民地を欧米列強から独立させるために動いた人もいた。藤原少佐もそのひとりであったのであろう。だからハリマオが藤原のために本気で働いたと想像する。

 

まっかな太陽燃えている 

果てない南の大空に 

とどろきわたる雄叫びは 

正しい者に味方する 

ハリマオ ハリマオ 

僕らのハリマオ

 

 

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朝倉喬司 『戦争の日々―天皇から娼婦まで、戦時下日本の実況ドキュメントー(上・下巻)』 その1 「赤紙」のシステム    

2020-11-20 16:12:23 | Weblog

鹿肉!

磯田佳孝氏の『消えた道銀』(北海道新聞20.10.22夕刊「今日の話題」)が鋭い。スカ政権が進めようとしている地方銀行の統合政策は、戦時下の「一県一行主義」で旧道銀などが拓銀一行に統合された歴史を思い起こすと指摘。(以下、引用)「時の蔵相は『銀行がたくさん並んでいる結果、競争的になり、ついには不完全な貸し出しをする』ためと議会で説明した。だが、実態は軍備拡充のため、国債増発の引き受けと預金吸収を目的に、各地で強力な中心となる銀行が必要になったようだ。」。僕は、「経済クラッシュ」ノオト(20.6.4~9.2)でも書いたが、戦費調達と国家債務解消のために、貯蓄奨励、国債強制引き受け、預金封鎖、財産税賦課・・というかつての歴史を忘れてはならない。

 

『戦争の日々―天皇から娼婦まで、戦時下日本の実況ドキュメントー(上・下巻)』(朝倉喬司著 現代書館 2009年刊) その1 「赤紙」のシステム  

近くの図書館から何気なく借りた本だったのだが、読み始めると一気に引き込まれた。1938(昭和13)年の南京陥落から1941(昭和16)年12月の日米開戦、そして1945(昭和20)年8月の敗戦までの歴史を、新聞、雑誌や日記などに残された記録から当時の人々の日常生活や気持ちを中心に丁寧に描かれている。

感激なのは、長年に渡って知りたいと思っていた疑問のうちのひとつが解けたことだ。

それは、国民の中から誰を召集するかを決めるのはどこの機関なのかということだ。すなわち「赤紙」のシステムだ。最後に国民のところに配達するのは全国の市役所、町村役場の兵事係の役目ということは、映画やドラマでもお馴染みだ。

(上巻82Pから要約引用)「陸軍の場合、参謀本部が年次ごとに動員計画を作成し、天皇に上奏し『御名御璽』入りの允裁(いんさい:許可)得る。この計画に基づいて各地の師団司令部が、どの部隊にどのような(年齢、階級、健康状態、特権技能等を考慮)人員を何名配置するかを具体的に決めて、各道府県の連隊区司令部におろす。ここには管轄地域内の市役所、町村役場から提出させた『在郷軍人名簿』が保管されていて、この名簿からピックアップする。ここで初めて、赤紙が誰に届けられるかが決定される。」ということだ。

今、国民生活に係わる様々な制度が戦前・戦中のように変えられてきていると感じる。この国が戦争のできる国家へ向かっていることに危惧を覚える。スカ政権のデジタル化政策もそのひとつだ。一例をあげると、マイナンバーカードが健康保険証としても使えるようになることを、これで手続きが楽になると手放しに喜べないだろう。個人の健康状態が国によって管理され、それは兵隊として有用な人間かどうかの重要な情報になるからだ。

(上巻83P)「在郷軍人名簿からの選考と同時に参謀本部は再び天皇に『動員実施』を上奏して許可を得る。そして赤い山型の印が押された赤紙の入った封筒は警察を通じて各市町村に届けられる。参謀本部の決定から数時間後のことだそうだ。各市町村の兵事担当は赤紙を配り終えると、その業務終了時刻の軍への報告、さらに入営する兵の身上調査書、戸籍抄本を軍に提出する。身上調査書には、本人の日頃の評判、家族関係、資産(田畑の面積、家屋の規模)、職歴、宗教、特に海軍では家族も含めた思想・運動関係の有無、血族の犯罪歴、精神疾患などが記載されていた。」

書かれていたのは陸軍の例だが、海軍はどうしていたのか。召集される国民がどのようにして陸軍と海軍に分けられるのか。徴兵検査はどこの機関が実施したのか、不公平な徴兵などがあったと聞くがそれは真実か、など新たな疑問が次々と湧いてくるがこれらについては後日ゆっくり調べたい。

 

 

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伊藤邦武他責任編集 『世界哲学史6-近代Ⅰ啓蒙と人間感情論』②「国家を考える」ノオト その3 

2020-11-10 09:59:18 | Weblog

僕らホモサピエンスがアフリカ大陸で誕生したのが20万年前、その一部がアフリカを出たのが10万年前。農耕・牧畜を始めたのが1万年前。いわゆる核のゴミを10万年間埋設するという。今生きている人間の想像を超える時間の長さだ。その間の海面、火山、地震、地殻などの変動は予測できない。穴を掘って埋めるというのはいかにも原始的だ。技術を持ち合わせていないのならば急ぐことはない、じっくりと原発廃炉や核廃棄物処理の技術開発に向き合うべきだ。「脱原発」を唱えても目の前にある現実は変わらない。

 

『世界哲学史6-近代Ⅰ啓蒙と人間感情論』(伊藤邦武他責任編集 ちくま新書2020年刊)② 「国家を考える」ノオト その3

前回はホッブズの自然状態『万人の万人に対する戦争』を取り上げたが、同じく第3章「社会契約というロジック」(西村正秀)では、それとは異にするルソーの考え方を解説している。

ルソーは『人間不平等起源論』(1755年)で、(P89)「原始状態(自然状態)では、人間は言語も生活技術も住居も持たず、孤独に森の中をさまよう自由な存在者である。(狩猟採集生活)人間の行動原理は自己愛と憐れみという感情であり、前者は自己保存へ、後者は自己保存の欲求の緩和へと行為を向かわせる。ルソーはこれらの感情を『自然の徳』として肯定的に評価している。原始状態では人間は平等であり善悪も持たず、社会性は欠くが他人と争いもおこさない。」

「だが、人口が増えだすと人々は他人との交流が増え、理性が発達し始めて、共同作業を行う段階に移行する。やがて共同体が形成されるが、ここでは各人が互いを評価し、自尊心という感情を持ち始める。そして、農業や冶金を行い、土地を分配して財貨の私有を始める。私有は不平等を招き、人間同士の争いを激化させる。」

「それを回避させるために統治機関が社会契約によって作られるが、これは富者が貧者をだまして私有と不平等を法律で固定する契約である。この社会は最終的に専制主義となり、人々は支配者に服従するだけの奴隷状態に陥る。」と。

ルソーは自然状態を肯定的に評価したが、その後の人間同士の争いを回避するために社会契約によって統治機関を作るというところはホッブズと同様の議論だ。その結果、人々は奴隷状態に陥ると危機感をあらわす。では、「どのような社会ならば人間は奴隷状態に陥らずにすむのか。」ルソーは人間の自由、自己決定の自由を社会契約において死守しようとした。

以上、ホッブズ、ルソーの考え方を踏まえて人類史を学んでいきたい。

 

 

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