年寄りのひがみを一言。今月、コロナウィルスに罹患して亡くなる国民は1,000人に達するだろう。マスコミは「基礎疾患のある高齢者が死亡者の大半である」という。言外に「だから仕方がないのだ」という声が聞こえる。基礎疾患のある者、高齢者は社会のお荷物ということなのか。介護、医療、年金などの負担が軽くなるから黙殺?
『私の消滅』(中村文則著 文芸春秋 2016年刊) 宮崎勤 精神分析
放送大学の2学期試験をえたので、苦手な小説を読んでみようと近くの図書館に行く。中村文則氏の名前は最近の新聞で時事問題について発言していたような気もして少し古いが『私の消滅』を借りる。
結論を言うと、わかったような、わからなかったような、僕には入り込めない小説だった。僕の能力が足りないせいだろうが、ストーリーを追えない。後戻りして読みなおそうとも思わなかった。
中村氏は、精神病や精神分析の知識、過去の犯罪分析などを交えながら本書の中でこんなことを言っているようだ。
私って誰なのか、またあなたって誰なのか。私が私であるのは私が私と思っているから。ではどうして私は私と思っているのか。それは、私の中に過去の私の記憶があるから。では過去の記憶を変えれば、私は私でなくなるのだろうか。私はあなたになり、あなたが私になることができる。こんな難題を解こうとしてこの物語を展開したということなのだろう。(誤読ならご指摘を願いたい。)
僕はどうしてこの物語に没入できなかったのだろうか。ひとつは、中村氏の著作に『教団X』(未読)があるのでもう少し社会派的なテーマを扱っているのかと一方的な期待を持ったこと。あとは、本筋を補強する人物や情景の描写が淡泊で、登場人物たちそれぞれの個性が出ていなかったこと。また場所や季節、温度、昼夜など情景のイメージが湧いてこなかったことがある。
「私って誰なのか」を問うことは壮大なテーマだと思う。これを考えるなら、僕には違うフィールドの方がピタッとくる。哲学、倫理学、宗教学などの普遍的なテーマだからだ。難解ながらも自分がそこに入り込んで格闘してみようと思うから。