『社会力を育てるー新しい「学び」の構想』(門脇厚司著 岩波新書 2010年刊)
著者は、本書で「人と人とがつながり、社会をつくる力」を「社会力」として提唱し、いま互恵的協働社会の実現に向けて、地域や学校で社会力を育てる必要性を説き、学力重視の教育からの転換を提案する。
一見すると、「社会力」を向上させることは非常に前向きで「より良き事」に思われるが、「社会力」の内実が何も語られていない。近年、例えば教育力など○○力なる言葉が流行っているように感じるが、これらは内容の無い空虚な言葉である。
著者の門脇氏は、1940年生まれで筑波大学学長も歴任され、岩波書店や亜紀書房から著書を出版しているところを見ると、教育界の重鎮でリベラル派を代表するような学者と思われる。しかし、著者の考えとは正反対で、著者から見ると対立するような価値観による以下のような言説とどこも違わないように感じる。否、著者の言説には、個人を疎んじる全体主義への危険な要素が見られる。
自由民主党国家戦略本部第6分科会(教育)(平成23年7月19日)から
自由民主党は、以下の4点を教育再生の基本的考え方において、今後の改革を進めていく。
○わが国の特質である「和と絆」を大切にしつつ、グローバル化時代に対応した教育を展開 *他は省略
自由民主党 平成22年(2010年)綱領から
三、我が党は誇りと活力のある日本像を目指す
① 家族、地域社会、国への帰属意識を持ち、自立し、共助する国民
② 美しい自然、温かい人間関係、「和と絆」の暮らし
以下、省略
「和と絆」、「共助」と「社会力」は、内実の無い空虚で何も語っていない言葉であるが、共に誰も反対しない言葉である。そのため、スローガンとして掲げられやすく、全てを飲み込む鵺のような言葉である。
これでは、吉本隆明の教師論、教育論を乗り越えることはできない。(『子供はぜーんぶわかってる 超「教師論」・超「子供論」』(聞き手 向井吉人、尾崎光弘 批評社 2005年刊)