『初期歌謡論』(吉本隆明著 河出書房新社 1977年刊)
2012年3月16日、吉本隆明が亡くなった。年初は『情況への発言』から始まった。大晦日の今日、『初期歌謡論』を読み終えた。吉本に始まり吉本に終った1年であった。
この『初期歌謡論』は、古書店の500円均一ワゴンの中に無造作に積まれていた中から見つけた。当時の定価で1,800円、箱入りのかなり高価な書籍だったはずである。
私にとって本書は、超難解であった。著者の意図の半分も理解できていないであろう。ただ、歌の持つ情の部分は、今も昔もそれほど変わらず、この国の感性として、この国の人々の心中に連綿と繫がっていることがわかる。
本書の構成は、「歌の発生」「歌謡の祖形」「枕詞論」「続枕詞論」「歌体論」「続歌体論」「和歌成立論」である。古代歌謡から「万葉集」を経て、「古今」、「新古今」に至る和歌の成立過程を分析している。
詩歌の起源をたどることから始まり、次に、枕詞に注目し、歌の中に出てくる二重地名のうち一つは枕詞で、一つが地名、ここから先住の人の地名に、移住してきた人の地名が重ねられたことを解き明かす。次に、歌体に着目する中で、平安朝までに今の短歌の形式(五七五七七)になっていくが、元の歌が後年になって別の作者によって上の句を足されるなどして改竄されていることも明らかにしている。
これは、吉本が別のところで言っている、いわゆるグラフト(接ぎ木)国家論の現れ、横合いから来て権力をかっさらう、その際に後者が前者の歴史をあたかも連続的に存在したかのように書き換える、これが詩歌の歴史にも現れていることがわかる。(記紀においてそれ以前の歴史を天皇制の歴史に書き換えたとされる。)
(ノオト本書の中にある年表から抜粋
古事記(712年)太安万侶(おおのやすまろ)によって献上。日本最古の歴史書。須佐之男命が櫛名田比売と結婚したときに歌い、和歌の始まりとされる「八雲たつ 八雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を」、倭建命が東征の帰途で故郷を想って歌った「倭は国のまほろば たたなづく青垣 山隠れる 倭し うるわし」などがある。
日本書紀(720)舎人親王らの撰、奈良時代の歴史書。
懐風藻(751)。
万葉集(770)最古の和歌集、大伴家持による編集が有力、竹取物語の原型が載っている。
続日本紀(797),文華秀麗集(818)、日本後記(841)、続日本後記(869)、在民部卿家歌合(880)。
竹取物語(890?)最古の物語、作者不詳。
菅家文草(900)、菅家後草(903)。
古今和歌集(905)、平安時代の勅撰和歌集、醍醐天皇の勅命による、撰者は紀友則、紀貫之、凡河内躬恒、壬生忠岑の4人。
新古今和歌集(1205)鎌倉時代初期、後鳥羽上皇の勅命によって編まれた勅撰和歌集、源通具・六条有家・藤原定家・藤原家隆・飛鳥井雅経・寂蓮が選者。