NHK-Eテレ『100分de名著』はイケてる番組だと思います。9月からテキストを買って視聴しています。これまでハンナ・アーレント『全体主義の起源』、親鸞(唯円)『歎異抄』、ラッセル『幸福論』、スタニスワム・レム『ソラリス』を勉強しました。原文を読むレベルまではいきませんが、概説としては良くできていると思います。新しい年は、西郷隆盛『南洲翁遺訓』から始まるということで楽しみにしています。2017年もこのブログを読んでいただいた方、ありがとうございました。良いお年をお迎え願います。
『列島語り 出雲・遠野・風土記』(赤坂憲雄、三浦祐之著 青土社 2017年刊)
この国の将来を見通すには、その成り立ちを知る必要があると思う。A点を始点として、B点を通り、終点Cに至るベクトル線を頭の中に描くとする。この国は始点Aの位置がぼんやりしていて定まっていない。そのため通過点Bである現在という位置もあいまいであり、まして未来の終点Cがどちらの方向でどこに位置するかがわからないのだと思う。しかるに、歴史の初源を探す旅、それは物的証拠とともに柔軟な想像力が必要となる。始点Aが見えない理由のひとつは、あったであろう事実としての神話が、その後に成立した天皇制、それを正統化するための『日本書記』に代表される歴史の改ざんにあると言われている。
本書は、東北学を提唱し、東北という定点にこだわりながら、『遠野物語』などを手掛かりにその初源を考え続けている赤坂氏と、記紀神話という括りを分断し、『日本書記』とは異なる事実が書かれている『古事記』を研究対象としながら独自の歴史観を構築しようとしている三浦氏の、列島俯瞰歴史超越型の対談集である。出雲地方、『遠野物語』、『古事記』、『風土記』、海の道とテーマは多岐に及び、読者の想像力を刺激する内容となっている。
読者自身の醗酵を必要とする書物があると思う。僕は、基本的な知識不足で本書で語られていることについて未消化な部分も多く残ったが、何年かあとに、僕自身がもう少し醗酵してから是非再読したいと思っている。その時には、「ああ、こういうことだったのか」と改めて理解できることも多くあるのではないかと思っている。
僕は本書で一番印象に残ったのは、この列島の海岸線が、潟が連続してできているという指摘だ。リアス式海岸のような崖が続いているのはない。近世の終わりの人口は約3千万人。それが現在は1億2千万人。そこで潟や沼、湿地を埋め立てて平地を造り僕らは生活をしている。そのことを思い知らされたのが津波被害であった。人口が8千万人に減少すると言う将来、今の街の拡がりを維持する必要があるのだろうか。