晴走雨読

晴耕雨読ではないが、晴れたらランニング、雨が降れば読書、きままな毎日

赤坂憲雄、三浦祐之 『列島語り 出雲・遠野・風土記』

2017-12-27 15:32:30 | Weblog

NHK-Eテレ『100分de名著』はイケてる番組だと思います。9月からテキストを買って視聴しています。これまでハンナ・アーレント『全体主義の起源』、親鸞(唯円)『歎異抄』、ラッセル『幸福論』、スタニスワム・レム『ソラリス』を勉強しました。原文を読むレベルまではいきませんが、概説としては良くできていると思います。新しい年は、西郷隆盛『南洲翁遺訓』から始まるということで楽しみにしています。2017年もこのブログを読んでいただいた方、ありがとうございました。良いお年をお迎え願います。

 

『列島語り 出雲・遠野・風土記』(赤坂憲雄、三浦祐之著 青土社 2017年刊)

この国の将来を見通すには、その成り立ちを知る必要があると思う。A点を始点として、B点を通り、終点Cに至るベクトル線を頭の中に描くとする。この国は始点Aの位置がぼんやりしていて定まっていない。そのため通過点Bである現在という位置もあいまいであり、まして未来の終点Cがどちらの方向でどこに位置するかがわからないのだと思う。しかるに、歴史の初源を探す旅、それは物的証拠とともに柔軟な想像力が必要となる。始点Aが見えない理由のひとつは、あったであろう事実としての神話が、その後に成立した天皇制、それを正統化するための『日本書記』に代表される歴史の改ざんにあると言われている。

本書は、東北学を提唱し、東北という定点にこだわりながら、『遠野物語』などを手掛かりにその初源を考え続けている赤坂氏と、記紀神話という括りを分断し、『日本書記』とは異なる事実が書かれている『古事記』を研究対象としながら独自の歴史観を構築しようとしている三浦氏の、列島俯瞰歴史超越型の対談集である。出雲地方、『遠野物語』、『古事記』、『風土記』、海の道とテーマは多岐に及び、読者の想像力を刺激する内容となっている。

読者自身の醗酵を必要とする書物があると思う。僕は、基本的な知識不足で本書で語られていることについて未消化な部分も多く残ったが、何年かあとに、僕自身がもう少し醗酵してから是非再読したいと思っている。その時には、「ああ、こういうことだったのか」と改めて理解できることも多くあるのではないかと思っている。

僕は本書で一番印象に残ったのは、この列島の海岸線が、潟が連続してできているという指摘だ。リアス式海岸のような崖が続いているのはない。近世の終わりの人口は約3千万人。それが現在は1億2千万人。そこで潟や沼、湿地を埋め立てて平地を造り僕らは生活をしている。そのことを思い知らされたのが津波被害であった。人口が8千万人に減少すると言う将来、今の街の拡がりを維持する必要があるのだろうか。

 

 

 

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原武史  『〈女帝〉の日本史』

2017-12-13 15:44:53 | Weblog

富岡八幡宮の跡継ぎを巡り、復権への道を閉ざされた弟が妻とともに、姉を殺めた事件で、自刃した弟の遺書に「私は死後に於いてもこの世に残り、怒霊となり、私の要求に異議を唱えた責任役員とその子孫を永遠に崇り続けます。」とあった。神社は通常願いを祈る場所だが、呪詛をかけるのに適した神社があるのだろうかと思って調べてみたら、ネットで貴船神社が出てきた。縁結びの神社は、逆にマイナスの縁も結ぶということだそうだ。

 

『〈女帝〉の日本史』(原武史著 NHK出版新書 2017年刊) 

著者には、類書として『皇后考』(講談社 2015年刊)がある。(僕は2015.10.7、16、23、25にブログで取り上げた。)著者は、2016.8.8の「天皇陛下のおことば」中の「このたび我が国の長い天皇の歴史を改めて振り返りつつ」という言葉を受けて前近代を含む天皇の歴史を研究する必要性を感じたと言う。

本書は単に歴史的な事実を記した書ではない。現天皇の退位が決まり、今後の天皇制がどのような形態になるのかを考える素材になる。著者は、退位後の天皇は、上皇になるが活動が大幅に制限され摂政にはなれない。しかし上皇后は、皇后時代と変わらない活動、宮中祭祀や公式行啓も続けることができ摂政にもなれる。体調面で不安が残る新皇后の分までカバーすることで、「母」の存在感が増す可能性もある、という。歴史が警鐘を発しているといえる。

僕の天皇制についての考え方。占領軍が統治のために天皇制を残し、かつ昭和天皇を退位させなかったのは、この国における天皇制は、スローガンを唱えるだけで簡単に廃止できるような簡単なものではなく、ずっと深く根を張ったものであると捉えている。しかし、天皇家の祭祀からもわかるが、本質的には天皇は稲作文化を背景に持つ生き神様であることから、水田農業の衰退、コメの消費量の減少と歩みを同じくして、このままではいずれ衰退に向うと考える。

世界に誇る天皇制の価値が「万世一系」すなわち男系による皇位継承、男性天皇の種(たね)による継続が保たれてきたことにあるとしたら、その継承が今最大の危機に立たされている。現在の皇室には皇位を継承できる男子が4人しかいなく、いずれは悠仁親王しかいなくなる事態が想定される。女性宮家の創設は連綿と続いてきた男系男子という原理を根本から否定することになる。大正天皇までは何代かにわたり側室から生まれているが、男子の生まれる可能性を増やすため、側室制度などを導入することは、民主主義国家の手前上難しいのだろう。女性宮家の創設か、一夫一婦制の否定かの隘路に立たされている。容易な打開方法は見つからない。

12.17 ご助言により現天皇という表現に訂正しました。

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